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第11話

「ふふっ、澪、刑務所暮らしはどうだった?当然の報いよ!植物状態になったのに、どうして目を覚ましたの?お父さんもお母さんも、お兄ちゃんも湊も、全部私に譲ってくれればよかったのに!私は孤児で、何年も底辺で生きてきた。あなたは生まれつきのお嬢様で、何でも持ってるじゃない。どうして私に少しも譲ってくれないの?どうしてあのままベッドの上で死んで、私に結城家のお嬢様の座を明け渡してくれなかったのよ!学校の入学式で初めてあなたを見た時、私が何を考えていたか分かる?どうしてこいつばかりがこんなに愛されてるんだ、どうしてそのポジションが私じゃないんだって思ったわ!あなたなんて、ただ私より運良く良い家に生まれたってだけじゃない!」そこまで聞いて、その場にいる誰もが、この音声の主が柚奈であることに気づいた。彼女は顔面を蒼白にし、慌てて電源ケーブルを引き抜きに走った。「違う!私じゃない!嘘よ!全部作り物よ!お父さん、お母さん、お兄ちゃん、湊、信じないで!」一同が事態を呑み込めずにいる中、配達員は間一髪で電源を守り、柚奈の両腕を背中にねじり上げて取り押さえた。続いて、映像から再び鈍い打撃音と呻き声が響き出した。その音に交じり、またしても柚奈の声が流れ出す。「澪、あなたが転んで植物状態になったのは私が仕組んだのよ。あなたの身代わりを用意するよう、誰かを使ってあの人たちに入れ知恵したのも私よ。あの人たち、本当に馬鹿よね。私とあなたの顔が少し似てるからって、ちょっと真似しただけで、私をあなただと思い込んで優しくしてくれたわ。あなたが植物状態で寝たきりだったあの時間が、私にとって一番幸せだった。あなたが目を覚ましたって関係ないわ。あの人たちは私を信じてるし、私から離れられないの。適当に嘘泣きすれば、全部あなたがやったことだと信じ込むんだから。どうやら、あの人たちの中であなたの価値はその程度みたいね!じゃなきゃ、私が少し泣いただけで、あなたを刑務所に送ったりしないでしょう?」映像の中で柚奈が澪の体を踏みつける。澪は最後の力を振り絞り、決死の反抗を見せた。「違う……お父さんもお母さんも、お兄ちゃんも湊も、絶対に私を愛してる……!」それは、彼女がまだ家族を信じていたから出た言葉だったのか。それとも、単なる自分への気休めに過ぎなかったのか。
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第12話

翔は柚奈の胸倉を容赦なく掴み上げ、ありったけの力を込めて平手打ちを食らわせた。「ふざけるな、この期に及んでまだそんなでまかせを抜かすか!俺たちは馬鹿じゃない、あれが本物か偽物かくらい見れば分かる!よくも俺の妹をあんな目に遭わせたな!」強烈な一撃に顔が大きく横を向き、柚奈の口角からツーッと血が流れた。心に冷たい絶望が広がり、すべてが終わったことを悟る。その時、彼女はずっと俯いて沈黙している湊の姿に気づき、最後の一縷の望みを見出したかのように叫んだ。「湊!湊!助けて、私何もしてない、あれは私じゃないの、お願いだから信じて!お父さんたち、誤解してるの。湊から説明して!」彼女は純白のウェディングドレス姿のまま這いずり寄り、顔を血と涙で濡らしながら湊の足にすがりついた。何度も何度も、必死に哀願し続けた。だが、湊は押し黙ったままだった。婚約破棄の通告書を握りしめる彼の手は激しく震え、その瞳には危険な暗い光が宿り始めていたが、足元に這いつくばる柚奈はそれに気付かなかった。「誤解だと?……澪の体にあったあの無数の傷痕まで、偽物だと言うのか?」彼は血走った目を剥き、その表情は次第に残忍なものへと変わっていった。そして、足元の柚奈を容赦なく踏みつけ、さらに強く足を押しつけた。「いやっ……湊……」彼女は苦しそうに喘いだ。全身の骨が砕け散るかのような激痛に涙が次々とこぼれ落ちたが、もはや誰の同情を引くこともなかった。湊の眼差しは冷酷に冴え渡り、柚奈を痛めつける足を止めることはなかった。「澪があれほどの苦痛を味わったんだ。俺たちをここまで騙し通した報いだ、何百倍、何千倍にして返してやる!」静かな声が、かえって悪夢のように彼女の心臓を射抜いた。彼女は雅臣、百合子、翔の顔を順に見上げ、彼らの瞳に宿る嫌悪と憎悪を目の当たりにし、胸が大きく跳ねた。全身の力が抜け、床にへたり込む。瞳から光が消え、体はただ小さく震えるばかりだった。終わった。何もかも終わった。柚奈はもう、どうやって許しを乞えばいいのかさえ分からなかった。「結婚式は中止だ。おい、この女を警察に突き出せ!澪が味わった地獄を、こいつにも残さず体験させてやれ!」湊は冷酷に言い放ち、柚奈を八つ裂きにせんばかりの憎悪で睨み下ろした。ボディガードたちが彼女を取
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第13話

湊はこの現実をどうしても受け入れることができず、心臓を刃物でえぐられるような痛みに見舞われた。喉に綿が詰まったように、呼吸すら困難だった。どうして婚約破棄なんて。俺はあんなにも、君を愛していると言ったじゃないか!柚奈の本性にもっと早く気づいていれば、澪にこんな惨めな思いをさせることも、あんな女と偽りの結婚式を挙げることも絶対になかった。だが今となっては、すべてが遅すぎた。「澪、俺は婚約破棄なんて絶対に認めない。俺が間違っていた、どんな罪滅ぼしでもする、だが婚約だけは絶対に破棄しない!俺が同意しない限り、この婚約はまだ有効だ!」湊は婚約破棄の通告書を強く握り締め、怒りに任せて粉々に引き裂いた。雅臣、百合子、翔の3人はその様子を見て嫌な予感に駆られ、自分たちに宛てられた箱の中身を見ることを恐れた。箱の蓋はすでに開いているというのに、中身を直視する勇気すら湧かない。澪が湊を切り捨てたのだ。自分たちには一体何を突きつけてくるというのか。皆の心中に最悪の想像がよぎったが、誰もその可能性を口にすることはできなかった。耐えきれなくなった翔が、ついに自ら進み出て絶縁状を手に取った。はっきりと印字された文面は、どこまでも事務的でよそよそしく、一家が紡いできた長年の愛情を、無機質な数行の文字列で完全に切り捨てていた。末尾には、澪の筆跡でこう記されている。【私、結城澪は、結城雅臣、結城百合子との親子の縁を切り、今後一切の関わりを持たないものとします――】そこに押された鮮やかな捺印を見て、翔は全身の血が凍りつくのを感じた。「嘘だろ……澪は、俺たちを捨てるっていうのか?」彼は信じられないというように何度も読み返し、心臓を握り潰されるような息苦しさを覚えた。昔はいつも自分の背中を追いかけてきた妹が、自分たちを、そしてこの家を、永遠に捨て去ったというのだ!百合子はその絶縁状を見るなり、白目を剥いて完全に気を失った。雅臣が慌てて彼女を抱き留めたが、その深い瞳もまた、強烈な衝撃と底知れぬ悲哀に染まっていた。常に一家の大黒柱として威厳を保ってきた彼も、この時ばかりは背中を丸め、極限の疲労と孤独に打ちひしがれていた。しかし、この惨劇はまだ完全に終わってはいなかった。雅臣は急いで百合子を家に連れ帰ろうとした。「
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第14話

「消防隊がさっきその子の死体を運び出したけど、いやぁ、夢に出そうなくらい真っ黒焦げで。結城家の誰かは知らないが、あまりにも気の毒だ」「ゲストルームの方から運び出されたみたいだから、たぶん住み込みの家政婦だろう。まだ若かっただろうに、可哀想にな」……周囲の無責任な憶測が、4人の耳に容赦なく突き刺さる。黒焦げの廃墟と化した我が家を目の当たりにし、意識を取り戻したばかりの百合子は再び膝から崩れ落ちそうになった。「娘が……私の娘が中にいるのよ!あの子を探さなきゃ!」百合子は滝のような涙を流し、嗚咽を漏らしながら、幾度となく焼け跡へ飛び込もうとした。雅臣は悲痛な思いを押し殺して百合子を羽交い締めにし、必死に食い止めた。「澪は絶対に無事だ。消防隊に話を聞きに行こう。もしかしたら他の誰かが逃げ遅れたのかもしれない、あの死体が澪だとは限らないじゃないか!」常に尊大だった翔も、ついに耐えきれず目を真っ赤にし、完全に取り乱した。その場に釘付けになり、耳鳴りに襲われながら、今聞いた言葉を信じまいと首を振る。湊の様子も異常だった。目尻を真っ赤に染め、信じられないというように顔を強張らせ、その目は一筋の光さえ宿さないほど暗く淀んでいた。彼は野次馬を乱暴に掻き分け、一歩、また一歩と、ひどくゆっくりとした足取りで澪が使っていたゲストルームへと向かっていった。鎮火したばかりの現場には依然として白煙が立ち込め、焼け焦げた残骸の山は元の形すら判別できない。あちこちからまだ煙が燻り、耐え難い余熱を放っている。だが湊はそんなことなど意に介さなかった。澪を見つけなければ。澪が傷一つなく自分の前に立っている姿を、この目で確かめなければ!澪が死ぬはずがない!「澪は死んでない。あいつはまだ俺と結婚してないんだ、俺が迎えに来るのを待ってるに決まってる、絶対に……澪!澪……!」湊は制止を振り切り、止めに入ろうとする隊員を突き飛ばし、一切の防護装備を持たないまま、瓦礫の山を素手で掘り返して澪の姿を探し始めた。無情にも、猛火はすべてを食い尽くし、跡形もなく消し去っていた。彼は全身を煤で真っ黒に汚し、瓦礫を漁り続けた。細くしなやかだった両手は熱で焼け爛れて水ぶくれができ、鋭利な破片に皮膚を裂かれ、鮮血が滴り落ちていたが、彼は痛みすら感じていない
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第15話

「調べによりますと、昨日は結城家の使用人は全員休暇を取っており、屋敷には結城澪さんただお一人が残られていたとのことです。他の使用人の方々の無事は確認されています。現場で発見されたご遺体は結城澪さんと体格が一致しており……大変申し上げにくいのですが、ご遺体の身元確認をお願いいたします。確認が取れましたら、こちらの書類にサインをお願いします」結城家の3人と湊は重い足取りで霊安室へと足を踏み入れた。原型を留めないほど黒焦げになった遺体を目の当たりにし、誰一人として涙を堪えることができなかった。「澪……これが君の言っていた、もっと大きな『サプライズ』なのか?どうして自分の命まで投げ出したんだ?残された俺たちはどうすればいい?」湊は苦悶に満ちた低い声で譫言のように呟きながら、自分の煤けた手を何度も何度も拭った。傷口が裂けても、彼はその痛みにすら気づいていないようだった。そして手が完全に綺麗になってから、ようやく震える手で澪の「遺体」に触れた。炭化した遺体はあまりにも脆く、少しでも力を込めれば崩れ落ちてしまいそうだった。百合子は台の傍らに泣き崩れ、目は赤く腫れ上がり、声は完全に枯れ果てていた。「澪、私の澪!どうして私たちを置いて逝ってしまったの?私たちが悪かったわ、これからはいくらでも償うから!どうしても気が済まないなら、私たちを罰してくれてもいい、殴ってくれてもいい!どうして、どうしてこんなことを……っ!」雅臣は無言のまま俯き、その目元も涙で濡れそぼり、心臓を抉られるような後悔に打ちのめされていた。翔は魂を抜かれたように遺体の前に跪き、虚ろな声で繰り返した。「ごめん……澪、俺たちがあの女を信じたのが間違いだった。お前がどれだけ苦しんだか、全部知ったんだ。お願いだから、目を覚まして俺たちを見てくれよ!全部俺たちが悪かった。殴ってくれていい、いくらでも虐めてくれていい。お前が望むなら何だってする。だからお願いだ、生きて俺の顔を一度でいいから見てくれ」彼は声を上げて泣きじゃくり、容赦なく自分の頬を何度も何度も張り飛ばした。端正な顔は赤く腫れ上がり、その瞳は底知れぬ絶望に塗り潰されていた。彼ら4人は、残酷なまでに理解していた。安置所に横たわる「澪」が、二度と目を覚ますことはないのだと。自分たちは、彼女を永遠に失ってしまっ
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第16話

氷の棺が置かれた部屋から出た後、雅臣と百合子は一気に何十歳も老け込んだかのようだった。黒かった髪はごっそりと抜け落ち、たった一晩で白髪交じりになった。日頃から美容に気を使っていた百合子の顔は見る影もなくやつれ、目の下には青黒い隈ができ、皺が一気に増えていた。雅臣の瞳もすっかり生気を失い、どこか物寂しい空気を漂わせていた。「桜井柚奈……あの女がいなければ、澪はあんなことにはならなかった。あいつを徹底的に苦しめてやる!」百合子の温和な顔に深い憎悪が浮かび、雅臣の手を強く握り締めた。雅臣も頷いた。彼らの指示により、柚奈はかつて澪が入れられていた独房に収監された。薄暗く湿った牢獄の中、柚奈は薄い囚人服を着ていた。頭から氷水を浴びせられたばかりで、服が体に張り付き、絶えず震えている。「看守さん、ここから出して。私、何も悪いことしてない。私は結城家のお嬢様で、みんな私を可愛がってくれてるの。ここから出してくれたら、必ずお金をあげる。いくらでも払うから、出して!お願い!」彼女は絶え間なく扉を叩き、通り過ぎる看守ごとに声を枯らして叫んだ。隣の独房の囚人たちは諦めきった目をしており、柚奈の助けを呼ぶ声を聞いて思わず鼻で笑った。「甘いねえ。ここに入ってきて、まだ夢を見てるのかい」その囚人は寝返りを打ち、再び眠りについた。今日の刑務作業の時間までは、まだ少し休める。ここでの生活が長い者は皆、反抗しても無駄なことを知っていた。その時、一人の看守が騒ぎを聞きつけてやって来て、苛立たしげに警棒で扉を叩いた。「静かにしろ、何を騒いでる!結城家のお嬢様だと?お前は結城家が送り込んできたんだよ!結城の社長さんから、命を落とさない程度に『たっぷり』可愛がってやれって言われてるんだ。まさかまだ、結城家が迎えに来てくれるなんて夢見てるんじゃないだろうな。お前はもう捨てられたんだ。何人もの大物から声が掛かってるんだよ、死なない限りはどう痛めつけてもいいってな!」看守は扉を開けると、凶悪な笑みを浮かべ、柚奈を蹴り飛ばした。続いて、電流の流れる警棒が雨霰のように彼女の体に落ち、息をつく暇さえ与えられなかった。もうここで死ぬのだと彼女が思った時、看守は突然手を止めた。別の看守が扉を開けて入ってくると、悪臭を放つ袋を投げ込んだ。2人
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第17話

「私が悪かったの。こんなことしないで。澪には申し訳ないと思ってるから、ここから出して、お願い……」「はっ」湊は冷たく鼻で笑った。「たったこれで耐えられないのか?じゃあ、俺の澪はこの3年間、どうやって耐えてきたと思ってるんだ?お前が受けている苦痛なんて、あいつの千分の一にも満たない。どの口で許してほしいなどと言える!」彼は喉の奥から絞り出すようにそう言い、今すぐ柚奈を殺してしまいたいほどだった。強く握りしめた拳を、長い時間をかけてようやく解いた。少なくとも今は、まだ殺すわけにはいかない。澪の苦痛をすべて一つ残らず体験させてからでなければ、殺してやるものか!その後、バンッと音を立てて扉が再び閉ざされた。湊が去った後、柚奈を待っていたのは、果てしない拷問だけだった。家に戻ると、結城家も御堂家も同じように死に絶えたような静けさに包まれていた。かつての温かさや楽しさは、すべて消え失せていた。結城家の3人も湊も歩く屍のようになり、澪に関することに触れた時だけ、わずかに違う表情を見せた。全焼した結城家の屋敷は再建されたが、どうやっても過去には戻れなかった。家中を澪が好きそうなもので埋め尽くしても、依然として恐ろしいほど冷え切っていた。ある日、翔がUSBメモリを手に、険しい顔で歯軋りしながら言った。「あの狂女め!あの時の拉致事件、澪の仕業じゃなかったんだ!」彼は怒りに任せ、USBメモリをテーブルに投げつけた。「何だって!?」雅臣、百合子、湊が異口同音に尋ね、その目に衝撃の色を浮かべた。だが、それに続いて押し寄せてきたのは、果てしない動揺と後悔だった。USBメモリに入っていたのは、揺れていて決して鮮明とは言えない動画だった。ごく平凡で目立たない風貌の中年男が、酒に酔い、二人の美女を両脇に抱えて煙草を吹かしている。その目には得意げな笑みが浮かび、大口を叩いていた。「結城家がどうした?御堂家がどうした?どいつもこいつも馬鹿の集まりじゃねえか!適当に騙したらコロッと信じやがって」男はキャッシュカードを愛おしそうに撫で、キスまでした。「桜井のクソ女が、俺に金払って拉致を仕組んだんだよ。嘘をついて高飛びする資金までくれてな。金持ち相手の商売は割がいいぜ」湊は目を見開いた。動画の男があ
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第18話

やり直すことができたら。結城家の3人と湊の心には、同じ考えがあった。だが、澪は本当に死んでしまい、二度と生き返ることはない。氷の棺の中の遺体は相変わらず静かなままだった。彼らの心は荒れ果て、絶望だけが残されていた。雅臣と百合子はこれまで迷信など一切信じない人間だったが、今では憑かれたように全国の霊場や神社を巡り、少しでも名のある祈祷師や霊媒師を呼び寄せては、澪と再会できる来世を求めた。噂を聞きつければどんな場所へも足を運んだが、どれも無駄に終わった。結城グループの経営は誰も顧みなくなり、悪化していく状況を前に、翔は重責を担わざるを得ず、ほぼ毎日会社に泊まり込んでいた。彼は家に帰るのが怖かった。家に帰れば、常に澪の姿が目の前に現れ、甘えてきたりじゃれついてきたりするからだ。手を伸ばして触れようとした瞬間、幻覚は砕け散って消え去り、家の中は空っぽになる。何でもあるのに、澪だけがいないのだ。湊は御堂家のすべてを投げ出し、過酷な巡礼に身を投じ、険しい山奥にある霊場の石段を這うように登り切った。「俗世を捨てさせてください。どうかお許しを」まっすぐな背筋は揺るぎなく、彼は祭壇の前に敬虔に跪き、額を床につけ、祈りを捧げた。かつて鋭かった彼の瞳は、今や淀んだ水のように静まり返っていた。年老いた祭司は彼の顔立ちを一瞥し、首を振ってため息をつくと、彼の薬指にはめられた指輪を指差してゆっくりと言った。「現世への強い執着と未練を断ち切れておりません。お諦めなさい」湊はこの結果を予想していた。彼は澪を決して手放しておらず、当然俗世を捨てきれているとは言えなかった。だが、彼には求めたいものがあった。「ではお尋ねします。私と愛する人、私の婚約者との間に、来世での縁を求めることはできないのでしょうか?どんな代償でも払います。ただ、彼女と添い遂げたいのです」祭司はどうしようもないというように深くため息をつき、ただ沈黙した。湊は諦めきれなかった。彼は何もいらなかった。ただ、澪と一緒にいたかった。今生で結ばれないのなら、来世に求めるしかない。そこで、彼は執念深く祭壇の前に跪き、目を閉じて祈りの言葉を念じ続けた。突然、秘書の長谷川が息を切らして駆け上がってきて、なりふり構わず叫んだ。「社長!澪お嬢様の件
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第19話

丸一日、4人はほとんど何も手につかず、ただスマートフォンの前で警察からの知らせを待ち続けた。脳裏には無数の考えがよぎり、あらゆる可能性を考えたが、それでも不安だった。この希望が外れるのではないか、澪は本当に死んだのではないかという恐怖。そして、澪が死を偽装して去り、二度と見つからないのではないかという心配。どれほどの時間が経っただろうか。突然、着信音が静寂を破った。雅臣が慌てて電話に出ると、警察官の弾んだ声が聞こえてきた。「結城さん、捜査と鑑定の結果、あの遺体は精巧なダミー人形であることが確認されました。本物の澪さんはすでにどこかへ去られた可能性が高く、具体的な行方はまだ掴めておりませんが、どうか続報をお待ちください」その知らせを聞き、全員が感極まって熱い涙をこぼした。澪がどこへ行ったにせよ、生きていてくれるならそれでいい。百合子は雅臣の胸に顔を埋めて声を上げて泣きじゃくり、翔も泣き笑いの表情を浮かべ、ひどく取り乱していた。湊も思わず口元を緩め、胸のつかえがようやく下りたのを感じた。「澪……澪がどこにいようと、絶対に探し出してみせるわ!」百合子が興奮して言い、他の3人も頷き、互いに励まし合った。澪が生きていると確定した後、結城家の3人と湊は連れ立って神浜刑務所へと向かった。看守が隅の独房の扉を蹴ると、中にいた柚奈は音を聞いて無意識に体を縮めて震えた。彼女は両手で頭を抱え、掠れた力ない声で言った。「叩かないで、お願い、許して……」たった十数日が過ぎただけで、柚奈はかつての瑞々しさを失い、枯れ木のように痩せ衰えていた。全身傷だらけで、やつれた顔は頬がこけ、かつての可憐さは微塵もない。ただ不気味なだけだった。看守はその様子を満足げに見下ろし、警棒で床を叩いて彼女の注意を引いた。「おい、今日は『可愛がり』はなしだ。お前に面会したいっていう大物がいらっしゃってる。大人しく出ろ」それを聞いて、沈み込んでいた柚奈の瞳に再び光が灯り、嬉しそうに笑い出した。「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、湊!私を迎えに来てくれたのね?やっぱり後悔したんでしょう?分かってた、みんなの心の中には、やっぱり私がいるんだわ!」看守は彼女を軽蔑の目で見下ろし、鼻で笑って、自分にしか聞こえない声で呟いた。「あい
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第20話

「いや、行かないで、お願いだから行かないで!」看守たちは柚奈の言葉など聞こえないかのように立ち去り、面会室には結城家の3人と湊だけが残された。突然、翔がカウントダウン式の小型爆弾を取り出し、ゆっくりとした手つきで柚奈の体に巻き付けた。そして部屋の外に立ち、彼女の取り乱した悲鳴を聞きながら、満足げな笑みを浮かべた。柚奈は必死に爆弾を引き剥がそうとし、爆発の3秒前にようやく拘束から逃れた。しかし扉は固く閉ざされており、彼女はドアを叩きながら泣き叫んだ。「開けて、お願い、本当に死んじゃう!許して……」彼女は床に膝をつき、声が枯れるまで叫んだが、誰の同情も引くことはなかった。三、二、一。カウントダウンが終わり、ドーンという音と共に爆弾が炸裂した。柚奈は全身に傷を負ったが、爆薬の量は精密に計算されており、致命傷には至らなかった。意識を取り戻した時、彼女は全身冷や汗まみれだった。だが、彼女を待っている地獄はこれだけではなかった。百合子がドアを開け、皿に盛られたピーナッツクッキーを持って入ってきた。雅臣が無表情のまま柚奈を押さえつけ、強引に彼女の顎を外すと、百合子がピーナッツクッキーを口の中に押し込んでいく。「私、ピーナッツアレルギーなの!食べたら死んじゃう!お母さん、お願い、やめて!」お母さんという言葉を聞いた瞬間、百合子は心を鬼にし、残りのクッキーをすべて柚奈の口に詰め込んだ。あっという間に柚奈の全身に赤い発疹が広がり、彼女は耐えきれず皮膚を掻きむしり、呼吸が急速に荒くなっていった。彼女が瀕死の状態になった時になって初めて、湊が無造作に薬を放り投げた。薬を飲んだ後も、彼女はしばらく放心状態から抜け出せなかった。湊はその様子を冷たい目で見下ろし、嘲笑した。「死なないことは分かってるんだ。芝居はやめろ」柚奈は極限の絶望を味わい、ついに、かつての澪と同じ苦痛を身をもって知ることとなった。だが、湊は彼女を許さなかった。嫌悪感を露わにし、柚奈の襟首を掴んで引きずり出し、雨の中へ放り出し、無理やり跪かせた。柚奈が気を失うと、医師に処置をさせて意識を取り戻させ、再び跪かせた。何度も繰り返され、彼女は高熱を出し、本当に命を落としかけたところで、ようやく独房へと投げ戻された。冷たい床に転がりなが
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