病院で必要な手続きをすべて終え、私は急ごしらえの小さな式場へ戻った。招待客はとっくに一人残らず帰っていた。正面の壁には、大きな紅白の飾りが貼られている。昨夜、私が一つずつ飾ったものだ。母は言っていた。「お祝いの飾りは、曲がらないようにちゃんと貼るのよ。そうすれば、これからの人生もうまくいくから」テーブルには、母が選んだウェディングケーキが残されていた。時間が経ち、クリームは少し溶けて崩れている。ぐちゃぐちゃになったその姿は、今の私の心そのものに見えた。ウェディングドレスを脱ぎ、何も考えられないまま後片付けを始める。半分ほど片づけた頃、ようやく清人と遥が姿を現した。二人の手には、あの人気ケーキ店の紙袋が提げられていた。「寧々、お待たせ!先生のために低糖質のケーキを選んできたの。ここの一番人気で……」明るく響いていた遥の声が途中で止まった。閑散とした会場を見回し、驚いた顔をする。「みんなは?結婚式やるんじゃなかったの?なんで誰もいないの?」清人も眉をひそめた。「寧々、遥が聞いてるだろ。みんなどこに行ったんだよ?」私は答えなかった。さすがに何かがおかしいと感じたのか、遥が恐る恐る取り繕うように言った。「寧々、もしかして先生、怒ってる?ごめんね。私がちゃんと時間を考えてなかったせいだよ。清人も、私のケーキ選びに付き合ってくれたから遅くなっただけで……」遥が言い終えるより先に清人が口を挟んだ。だが私ではなく、遥を慰める。「遥が気にすることないって。先生はあんなに優しい人なんだから、事情を知ったって俺たちを責めたりしないよ」その一言が、針のように胸へ突き刺さった。目の奥が熱くなる。母が清人を責めるはずなんてない。最期の瞬間まで、二人が来ない理由を代わりに考えてあげていたくらいなのだから。十年前、清人の両親が離婚騒ぎを起こし、誰も彼の面倒を見ていなかった頃のことだ。清人は胃に穴が開くほど体調を崩し、激痛で意識を失った。大雨の中、彼を病院まで運んだのは母だった。病院では最初に入院保証金を求められた。母は迷うことなく、自分の給料二か月分を立て替えた。それでも清人に負い目を感じさせたくなかったのだろう。母は笑って言った。「私はあなたの先生なんだから、これくらい当然よ。そんなに
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