画面の向こうで、湊は膝の上の拳を、白くなるほど握り締めていた。「莉子に、です」 雪乃は顔を上げる。「音楽で飯を食っている人間が、他人の曲を自分の名前で歌った。この仕事で一番やっちゃいけないことを、一番堂々とやったんです。しかも昨日、そのまま俺に『年末のトリを譲ってくれませんか』って言ってきたんですよ。許せません」 湊の声は低く、荒げてはいなかった。(責められるのは、私のはずなのに) 雪乃は膝の上で、左手を握り直した。「それから、桐生社長にもです」 柊也の名に、左手がぴくりと動いた。「あの人は、この業界で何人ものミュージシャンを預かる側の人間でしょう。莉子が誰かの曲に手を出しかけたら、本来は止める立場のはずです。それなのに、自分の手で持ち出して、渡した」 湊は短く息を吐いた。「曲が似てしまうことは、この仕事をしていればあります。俺だって、どこかで聴いた曲に似てると言われたことは何度もある。でも、データごと持っていって別の人間の名前で出すのは、それとは全然違います」 そこで湊は、言いにくそうに目を逸らした。「それに、悔しいけど、あの曲はいい曲でした。売れると思った。先輩の曲なんだから、当たり前なんです。それが他人の名前で売れていくのが、一番腹が立つ」『私が、不用心だったから』「そこじゃないんです」 湊は首を横に振った。「そりゃあ、用心してほしかったとは思います。でも、それより盗んだ側が悪いに決まってる。先輩に腹は立ちません」 ほんの一瞬、湊の声が掠れた。「俺が怒ってるのは、先輩が『もう曲を作るのをやめます』って言ったことです。さっき頭を下げた時の顔、『これで終わりだ』って顔でした」 雪乃は息を呑んだ。 顔に出ていたのだ。湊の目は、少しも逸れない。「俺は、先輩の曲が欲しくて頼んだんです。……まだ、歌いたいんですよ。今回の三曲だけじゃなくて、この先、先輩が作る曲も」 湊は一度口を閉じたが、すぐにまた話し始めた。「なのに、もう作らないなんて言わ
Última actualización : 2026-10-19 Leer más