Semua Bab 最後に信じた嘘~宿敵の御曹司だけが私を裏切らない~: Bab 21 - Bab 30

55 Bab

第21話 外側にいた男

アークウェル・アドバイザリーと榊原俊之の会社との関係は、翌朝にはもう少し詳しく分かった。四年前、榊原が九条ホールディングスを退職してから約三週間後。彼が設立した小規模法人は、アークウェルと半年間の経営支援契約を結んでいた。期間は、九条の関連会社から榊原の会社へ業務委託費が支払われていた時期と、ほぼ重なっている。澪は二つの契約期間を画面上で並べた。「九条からお金を受け取りながら、同時にアークウェルから経営支援を受けていた……」「それ自体は不自然ではありません」隣で資料を確認していた怜司が答えた。「独立直後の会社なら、外部のコンサルタントを使うことはあります。むしろ、九条からまとまった業務を受託していたなら、事業基盤を整えるために支援を求めたとしても説明できます」「でも、どちらも半年ほどで終わってる」「そこは気になります」九条からの委託契約は、更新も終了理由も残されないまま途切れている。アークウェルとの契約も、それから一か月と経たずに終了していた。その後、榊原の会社は目立った事業活動を残さなくなり、数年後には清算されている。まるで、ある時期だけ存在する必要があった会社のようにも見えた。だが、それも今の段階では印象にすぎない。「アークウェル側の担当者は分かりますか?」澪が尋ねると、怜司は一つのファイルを開いた。「当時の対外資料が残っていました。榊原氏の会社を担当していたのは、この人物です」表示された名前を、澪は初めて見た。久我山慶介。当時四十代前半。アークウェル・アドバイザリーの事業再生部門に所属し、その後、執行役員まで務めている。三年前に退社。現在は自ら立ち上げた投資会社の代表だった。「投資会社……」澪はその肩書きに目を留めた。「今度はずいぶん近くなりましたね」怜司が別の資料を表示する。久我山の会社は、企業再
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-04
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第22話 街に残る痕跡

翌日の午後、澪は再開発予定地へ向かった。この場所へ来るのは初めてではない。計画が立ち上がった当初から何度も現地を歩き、地権者との調整や周辺施設の確認にも立ち会っている。それでも今日は、これまでとは違うものを見に来た。車を降りると、少し乾いた風が頬を撫でた。大通りには絶え間なく車が流れ、信号が変わるたびにスーツ姿の会社員や買い物袋を下げた人たちが横断歩道を行き交う。その向こうには築年数の異なるビルが雑然と並び、一階に小さな飲食店を構えた古い建物の隣で、ガラス張りの新しいオフィスビルが午後の日差しを反射していた。会社で地図を眺めていると、ここは色分けされた区画になる。取得済み。交渉中。対象外。それだけだ。けれど実際に歩けば、一つひとつの区画に入口があり、看板があり、人が出入りしている。澪は手元のタブレットに表示した計画図と、目の前の街並みを見比べながらゆっくり歩いた。角にある昔ながらの喫茶店では、窓際の席で年配の客が新聞を読んでいる。その数軒先にはすでに営業を終えた店舗があり、色褪せたシャッターに「長い間ありがとうございました」と書かれた紙が貼られていた。さらに進むと、九条が取得を終えた建物が見えてくる。いずれ取り壊され、この一帯には商業施設とオフィス、住宅機能を組み合わせた新しい街区ができる予定だ。少なくとも、計画通りに進めば。澪は足を止めた。このところ会社の中で追っていたのは、数字と名前ばかりだった。九年前の計画。榊原俊之。父と叔父の承認印。久我山慶介。情報漏洩。企業価値。だが、その中心にあるのは、この場所だ。計画が止まれば数字が動くだけではない。ここで商売をしてきた人間も、移転を決めた企業も、完成を見越して投資した会社も、その影響を受ける。自分たちが会議室で一つ判断を変えるだけで、街の未来そのものが変わる。澪は少しだけ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-05
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第23話 名前を変えた土地

会社へ戻ると、澪はそのまま小会議室へ向かった。現地で撮った写真を端末へ送り、駐車場の看板に記されていた法人名と管理開始日を表示する。怜司は一通り説明を聞くと、すぐには意見を口にしなかった。「現地の人が、何度か会社の名前が変わっていると言っていました。実際に所有者が変わったのか、管理会社だけなのかまでは分かりません。でも、少なくとも今見えている取得記録より前から動きがあったみたいです」「登記を遡りましょう」怜司は簡潔に答え、現在の所有関係を示す資料を開いた。「不動産会社の取引履歴だけを追うより確実です。所有権そのものが移っているなら記録が残る。管理主体だけが変わったなら、それも別の意味を持ちます」澪は頷いた。しばらくして取り寄せた過去の登記情報を時系列に並べると、最初に見えていた形とは違うものが浮かび上がった。現在の所有者は、久我山の投資会社から出資を受けている不動産会社。その一つ前は、別の合同会社。さらにその前にも、法人名がある。三社。だが所在地を確認すると、そのうち二社は同じ住所を使っていた。「……同じ場所ですね」「代表者も見てください」怜司に言われ、澪は役員情報を開いた。完全に同じ人物ではない。だが、一社目の代表取締役が二社目では業務執行社員となり、二社目の設立に関わった司法書士事務所も一致している。無関係な会社が偶然同じ土地を順番に所有したと考えるより、何らかのつながりを疑う方が自然だった。「土地を売ったというより、器を変えた?」「可能性はあります」怜司は画面上の年月を指した。「少なくとも、一般的な転売の履歴には見えません。同じ関係者の中で保有主体だけを変えていた可能性がある。ただし、税務や資金調達の都合で特別目的会社を組み替えること自体は珍しくありません」また、断定しない。澪は三つの法人名を見比べた。そのうち最も古い
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-06
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第24話 敵の論理

夜になっても、社長室の照明はすべて点いてはいなかった。広い室内を照らしているのは、デスク周辺の間接照明と、壁際に置かれたフロアライトだけだった。窓の外には無数のビルの明かりが広がり、厚いガラス越しの街は音のない映像のように見える。その中央で、九条宗一郎は一人、デスクの奥に座っていた。書類へ目を落としたまま、扉が開いてもすぐには顔を上げない。「相変わらず暗い部屋が好きだな」入ってきた隆臣がそう言うと、宗一郎はペンを置いた。「明るければ仕事が減るのか」「そういう返しをするところも変わらない」隆臣は苦笑しながら、デスクの前にあるソファへ腰を下ろした。兄弟だけになれば、役員会とは少しだけ空気が違う。それでも、宗一郎のいる社長室には妙な緊張が残る。隆臣は手にしていた資料をテーブルへ置いた。「例の再開発だ。外へ出た情報が三つになった。しかも、閲覧できる範囲がそれぞれ違うらしい」宗一郎は驚かなかった。「聞いている」「澪たちがわざと流した情報まで全部外へ出た。単独犯じゃない可能性が高い。少なくとも、一人が普通の権限だけで拾える情報じゃない」宗一郎は資料を手に取った。用途変更。追加出資。施工時期。三つの項目を順番に見てから、静かに紙を戻す。「出口が複数あるだけかもしれん」隆臣の表情がわずかに変わった。「澪たちと同じことを言うんだな」「同じ資料を見れば、同じ可能性くらい考える」淡々とした答えだった。だが隆臣は、そのまま話を終わらせなかった。「市場じゃ、もう高城の名前も出始めてる。今回の件まで高城の仕業だと見る人間もいる。……お前はどう見る?」その名前を聞いても、宗一郎の表情は変わらなかった。数秒の沈黙のあと、低い声が落ちる。「高城ではない」隆臣が眉を寄せた。「ずいぶん言い切るな
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-07
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第25話 退職前の約束

榊原俊之が九条ホールディングスを退職する直前、誰と会っていたのか。その記録を探しているうちに、一人の名前が浮かんだ。榊原が経営企画部長を務めていた当時、再開発関連の外部調整を担当していた元社員だった。すでに九条を離れ、現在は小さな不動産コンサルティング会社に勤めている。澪は最初、社内から連絡を取ることも考えた。だが怜司に相談すると、彼は首を横に振った。「九条の名前を前面に出せば、相手は身構えるでしょう。四年前の退職について聞かれると分かった時点で、答えを選び始めます」「じゃあ、私が直接会った方がいい?」「その方がいいと思います。ただし、追及するためではなく、当時の状況を確認したいという形で」数日後、澪は都心から少し離れた駅前の喫茶店にいた。大きなガラス窓から午後の日差しが入り、木目のテーブルに淡い影を落としている。会社近くの店とは違い、周囲には買い物帰りの女性やノートを広げた学生がいて、スーツ姿の客は少なかった。向かいに座る男は、五十代半ば。名前は宮坂健一。九条を辞めてから六年になるという。「まさか九条さんご本人から連絡が来るとは思いませんでした」宮坂は少し困ったように笑った。「驚かせてしまってすみません。当時の再開発について、いくつか確認したいことがあって」「今の計画と関係があるんですか?」問い返され、澪は一瞬だけ考えた。どこまで話すべきか。社内で情報漏洩が続いていることも、九年前の資料を追っていることも、その全てを伝える必要はない。「直接つながっているかは、まだ分かりません。ただ、以前の計画が中止された経緯を確認しておきたいと思っています」宮坂はすぐには答えなかった。コーヒーカップへ手を伸ばし、一口飲んでから視線を落とす。「ずいぶん昔の話です」「ええ。それでも覚えている範囲で構いません」澪がそう言うと、宮坂はしばらく考えたあと、ゆっくり口を開いた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-08
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第26話 始まりはどこだったのか

会社へ戻った澪は、宮坂から聞いた内容をそのまま怜司へ伝えた。榊原俊之は、退職を決めるより前から久我山慶介と会っていた。しかも、その頃の榊原は数か月先の人員配置まで考えており、自ら会社を去る準備をしていたようには見えなかった。最後に残した言葉は――昔の計画について、余計なことは調べるな。怜司は途中で口を挟まず、澪が話し終えるまで黙って聞いていた。「時系列を一度崩しましょう」やがて彼が言った。「これまでは、榊原氏が九年前の特別管理文書を閲覧したことを起点に考えていました。その後に何かを知り、久我山氏へ相談し、退職したのだと」「でも、久我山さんと会っていたのはその前かもしれない」「ええ。宮坂氏の記憶が正しければ、順番が逆になります」澪は端末に四年前の予定を表示した。正確な日付が残っているものだけを抜き出し、一つずつ並べていく。榊原が久我山と外で面会していたとみられる時期。九年前の再開発に関する特別管理文書を閲覧した日。退職届が受理された日。九条関連会社との業務委託契約。そして、アークウェルとの経営支援契約。これまでひと続きに見えていた出来事の順番が、少しずつ変わっていく。「久我山さんと会ったことが先なら……」澪は画面を見ながら考えた。「榊原さんは、自分で昔の資料を調べて久我山さんへ相談したんじゃなくて、久我山さんから何かを聞いて、それを確かめるために資料を開いた可能性もありますよね」「あります」怜司は即答した。「もちろん逆も残ります。榊原氏が以前から九年前の件に疑問を持っていて、その相談相手として久我山氏を選んだ可能性もある。ただ、少なくとも『特別管理文書を見たことがすべての始まり』とは言えなくなりました」一つの記録を起点に据えるだけで、そこから後に起きたことには理由をつけやすい。けれど、本当の始まりがその前にあるなら、これまでの見方そのものを変
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-09
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第27話 近すぎる人

翌日の午後、澪は本部長室で再開発事業の進捗資料を確認していた。ここ数日、過去の記録を追う時間が増えているが、現在の計画が止まってくれるわけではない。施工会社との条件調整、金融機関への説明、地権者対応。目の前の仕事だけでも、判断を待っている案件はいくつもある。その中の一つに目を通していると、内線が入った。『九条専務がお見えです』澪は思わず手を止めた。「分かりました。通して」ほどなくして扉が開き、隆臣が資料を一冊抱えて入ってきた。「忙しいところ悪いな。十分だけもらえるか?」「叔父さんが十分で終わるなら」「ひどい言われようだな。昔はもう少し可愛かったぞ」軽く笑いながら、隆臣は応接用のソファへ向かった。仕事の話をしに来たことは分かっている。それでもこうして顔を合わせると、ほんの一瞬だけ身構えた自分が馬鹿らしく思える。澪は向かいに座った。「それで、何の話?」「北側区画の地権者対応だ。昨日、二社から再確認が入った。九条が計画の規模を縮小するつもりなのか、と聞かれている」「規模縮小?」初めて聞く話だった。隆臣は持ってきた資料を開いた。「正式な申し入れじゃない。向こうも噂を確認したいだけだろう。ただ、最近はこういう話が多すぎる。施工時期、資金計画、用途変更、今度は規模縮小だ」澪は黙って資料へ目を落とした。規模縮小については、こちらが流した偽情報ではない。新しい話だ。「叔父さんは、どう見てるの?」「計画の中身を狙っているというより、九条が迷っているように見せたいんじゃないかと思ってる」隆臣の声から、さっきまでの柔らかさが消えた。「企業は、決断が遅いだけでも信用を失う。まして大規模開発で方針が何度も変わっていると思われれば、相手は自分たちの条件を守るために先に動く。誰かがそれを意図してやっているなら、かなり嫌なやり方だ」澪は顔を上げた。怜司
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-10
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第28話 同じ結論

隆臣が本部長室を出てから、澪はしばらく机の上の資料を見つめていた。規模縮小。これまで外へ出た三つの偽情報とは違い、九条が意図的に流したものではない新しい噂だった。しかも隆臣は、社内から情報が漏れているという事実だけでなく、それが外部で意味を付け加えられ、別の形になって戻ってきている可能性まで指摘していた。自分と怜司が時間をかけて辿り着いた考えに、あまりにも近い。ただ、それだけで隆臣が何かを知っていると決めつけることはできない。彼は九条の役員として長く会社を見てきた人間だ。同じ状況を見れば、経験から同じ結論へ辿り着いたとしても不思議ではなかった。そう考えながら端末を開いた澪は、気づけば怜司の予定を確認していた。三十分後に、彼の打ち合わせが終わる。以前なら、自分の中でもう少し考えを整理してから話しただろう。だが今は、隆臣の言葉をどう受け取るべきか、自分だけで考え続けるより一度怜司の見方を聞いてみたいと思った。そのこと自体を、澪はもう不自然には感じなくなっていた。 「規模縮小、ですか」小会議室で話を聞き終えた怜司は、すぐに資料へ視線を落とした。澪は隆臣との会話を、必要な部分だけ抜き出すのではなく、ほとんどそのまま伝えていた。複数の場所から同じ話を聞いても、出所が同じなら情報は一つにすぎないこと。そして、外へ出た情報に誰かが意味を付け直しているのなら、社内の漏洩者だけを追っても全体像には届かないということ。怜司はしばらく黙り、頭の中で整理するように画面へ視線を落としていた。「どう思います?」澪が尋ねると、怜司は端末を閉じた。「九条専務の見方は合理的です。少なくとも、現在起きていることをかなり正確に捉えていると思います。ただ、それが何かを知っているからなのか、長年の経験から導いた結論なのかは分けて考えた方がいいでしょう」予想していた答えだった。澪は小さく笑った。「高城さんなら、そう言うと思ってました」「では、私に聞く必要はなかったのでは?」
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-11
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第29話 久我山慶介

意見交換会の会場は、都心のホテルに設けられた中規模の宴会場だった。天井から落ちる柔らかな照明の下に丸テーブルが並び、壁際には軽食と飲み物が用意されている。壇上では都市再生事業の今後について短い講演が続いていたが、参加者の多くにとって、本当の目的はその後の交流にあるのだろう。金融、不動産、建設、投資。名刺を片手に交わされる会話の中では、正式な会議なら記録に残ることのない話が、いくつも行き交っているように見えた。「確かに、噂が広がるには都合のいい場所ですね」澪が小声で言うと、隣に立つ怜司が会場を見渡した。「ここだけとは限りませんが、人と情報が交差する場所なのは間違いないでしょう。今日は無理に探ろうとしない方がいい。誰と誰が話しているかを見るだけでも十分です」澪は頷いた。その忠告がなくても、久我山を問い詰めるつもりはない。今日はあくまで九条ホールディングスの経営戦略本部長として来ている。こちらが四年前まで遡って彼を調べていることを知らせる必要はなかった。講演が終わると、会場の空気が一気に緩んだ。あちこちで小さな輪ができ、澪にもすぐ数人が声をかけてくる。現在の再開発について遠回しに尋ねてくる者もいたが、澪は計画に変更はないという範囲を崩さず応じた。その間も、視線の端で一人の男を探していた。久我山慶介。写真では何度も見ている。実物を見つけるのに、それほど時間はかからなかった。会場の奥で数人の経営者と話している男は、写真で見るよりも柔らかな印象だった。五十歳前後。髪にはわずかに白いものが混じり、仕立てのいい濃紺のスーツを着ている。話す相手の言葉を遮らず、時折笑みを見せる姿だけなら、いかにも人当たりのいい投資会社の代表に見えた。「見つけました」澪が声を落とす。怜司もすでに気づいていたらしい。「向こうもこちらを見ています」澪が視線を戻すと、久我山と目が合った。ほんの一瞬だった。だが久我山は驚いた様子もなく、話してい
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-12
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第30話 届くかもしれない声

意見交換会を出た頃には、外はすっかり暗くなっていた。ホテルのエントランス前には送迎の車が途切れなく入り、ガラス扉が開くたびに夜の冷たい空気が流れ込んでくる。澪はコートを羽織りながら、先ほどの久我山との会話を頭の中でもう一度なぞっていた。昔のことを調べすぎると、今の判断まで曇ることがある。それだけなら、経営者同士の会話で出てもおかしくはない。澪自身が以前の計画について質問したのだから、久我山がそこから話を広げただけとも考えられる。それでも、引っかかるものは残った。「高城さん」隣を歩いていた怜司が足を緩めた。「もう少しだけ、話していきませんか?」怜司は澪の表情を見たあと、ホテルの奥へ視線を向けた。「このまま会社へ戻れば、結局また資料を広げることになりますね」「たぶん」「では、三十分だけにしましょう」二人が入ったのは、一階のラウンジだった。先日二人で飲んだバーとは違い、まだ人の出入りが多い時間帯で、吹き抜けの天井から落ちる明るい照明が広い空間を柔らかく照らしている。大きな窓の向こうには車の灯りが流れ、テーブルの間では会合を終えたらしいスーツ姿の客が静かに話していた。澪は温かい紅茶を頼み、怜司はコーヒーを選んだ。「やっぱり、あの一言が気になります」カップが運ばれてから、澪が切り出した。「私が以前の計画を調べていることを知っていたのか。それとも、本当にただの一般論なのか」「今の段階では後者でも説明できます。ただ、今日の久我山氏は九年前の計画をかなり自然に話題へ出しました。『業界に長くいれば知っている』という説明も成立しますが、少なくとも彼にとって完全に過去の出来事ではないのでしょう」怜司は会場でもらった参加者資料を閉じながら続けた。「それと、久我山氏は九条さんが現在の再開発を担当していることだけではなく、外部アドバイザーを入れたことまで知っていました」「それは、業界内で話が回っていても不思議じゃないですよね」「ええ。それ自体
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-13
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