地下駐車場に留まり続ける理由はなかった。怜司はホテルのロビー階まで上がると、人の出入りが多いラウンジを選んだ。大きなガラス窓の向こうには夕方から夜へ移り変わる街が広がり、宿泊客や打ち合わせらしい会社員が絶えず行き交っている。澪は窓際ではなく、通路から少し奥まった席へ腰を下ろした。先ほどまでの黒いセダンは見えない。それでも、一度こちらへ向けられたスマートフォンのレンズを思い出すと、窓の外を走る黒い車すべてが目に入った。怜司は注文したコーヒーに手をつける前に、端末を開いた。「整理しましょう。今日、相手が動く理由になり得たものは大きく三つあります」澪も気持ちを切り替え、向かいの怜司を見る。「安西さんを探していること。旧東央不動産企画へ行ったこと。それと、榊原さんが事故の日にそこへ来ていたと分かったこと?」「その三つです。ただし、最後の一つは私たちが今日初めて知った情報です。管理人が誰かへ話していない限り、相手がすぐ把握するのは難しいでしょう」「じゃあ、東央不動産企画の跡地そのものを見られていた?」「その可能性はあります。あるいは、こちらが安西氏を追っていることを以前から把握していて、今日の動きを確認していたのかもしれません」怜司は端末の画面へ視線を落とし、今日の時系列を簡単に並べた。旧所在地へ着いた時間。管理人と話していた時間。建物を出た時間。そして黒いセダンに気づいた地点。澪も記憶を辿りながら補足していく。「建物を出たときには、まだ気づかなかったですよね」「ええ。ただ、最初から後ろにいた可能性はあります。こちらが気づいたのが遅かっただけかもしれません」「だとすると、どこからついてきたのかが重要ですね」澪がそう言うと、怜司はすぐに頷いた。「私もそこを確認したいと思っています。旧所在地の周辺で待っていたなら、あの場所自体が監視対象だった可能性が高い。逆に会社を出た時点からついていたなら、九条側の動きが漏れていることになりま
Terakhir Diperbarui : 2026-10-31 Baca selengkapnya