「両親に孫の顔を見せてやろう」 その言葉が耳の奥に落ちた瞬間、雪乃の脳は一拍遅れて意味を理解した。 理解した途端、視界の端が白く霞む。 背中に触れる柊也の掌の熱が、服越しにもかかわらず酷く熱い。雪乃の背中に嫌な汗が流れた。 柊也の胸を押している右手の古傷が、まるで「逃げられない」と告げるように疼いた。「孫の顔を見せれば、母さんはおとなしくなるだろうし、父さんも跡継ぎができたって喜ぶと思うんだ」 柊也は雪乃の首筋に顔を埋め、柔らかな唇で触れてくる。ぞっ、と全身の肌に鳥肌が立った。「年老いた両親を喜ばせよう――前回は駄目だったが、今回は分からないだろ?」(……嫌……っ) 月のものだという言い訳は、二度目は絶対に通用しない。 雪乃はホテルの時のように、必死の思いで柊也の顔を両手で掴み、まっすぐに彼の目を見つめた。『莉子さんがいるのに、いいの?』 唇をはっきりと動かす。読んでくれ、理解してくれ――と心の中で切実に願う。 しゃくだけれど、今は彼女の存在すら言い訳にして、この手から逃れようとするしかなかった。 だが、柊也はどこまでも余裕そうに薄く笑うだけだった。「莉子は関係ないだろ? いくら彼女でも、夫婦の部屋には来ないさ」 通じない。雪乃は首を振り、焦燥感に駆られながら再び口元を激しく動かす。『でもっ。彼女は、貴方に会いに別荘にまでついてきたんでしょ?』「すまない。今のは読み取れなかった」 冷淡な一言とともに、体が宙を舞った。 ベッドの上に力任せに投げ出され、雪乃はうつ伏せのまま倒れ込む。 ベッドから逃げ出そうと必死に手でシーツを掴み、這うようにして降りようとした。 だが、いつまでも思い通りに開かない右手の中指が、シーツの上で虚しく滑るだけだった。力を込めるほど、古傷の疼きが鋭さを増し、指先の感覚だけが遠ざかっていく。 けれど、次の瞬間――腰にかかる重く鈍い圧迫感に、体がぐにゃりとベッドへ沈み込む。 柊也が上から跨がって
Última actualización : 2026-09-30 Leer más