甲板の上は、寄せては返す波の音しか聞こえないほど静まり返っていた。私の冷たい視線を浴びても、研吾は黙りこくったままだ。先に口を開いたのは、やはり茉白のほうだった。「寧々、ごめんなさい。私、昔……確かに研吾のことが好きだった時期があったの」私は鼻で笑った。「なら、どうして彼と付き合わなかったの?」「釣り合わないからよ。深沢家がどんな家柄で、私の実家がどういう状況か、あなただって知っているでしょう?」豪がかばい立てするように割って入った。「茉白はその当時、自分が研吾に釣り合わないって思い詰めてたんだよ。だから研吾が4年間アプローチしても、最後まで首を縦に振らなかったんだ」実の兄でありながら、豪はずっと茉白の存在を知っていたのだ。研吾が一番必死に彼女を追いかけていた頃、豪は彼にプライベートジェットを用立ててやり、有名アーティストを招いて専用のシークレットライブまで開いてやった。この大掛かりな口説き劇の蚊帳の外に置かれていたのは、私だけだった。私は自分の兄、婚約者、そして親友をゆっくりと見渡した。「面白かった?私が何も知らず、ピエロみたいに的外れな悪態をついていたのを、どんな顔で見てたの?」私の放つ威圧感に、豪は口ごもったものの、それ以上何も言えなくなった。私は研吾に向き直った。「答えてよ。すごく面白かったんでしょう?」研吾がようやく重い口を開いた。「寧々、俺たちが付き合い始めてからは、俺と茉白の間には何もない。それに、俺とあいつじゃ家柄が違いすぎて一緒になれるわけがないんだ。さっきのは、ほんの一時の気の迷いでキスしただけだ。両家の顔に泥を塗って、これ以上事を荒立てる気か?」豪も頷き、無意識のうちに研吾と茉白の隣に並んだ。かつては仲の良い4人組だと思い込んでいたのに、今や彼ら3人が肩を並べて立ち、私1人だけがその対岸で冷ややかに孤立していた。背後から足音が響き、私の両親と研吾の両親が2階のサロンから下りてきた。このクルーザーは深沢家の所有物で、今回のクルージングには乗組員を除けば両家の人間しか乗っていない。私の母は、研吾の頬にくっきりと残る平手打ちの痕を見るや否や、早足で駆け寄って私を背後にかばった。「寧々、研吾に何か酷いことされたの?」「こいつ、さっき茉白とキスしてたの
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