榊原から連絡があったのは、翌日の昼過ぎだった。午前中いっぱい、澪は再開発に関する社内会議と取引先への説明に追われていた。昨日の意見交換会で久我山と交わした言葉も、榊原へ預けた伝言も頭の隅には残っていたが、いつ返事が来るか分からないものを待ち続ける余裕はない。だから本部長室の直通電話が鳴り、秘書から「榊原俊之さんという方からお電話です」と告げられた瞬間、澪は思わず手元の資料から顔を上げた。「つないで」受話器を取るまでのわずかな時間に、九年前から追ってきた記録が頭をよぎる。旧再開発の実務責任者。四年前に特別管理文書を閲覧し、その後突然九条を去った男。そして退職前から久我山と接触していた人物。電話の向こうから聞こえてきた声は、想像していたより落ち着いていた。『突然失礼します。榊原俊之です』「九条澪です。ご連絡ありがとうございます。こちらから急にお願いしてしまって、すみませんでした」『いえ。研究会の事務局から名前を聞いて、少し驚きました』声に警戒がないわけではない。ただ、拒絶されているようにも聞こえなかった。『現在の再開発を担当されているそうですね』「はい。経営戦略本部で責任者を務めています」短い沈黙が入った。その間が何を意味するのか、澪には分からない。『九年前と、同じ場所を』「そうです」『……そうですか』電話越しなのに、その一言だけ妙に重く感じられた。澪はすぐに質問を重ねなかった。こちらが何を知りたがっているかは、榊原にも察しがついているはずだ。それでも自分から話さないのなら、まず相手の速度に合わせた方がいい。「以前の計画について、少しお話を伺いたいと思っています。当時の資料だけでは分からないことが多くて」『資料を見たんですか』榊原の声音がわずかに変わった。「全部ではありません。ただ、計画が承認直前で止まったことや、外部との協議があったことまでは確認しています」どこまで伝え
Terakhir Diperbarui : 2026-10-14 Baca selengkapnya