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灰燼に咲く紫の旋律

灰燼に咲く紫の旋律

By:  ゆいCompleted
Language: Japanese
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神浜(かみはま)女子刑務所。 看守は結城澪(ゆうき みお)に小さな手荷物を手渡すと、重い鉄の扉を開けて彼女を送り出した。 「二度と同じ過ちを繰り返すんじゃないぞ。これからは真っ当に生きなさい」 澪は荷物をきつく握りしめ、すっかり荒れ果てた自分の両手を見つめていた。その顔から表情は失われ、瞳は虚ろだった。 自分は一体、どんな過ちを犯したというのか――彼女には、到底理解できなかった。 呆然と立ち尽くしていると、視界に一台の黒い高級車が滑り込み、彼女の前で停まった。 ドアを開けて降りてきた御堂湊(みどう みなと)が、骨ばったしなやかな手を差し出し、彼女を車に乗せようとする。 だが、澪はその手を冷たく躱し、自ら後部座席に乗り込んだ。 湊は宙に浮いた手を引っ込めてドアを閉めると、深いため息をこぼした。 「今日、迎えに来たのは俺だけだ。 君の出所日が、ちょうど柚奈のチェロの発表会と重なってね。ご両親と兄さんはそっちに行っている」 澪はゆっくりと視線を上げ、彼の端正な横顔を見つめて問うた。 「……どうして、あなたは行かなかったの?」 「え?」 湊は一瞬、呆気に取られた。 澪は無表情のまま、淡々と同じ言葉を繰り返す。 「どうして行かなかったの?あなたも、お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも……みんな、桜井柚奈(さくらい ゆな)のことしか愛してないじゃない」 湊は途端に顔を曇らせ、不快げに眉をひそめた。 「何を馬鹿なことを言っているんだ 俺たちが一番愛しているのは、当然君だよ。君が柚奈にあんな酷いことさえしなければ、俺たちだって、頭を冷やさせるために君を刑務所へ送ったりなんてしなかった」

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Chapter 1

第1話

その言葉を聞いた澪は、窓の外を飛ぶように流れていく景色を見つめながら、あまりの可笑しさに涙が出そうになった。

一番愛している?たしかに、昔はそうだったかもしれない。

幼い頃から、両親や兄の結城翔(ゆうき かける)、そして婚約者の湊に至るまで、皆が彼女を溺愛していた。

目に入れても痛くないほど大切に育てられ、彼女は間違いなく、この世で一番幸せなお姫様だった。

だが、不慮の事故で彼女が植物状態になってから、すべてが狂い始めた。

最初のうちこそ、彼らは毎日病室を訪れていた。澪は目を覚ませないものの意識はあり、彼らが涙ながらに語りかけてくるのをよく聞いていた。

しかし、いつからか「桜井柚奈」という名前が頻繁に耳に入るようになる。

後になって知ったことだが、彼らは悲しみと寂しさに耐えきれず、澪に少し面影の似た身代わりを見つけて心の拠り所にしていたのだ。

その身代わりの少女こそが、柚奈だった。

次第に彼らの口から柚奈の名前が出る回数が増えていき、澪は焦燥感に駆られ、必死の思いで目を覚まそうと藻掻いた。

そして奇跡的に意識を取り戻した時、皆は泣いて喜んでくれた。自分が目覚めれば、もう柚奈という身代わりは必要なくなる――澪はそう信じていた。

ところが、彼らは柚奈を手放そうとはしなかった。

両親は涙ながらに訴えた。

「柚奈はこれまで苦労ばかりしてきた。お前の代わりに、この2年間ずっと私たちに寄り添ってくれた恩人なのだ。だから、このまま家に置いて、幸せにしてあげたいんだ」

両親の涙に絆され、澪はしぶしぶ承諾した。

だが、両親も兄の翔も湊も、すでに澪自身よりはるかに強い関心と愛情を柚奈へ向けていることを、すぐに思い知ることになった。

しかも柚奈は決して見た目通りの大人しい娘などではなかった。裏では何度も澪を陥れたのだ。

澪に平手打ちされ、階段から突き落とされたと泣きつき、皆はそれを鵜呑みにした。

さらに柚奈が交通事故に遭った時さえ、澪が車で撥ねたのだと嘘をついた。

両親と翔、そして湊は激怒し、「澪の身勝手さは目に余る」と吐き捨てた。

だからこそ、両親と兄、そして婚約者が結託し、彼女を刑務所へと送り込んだのだ。あそこで苦労を味わわせ、我儘なお嬢様気質を叩き直して更生させるという名目で。

地獄のような3年間を刑務所で過ごさせた挙句、湊は「一番愛しているのは君だ」と抜かすのか?

澪が目尻を赤く染めているのを見て、湊は胸を締め付けられたように口を開きかけた。

その時、間の悪い着信音が車内に響き渡る。

電話に出ると、柚奈の甘ったるい声が漏れ聞こえてきた。

「湊、私の初めてのチェロの演奏会、どうして来てくれないの?まだ来てないの、湊だけだよ」

湊の目元は一瞬で和らぎ、声色は甘く溶けた。

「いい子だから待ってて。今日は澪を迎えに行かなきゃならないんだ」

「じゃあ、お姉ちゃんも一緒に連れてきてよ!」

湊が押し黙ると、彼女はさらに媚びるような声を出した。

「もう、みんなお姉ちゃんがまた私に酷いことするんじゃないかって心配してるのは分かってる。でも、私信じてるの。お姉ちゃんはもうそんなことしないって。だから一緒に来てよ!私にとって初めての演奏会なんだから、湊には絶対見てほしいの」

湊は思わず破顔した。

「分かった、すぐに向かうよ」

電話を切った後、彼は運転手に行き先を変更させた。

コンサートホールに到着すると、彼は釘を刺すように言った。

「いいか澪、柚奈は優しくて純粋で、体も弱い。もう二度とあの子を傷つけないでくれよ」

澪は彼に手を引かれるがまま歩きながら、その言葉を右から左へ聞き流した。

優しい?それは彼らの前でだけの話だろう。

目の前に広がる円形のホールは、千人以上を収容できる巨大なものだった。まばゆいスポットライトが舞台の中央を照らし出し、思わず目を奪われる。

そこは、かつて彼女が立ちたいと夢見た場所だった。

かつて澪もチェロを学んでいた。彼女には類まれな才能があり、世界的なチェロ奏者になるのが夢だった。

しかし今となっては、すべてが叶わぬ幻となった。

前科者という烙印は彼女の人生に深く焼き付き、決して剥がすことはできない。

舞台裏の控室では、母の結城百合子(ゆうき ゆりこ)が真剣な眼差しで柚奈のドレスの裾を直し、兄の翔が彼女の後ろからネックレスを着け、父の結城雅臣(ゆうき まさおみ)は満面の笑みで彼らを見守っていた。

家族4人、絵に描いたような和やかな光景。

――だが本来、彼らは澪の家族であるはずなのに。

「今回は、チェロ界の国宝級とも言われる東条先生もいらっしゃるって聞いたの。先生、ずっと最後の弟子を探してるらしくて、選ばれたらいいなって。

でも、本当に先生に選ばれちゃったらどうしよう。先生と一緒に世界ツアーを回ることになるらしいから、そうなったらみんなとなかなか会えなくなっちゃう」

それを聞くと、湊はすぐさま柚奈のもとに歩み寄り、こぼれ落ちた髪を優しく耳にかけた。

「馬鹿だな。選ばれたら、迷わず行くべきだ。こんな機会は滅多にない。東条先生は業界でも絶対的な権威だし、先生の弟子になれば、君は間違いなく世界トップクラスのチェリストになれる。俺たちのことなら、毎週君に会いに行けば済む話だ」

柚奈は嬉しそうに微笑んだ。何かを言おうとした瞬間、視界の隅に澪の姿を捉えるや否や、慌てて駆け寄って彼女の腕にべったりと抱きついた。

「お姉ちゃん、おかえりなさい!」

澪は嫌悪感を覚えながら自分の腕を引き抜き、適当に相槌を打った。

結城家の両親と翔は彼女を見てあからさまに眉をひそめ、冷たく言い放った。

「帰ってきたからには、そのひねくれた性根を改めなさい。もう二度と柚奈を目の敵にするんじゃないぞ」

澪が口を開く前に、スタッフが呼びに来た。

「桜井様、出番です」

柚奈が舞台へ向かうと、4人は連れ立って客席へ向かった。舞台上でスポットライトを浴びてキラキラと輝く柚奈を見つめる彼らの瞳は、深い称賛と愛情に満ちていた。

公演が終わり、会場が熱気に包まれたまま散会する頃。澪が椅子を片付けようと身をかがめた瞬間、ゆったりとした襟元から、無残な青紫色のあざが覗いた。

かつて白かった肌は、まともな皮膚がほとんど残っていないほど傷だらけだった。

湊は目を見開き、彼女の手を掴んで震える声で言った。

「澪、その傷は……一体どうしたんだ?」

結城家の面々もそれに気付き、顔色を一変させた。

どうしたのか、だと?

刑務所に入ってからというもの、澪は毎日のように殴る蹴るのリンチを受け、ろくに食事も睡眠もとれなかった。そして、そのすべての元凶は柚奈が看守に放った「姉をよろしくお願いしますね」という一言だったのだ。

澪の口元に自嘲の笑みが浮かぶ。湊が彼女の服をめくって傷を確認しようとした瞬間、少し離れた場所から柚奈の痛がる声が聞こえた。

「痛っ!」

彼女は足首を押さえ、小さな顔を苦痛に歪めていた。

一瞬にして、雅臣、百合子、翔、そして湊の全員が我先にと彼女の前に駆け寄った。

湊が彼女をふわりと横抱きにし、結城家の面々も総出で彼女を囲むようにして足早に立ち去っていく。

澪はその光景を冷めた目で見送り、再び皮肉げに唇を吊り上げた。

一人で帰路に就こうとした時、突然、行く手を遮る人物が現れた。

彼女は足を止め、その顔を見て全身を硬直させた。

「と……東条先生?」

東条は慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「結城澪さん、私のことを覚えていてくれたとは光栄だ。それなら、3年前に私が君を弟子に迎えたいと言ったことも覚えているだろう。あの時、君は家族と離れたくないと断ったが……今、もう一度だけ聞こう。私と一緒に来る気はあるかい?」

「東条先生、先生は柚奈の演奏を見にいらしたのでは?それに、今の私は前科者で……」

澪は気まずそうに、どう答えればいいか分からずにいた。

「今日、君が出所すると知って、わざわざ君に会うためだけにここへ来たんだよ。

私が見込んでいるのは君の才能だけだ。過去や背景など一切気にしない。君のチェロの才能を、こんな所で腐らせるわけにはいかない。必ず君を国際的な舞台に立たせ、最も輝く星にしてみせる。もし今の身分が足枷になるなら、戸籍を変える手配だってしよう」

彼の力強い言葉を聞き、死んでいた彼女の瞳に次第にまばゆい光が蘇ってきた。

一瞬の沈黙の後、澪は決意を込めて答えた。

「はい!先生について行きます!」

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松坂 美枝
松坂 美枝
白か黒しかない人たちの話 身代わり女がなんか言えば調べもしないで全部信じ、ウソだと分かれば徹底的に貶める 主人公も虐げられまくり、もう修復の余地はないときっぱりと背を向ける 残された奴らも他に目を向けることが出来ないんだよね
2026-10-10 09:59:14
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25 Chapters
第1話
その言葉を聞いた澪は、窓の外を飛ぶように流れていく景色を見つめながら、あまりの可笑しさに涙が出そうになった。一番愛している?たしかに、昔はそうだったかもしれない。幼い頃から、両親や兄の結城翔(ゆうき かける)、そして婚約者の湊に至るまで、皆が彼女を溺愛していた。目に入れても痛くないほど大切に育てられ、彼女は間違いなく、この世で一番幸せなお姫様だった。だが、不慮の事故で彼女が植物状態になってから、すべてが狂い始めた。最初のうちこそ、彼らは毎日病室を訪れていた。澪は目を覚ませないものの意識はあり、彼らが涙ながらに語りかけてくるのをよく聞いていた。しかし、いつからか「桜井柚奈」という名前が頻繁に耳に入るようになる。後になって知ったことだが、彼らは悲しみと寂しさに耐えきれず、澪に少し面影の似た身代わりを見つけて心の拠り所にしていたのだ。その身代わりの少女こそが、柚奈だった。次第に彼らの口から柚奈の名前が出る回数が増えていき、澪は焦燥感に駆られ、必死の思いで目を覚まそうと藻掻いた。そして奇跡的に意識を取り戻した時、皆は泣いて喜んでくれた。自分が目覚めれば、もう柚奈という身代わりは必要なくなる――澪はそう信じていた。ところが、彼らは柚奈を手放そうとはしなかった。両親は涙ながらに訴えた。「柚奈はこれまで苦労ばかりしてきた。お前の代わりに、この2年間ずっと私たちに寄り添ってくれた恩人なのだ。だから、このまま家に置いて、幸せにしてあげたいんだ」両親の涙に絆され、澪はしぶしぶ承諾した。だが、両親も兄の翔も湊も、すでに澪自身よりはるかに強い関心と愛情を柚奈へ向けていることを、すぐに思い知ることになった。しかも柚奈は決して見た目通りの大人しい娘などではなかった。裏では何度も澪を陥れたのだ。澪に平手打ちされ、階段から突き落とされたと泣きつき、皆はそれを鵜呑みにした。さらに柚奈が交通事故に遭った時さえ、澪が車で撥ねたのだと嘘をついた。両親と翔、そして湊は激怒し、「澪の身勝手さは目に余る」と吐き捨てた。だからこそ、両親と兄、そして婚約者が結託し、彼女を刑務所へと送り込んだのだ。あそこで苦労を味わわせ、我儘なお嬢様気質を叩き直して更生させるという名目で。地獄のような3年間を刑務所で過ごさせた挙句、湊は「一番愛してい
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第2話
東条光(とうじょう ひかる)は満足そうに頷き、彼女の肩を軽く叩いた。「すべてはこちらで手配しておく。半月後、予定通りに出発しよう」光に別れを告げた後、澪の枯れ果てた心に、再び生きる希望の火が灯った。自宅の玄関に着き、無意識に自分の誕生日を暗証番号として入力した。――ピーッ。エラー音が鳴り響く。その無機質な音に、彼女はハッと我に返った。たった3年家を空けただけで、暗証番号すら変えられてしまったのか。彼らが柚奈を異常なほど溺愛していることを思い出し、試しに柚奈の誕生日を入力してみる。カチャッという音がして、案の定ドアのロックが解除された。澪は胸に込み上げる苦い思いを無理やり押し殺し、自分の部屋へと向かった。しかしドアを開けると、部屋の中はすっかり様変わりしていた。かつてはロマンチックなプリンセス風のインテリアで統一されていた自室が、メルヘンチックなペットルームに改造されていたのだ。見知らぬ人間が入ってきたのを見た一匹のゴールデンレトリバーが、狂ったように吠え立て、鋭い牙を剥き出して飛びかかってきた。咄嗟に身をかわさなければ、間違いなく噛まれていただろう。執拗に飛びかかってくる大型犬を見て、澪の顔面は蒼白になり、呼吸は次第にゼイゼイと荒くなった。獣の毛が宙を舞い、肌に触れた途端、全身に猛烈な痒みが走る。澪は犬が怖いうえ、犬の毛にアレルギーがあったのだ。澪は激しく喘ぎ、生理的な涙で視界を滲ませた。足元をふらつかせながら、記憶を頼りに必死で救急箱を探す。「アレルギーの薬、薬……ッ」だが、かつて救急箱が置かれていた場所には不釣り合いなクリスタルの置物が飾られており、どこを探しても薬の影すらなかった。大型犬は彼女が怯えているのを見てさらに興奮し、飛びかかって彼女の足首に噛みついた。彼女は恐怖のあまり無我夢中で暴れた拍子に、誤って犬を蹴り飛ばしてしまう。犬はテーブルの脚にぶつかり、床でキャンキャンと痛ましげな声を上げた。ちょうどその時、両親、翔、柚奈、そして湊が帰宅し、この惨状を目撃した。それを見た柚奈は一瞬で涙ぐみ、慌てて駆け寄ると犬を抱きしめ、泣きながら問い詰めた。「お姉ちゃん、どうして私の犬にひどいことするの!?」父の瞳にありありと失望の色が浮かび、氷のように冷たい声で叱りつけた。「少
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第3話
このまるで絵に描いたような「本物の家族」の光景を見せつけられ、澪はただただ滑稽に感じた。本来なら自分の家族であり婚約者であるはずなのに、赤の他人である柚奈が彼らを宥め、自分を許すよう説得しなければならないだなんて。4人は甘やかすように笑い合い、百合子は柚奈の頭を撫でて、仕方なさそうに言った。「分かったわ。柚奈に免じて、一度だけ許してあげる」柚奈は満面の笑みを浮かべ、わざとらしく澪に視線を送った。「今回はお姉ちゃんが帰ってきて最初のパーティーだもん、盛大にやらなくちゃね!」翔が即座に同調した。「そうだな。澪はバラが一番好きだったよな。今すぐ3万本のバラを空輸で取り寄せて、パーティー会場を埋め尽くそう」百合子も目を細めて笑った。「澪は抹茶ケーキが一番好きよね。お母さんが腕によりをかけて手作りしてあげるわ」「最近のオークションに、素晴らしい純白のドレスが出品されたんだ。澪は白が好きだから、落札させよう」湊はそう言いながら、タブレットでドレスの写真と詳細を呼び出し、澪の前に置いた。4人が口々に意見を出し合い、パーティーのプランをすっかり決めてしまった後で、ようやく澪が終始沈黙していることに気がついた。「澪、パーティーのことで何か要望はあるかい?」湊が心配そうに澪を見た。澪はたまらず冷笑を漏らし、氷のように冷めた瞳で皆を見渡した。「要望?」「私はバラじゃなくてチューリップが好き。抹茶はアレルギーで食べられないし、服は白じゃなくて青が好きなの。バラ、抹茶ケーキ、白。これって全部、柚奈の好物よね?そんなパーティーに、私から何の意見が出ると思ってるの?」その淡々とした言葉は、見えない平手打ちとなって結城家の3人と湊の頬を容赦なく張り飛ばした。両親は気まずそうに顔を見合わせ、慌てて取り繕った。「ごめんなさいね、澪。うっかり柚奈とごっちゃになっちゃったみたい。悪気はなかったのよ」しかし翔は顔を曇らせ、苛立たしげに声を荒らげた。「澪、なんだその態度は!俺たちはわざと間違えたわけじゃない。そんな重箱の隅をつつくような真似をして何が楽しいんだ!」湊は困ったように眉をひそめ、子供をあやすような穏やかな声でなだめた。「澪、俺たちが悪かった。このプランが気に入らないなら、全部君の好きなものに変更しよ
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第4話
澪は表面上は平静を保っていたが、内心では不安を拭えなかった。彼らは、本物の家族である私を選んでくれるだろうか?だが次の瞬間、澪は4人の瞳に浮かんだ、はっきりとした申し訳なさを見てしまった。「澪……柚奈は体が弱くて臆病だから、私たちは先に柚奈を助け出す!もう少しだけ待っていてくれ。柚奈を安全な場所へ逃がしたら、すぐにお前を助けに戻ってくるから!」父が苦渋の決断を下すように叫び、他の者たちも黙ってそれに同意した。彼らは澪の悲痛な視線から逃げるように顔を伏せ、柚奈の体に巻き付いたロープと配線を必死に解き始めた。澪の心は一瞬にして谷底へと突き落とされ、絶望の涙が後から後から溢れ出し、どうやっても止めることができなかった。こうなる結末は初めから分かりきっていたはずなのに、どうして一縷の望みなど抱いてしまったのだろう。柚奈の拘束が解かれるや否や、結城家の3人と湊は彼女を抱きかかえ、一目散に外へ飛び出していった。澪の瞳には、彼らの冷酷な背中だけが焼き付いた。工場の外では、柚奈が泣きじゃくりながら湊の胸に顔を埋め、両手で父母の手をしっかりと握りしめて離さなかった。「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、湊……っ、すごく怖かった。私、本当に死んでないの?本当に助かったの?」4人は口々に彼女を宥めすかし、愛おしそうに涙を拭ってやった。工場に取り残された澪の体に、今まさに爆発しようとしている時限爆弾が巻き付けられていることなど、もはや誰の頭からも綺麗に抜け落ちているようだった。ピッ、ピッ、ピッ。死神の足音のような電子音のカウントダウンは無情にも続いている。彼女は歯を食いしばり、恐怖をねじ伏せて、自力で拘束から抜け出す方法を探るしかなかった。どれほど死に物狂いでもがいただろうか。全身の皮膚が擦り切れ、血まみれになりながらも、ありとあらゆる手段を尽くし、ようやくロープの結び目を解くことに成功した。爆発まで、残り十秒。澪は二度と振り返ることなく、これまでにないほどの速さで工場の出口へ駆け出した。――ズドォォォン!!鼓膜を破るような轟音と共に凄まじい爆発が起こり、その凶悪な熱風と爆風の余波が背後から彼女を襲い、澪は地面に叩きつけられて完全に気を失った。再び意識を取り戻した時、澪は全身の骨が砕けたかのような激痛に襲われた。だが、
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第5話
澪は湊が突然現れるとは思っておらず一瞬身を強張らせたが、すぐさま携帯の画面をオフにし、極めて冷淡に嘘をついた。「何でもないわ。あなたの聞き間違いよ……また私を引きずり出して、謹慎室に監禁しに来たの?」生気を失った虚ろな瞳で見つめ返され、湊は一瞬たじろいだが、すぐに不快げに眉をひそめた。「澪、そんな棘のある言い方をするな。今回はそもそも君がしでかしたことだ。それなのに、柚奈が俺やご両親に泣いて懇願したから、特別に許して出したんだぞ。今回はこれで不問に付してやるが、二度と同じ過ちを繰り返すなよ」彼は澪が握りしめている携帯を一瞥し、事務的に言葉を続けた。「君はここで大人しく怪我を治してろ。柚奈はまだ入院中だから、俺は看病に戻る」バタンと無情に病室のドアが閉まり、殺風景な部屋には再び澪一人だけが残された。彼女の体は大小の傷と痣だらけで、唇はひび割れ、喉は焼け付くように乾いていたが、一杯の水を差し出してくれる身内すらいなかった。傷の手当てに来た若い看護師が同情して水を飲ませてくれ、気を紛らわせるように世間話を始めた。「上の階に入院してる女の子が、本当に幸せそうで羨ましいんですよ。まるで少女漫画のお姫様みたいで。ただの発熱みたいなものなのに、すごいイケメンの彼氏さんが抱き抱えて連れてきたんです。おまけに、ご両親は大金を出してVIP病棟のワンフロアを貸し切りにするし、お兄さんは夜通しで権威あるお医者さんを何人も引っ張ってきて『絶対に妹を死なせるな』って怒鳴り散らしてて……ご家族も彼氏さんも、ベッドの周りに付きっきりで看病してて、一歩も離れないんですよ。あんなに溺愛されてるなんて、本当に幸せですよねぇ」澪が一切の反応を示さないのを見て、看護師は不思議そうに尋ねた。「そういえば患者さんのご家族は?一人でこんな大怪我をしてるのに、誰も面会に来ないなんて。冷たいご家族ですね」澪はピタリと看護師を見つめ、自嘲気味にひきつった笑みを浮かべた。「あなたが今羨ましがっていたのが、私の家族と、私の彼氏よ」それを聞いた途端、看護師は氷結したように動きを止め、引き攣った顔で愛想笑いを浮かべた。「……えっ、あ、そうなんですか?」処置を終えるや否や、看護師は逃げるように猛スピードで病室から立ち去っていった。病室は再び静寂を
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第6話
食卓には柚奈の好物ばかりが並んでいた。彼女は目を細めて笑い、雅臣、百合子、翔、そして湊から料理を取り分けてもらうのを満喫していた。目の前の小鉢が山盛りになると、彼女は甘えたように口を尖らせた。「もう、そんなによそわないでよ。私、小食なんだから食べきれないよ」涙のせいか、それとも雨のせいか、澪の視界は完全に滲んでいた。昔はどんなことがあっても、彼らは揺るぎなく澪を信じ、いつだって彼女の味方だった。そしてこう言ってくれたのだ。「澪がすることは全部正しいよ。澪を信じてる」食事のメニューすら彼女の好みが最優先で、彼らは澪のために自分の好みを変えることさえ厭わなかった。だが今や、その唯一無二の寵愛はそっくり柚奈へと注がれている。目の前の光景が次第に遠のき、暗闇へと沈んでいく。どれほど土下座をさせられていたのだろう。澪はついに力尽き、気を失った。再び目を覚ますと、視界に飛び込んできたのは湊の整った顔立ちだった。彼は手に持った雑炊にそっと息を吹きかけ、彼女が目覚めたのに気づくと、手ずから口元へと運んできた。「腹が減っただろう。たくさん食べなさい」雑炊はちょうどいい温もりで、胃に収まるとじんわりと体を温めてくれた。澪には、彼の急激な態度の変化が理解できなかった。「急に優しくして、何があったの?」彼女の表情は冷ややかによそよそしく、湊を見つめる瞳にも何の感情も宿っていなかった。湊の手が一瞬止まった。「……別の防犯カメラの映像が見つかったんだ。おばさんのブレスレットは、柚奈がうっかり割ってしまったものだった。あいつ、怖くて言い出せなかったらしい。だから、柚奈を責めないでやってくれ」澪の胸中には皮肉な思いばかりが渦巻いた。失望のあまり目を閉じ、彼と口を利くのを拒絶する。自分があれほどの苦痛を味わわされたというのに、「柚奈が怯えていたから」という一言で片付けられるのか。だが、追及したところで無意味だ。あれほど柚奈に甘い彼らが、彼女を責めるはずもない。彼女はスマートフォンを握りしめ、ただ時間が早く過ぎ去ることだけを願った。旅立ちの日が、少しでも早く来るようにと。頑なな態度を崩さない彼女に、湊は困ったように息をつき、宥めるように声を落とした。「澪、もう少ししたら俺たちは結婚するんだ。もう少し笑ってく
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第7話
澪が姿を現した瞬間、柚奈の目から大粒の涙が溢れ出し、掠れた声で言葉を絞り出した。「ごめんなさい、お父さん、お母さん、お兄ちゃん……来世でまた、本当の家族になりましょう!」言い終えるが早いか、彼女は迷うことなく手首を切りつけた。鮮血が一気に噴き出す。彼女は覚悟を決めたように笑い、その瞳を閉じた。「柚奈!」結城家の面々と湊は悲痛な叫びを上げ、半狂乱になって柚奈のもとへ駆け寄り、その体を抱き留めた。脱力した彼女の手元から、一枚のメモ用紙がはらりと落ちた。そこには、短い一文だけが書かれていた。【湊、好きです。お願いだから、結婚しないで】4人の視線がその短い一行に注がれ、一瞬の沈黙が場を支配した。口火を切ったのは翔だった。「突っ立ってないで、早く柚奈を病院へ運ぶんだ!」我に返った彼らは、取り乱しながら柚奈の周りを取り囲んだ。湊が柚奈を横抱きにし、百合子は取り乱しながら止血に奔走する。苦痛に顔を歪める柚奈を見て、その痛みを代わって引き受けたいとでもいうようだった。怒涛のように去っていく一同を背に、澪はただ無言で自室へと引き返した。最初から、こうなることは分かりきっていた。翌朝、澪が目を覚ますと、雅臣、百合子、翔、そして湊の4人が帰宅しており、彼女のベッド脇を取り囲むように腰掛けていた。誰もが心配そうな眼差しを彼女に向けている。「澪、体の傷はまだ痛む?」百合子は胸を痛めるように澪の手の傷口にそっと息を吹きかけ、信じられないほど繊細な手つきで軟膏を塗り広げた。傍らでは翔が黙々とリンゴの皮を剥いている。雅臣は使用人に持ってこさせたクマのぬいぐるみを、澪の枕元に置いた。「お前は昔から、クマのぬいぐるみを抱いていないと眠れなかっただろう。前のやつが見当たらなかったから、お父さんが新しいのを買ってきたよ」湊もまた、栄養バランスの取れた食事をトレイに載せて運んできて、食べさせようとスプーンを差し出した。「澪、俺が作ったんだ。君の好きなものばかり揃えたよ。少し口にしてみないか?」唐突に注がれる慈愛を前にして、澪は一瞬、本当に過去へ戻ったのではないかと錯覚しかけた。昔、自分が体調を崩した時も、彼らはこうして甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたものだった。束の間、そのまやかしの温もりに縋りつきたい衝動が頭
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第8話
それからの結城家は、まるでお祭り騒ぎだった。家中が華やかに飾り立てられ、あちこちの扉や壁に婚礼を祝う飾りが施されていく。「柚奈が本当にお嫁に行くなんてね。こんな日がこんなに早く来るなんて思わなかったわ」百合子は柚奈の手を固く握り締め、感極まって涙を滲ませていた。雅臣は傍らで式場設営の段取りを電話で指示し、翔も親族や知人に片っ端から連絡を入れて挙式の案内を出している。湊に至ってはすべての仕事を放り出し、結婚式の準備に没頭していた。形だけの結婚式だと口では言いながら、その手配は誰が見ても本気そのものだった。これで形だけだと言われて、一体誰が信じるというのか。澪は彼らの狂騒の脇をただ無言で通り過ぎた。誰一人、澪の存在に気づかなかった。そうして、柚奈の誕生日が巡ってきた。「柚奈、大々的なパーティーは遠慮したいと言っていたけれど、せめて家族の間だけでもお祝いしよう。とびきりのプレゼントを用意したんだ、きっと気に入るよ」雅臣と百合子はそう言って彼女の機嫌を取りながら、一着の豪奢なウェディングドレスを披露した。「柚奈もいよいよ花嫁になるんだからね。お父さんとお母さんから、特別な贈り物よ。気に入った?」すかさず翔も、桐箱に収められた縁結びの御守りを差し出した。「これは俺が由緒ある神社で、祈願を重ねて授かってきたものだ。柚奈、お前と湊が永遠に結ばれるよう祈ってる」湊もまた、手品のように小さなベルベットの箱を取り出し、愛おしげな眼差しで柚奈の前に差し出した。「柚奈、これが俺たちの結婚指輪だ。君の指のサイズに合わせて特注したんだよ」柚奈は息を呑んで両手で口元を覆い、感涙に瞳を潤ませた。「お父さん、お母さん、お兄ちゃん……それから、湊。本当にありがとう」4人が満面の笑みでバースデーソングを歌い上げると、柚奈は幸福感に浸りながらそっと目を閉じ、願い事をした。「もうすぐお式だけど……たとえ形だけでもいいから、湊にキスしてほしいな」そう言って目を開けると、彼女は瞳に涙を湛えたまま、輪の外に佇む澪へと視線を投げかけた。「お姉ちゃん、湊にキスしてもらってもいい?」澪は相変わらず無表情のまま、淡々と唇を動かした。「好きにすれば」あの日、澪があまりにもあっさりと承諾したため、柚奈の情緒不安定を案じる一同は、すぐさ
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第9話
出発の2日前、澪の部屋のドアがノックされた。扉を開けると、そこには仕立て上がったウェディングドレスを身にまとい、薬指に指輪を光らせ、首から御守りを下げた柚奈が立っていた。「何の用?」澪は自然と眉根を寄せた。柚奈は勝ち誇った笑みを浮かべた。「澪、あなたって本当に哀れね。私が少し芝居をしただけで、あなたのお父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、湊までもが私の味方になって、結婚を認めてくれたわ。でも安心して。こんなのまだ序の口よ。これから先、あなたの持っていたすべてを私が奪い取ってあげる」廊下の向こうから足音が近づいてくるのを察知した瞬間、柚奈は隠し持っていたハサミを取り出し、純白のドレスと御守りをズタズタに切り裂き、指輪を乱暴に放り投げた。そしてハサミを床に投げ捨てるや否や、ボロボロになったドレスを抱き抱え、滝のような涙を流し始めた。「お姉ちゃん、私と湊の結婚が許せないのは分かってる。でもこれ、形だけの結婚式なのよ!許してくれるって言ったじゃない、どうしてこんな酷いことするの……っ!」泣き崩れる彼女を前に、澪は感情の抜け落ちた顔で立ち尽くしていた。まるで、自分とは何の関係もない劇団の茶番劇を眺めているかのように。3、2、1。予想どおり、次の瞬間、雅臣、百合子、翔、そして湊の4人が雪崩れ込んできた。「柚奈!」「柚奈、もう泣かないで!顔がぐちゃぐちゃよ。明後日は晴れの舞台なんだから、これ以上泣いたら腫れてしまうわ」百合子は胸を痛め、柚奈の涙を拭う。散らばる残骸を目の当たりにした湊は、弾かれたように澪を振り返り、遣る瀬無さと失望を露わにした。「澪!式の件はもう決定事項だと伝えたはずだ。どうしてそうやって、いつまでも柚奈を目の敵にするんだ!」だが、柚奈に向き直るや否や、その声色は劇的に甘く変化した。「こんなもの壊されたって構わない。もっと豪奢な指輪を買い直してあげるからね」「そうだ、御守りなら俺がもう一度神社へ行って祈祷してもらってくる」「ドレスはお父さんとお母さんがすぐ手配し直すわ。もっと素敵なのを選びましょう!」4人がかりでようやく柚奈を宥めすかすと、彼らは彼女を取り囲むようにして立ち去った。澪の存在を気にかける者は、ただの一人もいなかった。去り際、柚奈はふいに振り返り、澪に向けて冷酷な嘲
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第10話
空港に着くと、光は澪の手からスーツケースを受け取り、共に搭乗口へと向かった。機体が滑走路を離れる直前、光は彼女に、F国の身分証明書を手渡した。「私の最後の弟子として迎えよう。ようこそ、イリス」証明書には澪の写真が貼られ、氏名欄にはただ一言、「Iris」と記されていた。これ以降、この世から「結城澪」という存在は完全に消滅した。彼女はただ、チェリスト・イリスとして生きていくのだ。飛行機が離陸したまさにその瞬間、結婚式場にいた雅臣、百合子、翔、そして湊の胸に、突然激しい痛みが走った。4人は申し合わせたように胸を押さえた。まるで、かけがえのない何かをこの瞬間に完全に失ったかのようだった。一体、何を失ったというのか。彼らは呆然と周囲を見回したが、その答えを見出すことはできなかった。柚奈が不安そうに湊の袖を引いた。「湊、どうしたの?」湊はハッと我に返ると、かすかに笑って首を横に振った。「……何でもない。続けよう」厳かに響く結婚行進曲に導かれ、2人は腕を組んで、結城家と御堂家の両親が待つ祭壇へと進み出た。「それでは、新郎新婦による指輪の交換です」可愛らしい正装に身を包んだ男の子と女の子がリングピローを掲げて歩み寄り、湊と柚奈の前に差し出した。2人がケースを開き、互いに指輪をはめようとした――まさにその刹那、一人の配達員が突然式場に入ってきた。「桜井柚奈様、御堂湊様、結城翔様はいらっしゃいますか。お届け物です。サインをお願いします」広大な式場は、一瞬静寂に包まれた。参列者全員の視線が、中央に立つ主役たちへと突き刺さる。百合子は顔を引きつらせながらも、配達員に向けて小さく手を挙げた。「……こちらよ」配達員は早足で歩み寄り、色違いの三つの小箱を差し出した。「この赤い箱は結城家の皆様へ、青い箱は御堂湊様へ、そしてこのピンクの箱は桜井柚奈様へのお届け物です。なお、ピンクの荷物につきましては『式場の皆様の前で上映してほしい』とのご指定を承っておりますが、今よろしいでしょうか?」その不穏な言葉に、壇上の全員の顔色がさっと失せた。柚奈は愛想笑いを張り付けながらも、本能的な恐怖に駆られて口を挟んだ。「これ、きっとお姉ちゃんからのサプライズよ。でも、お式が終わってからゆっくり拝見しましょう。何も今
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