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第2話

Author: サボらないにしちゃん
私はスマホを手に取り、研吾とのトーク画面を開いた。

2年間ずっと一番上にピン留めされ、アイコンの右下にはピンのマークが付いていた。

じっと数秒見つめた後、私はピン留めを外した。

トーク履歴を遡ると、膨大なやり取りが画面を埋め尽くしていた。

【冷え込んできたから、上着を着ていけよ。風邪ひくな】

【寧々、胃の調子が悪いなら冷たいものは飲むな】

【会議が終わったら車で迎えに行く。ネイル付き合うから、な?】

そのトーク履歴を、すべて消去した。

今度は写真のアルバムを開いた。去年、40度近い高熱を出した時の写真が目に入った。

あの日の午前3時、熱で意識が朦朧とする私を、彼は必死に背負って病院へ担ぎ込んでくれた。

目を覚ました時、彼は病室のベッドの脇に突っ伏して眠っていた。

写真の中の研吾は寝息を立て、私の手首を今にも折れそうなほど強く握りしめている。

あの時、私はインスタに写真を投稿したのだった。

【私を一生守り抜くって誓ってくれた人がいる】

彼はその投稿に、すぐさまコメントをくれた。

【当たり前だ。絶対に約束は守る】

さらにアルバムをスクロールする。

私たちの初めての旅行、初めてのキス、そして生後間もない子犬のマメを二人で引き取った日の写真。

1枚ずつ写真を削除していくうちに、突然ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちた。

もし、これらすべてが最初から偽りだったなら、ここまで胸を引き裂かれることはなかっただろう。

あの頃の研吾が心から私を大切にしてくれていたことを、私自身が一番よく知っているからだ。

けれど涙を流すうち、これまで何気なく見過ごしてきた数々の違和感が、鮮明に脳裏をよぎり始めた。

ある時期、研吾はしきりに求人サイトをチェックしていた。

「あなたの会社、いつからブランドマネジメントの中途採用を始めたの?」

「いや、知り合いに頼まれて少し探してるだけだよ」

その後、茉白は急成長中の有名企業に転職を果たした。

あろうことか、それ以来、研吾は定期的にその会社のある地域へ出張を繰り返すようになったのだ。

私は笑って彼をからかったことさえあった。

「深沢グループが、どうしてあんな業界の会社と業務提携なんてするの?」

今になってようやく合点がいった。そこに、茉白がいたからだ。

その後、彼女の社内での出世は異様なほど早く、誰もが血眼になって奪い合う大型案件をいくつも手中に収めていった。

茉白にしてもそうだ。彼女はやたらと私と研吾の馴れ初めや関係性を詮索したがっていた。

かつて、彼女はこんなことすら尋ねてきたことがあった。

「もし彼の中に、どうしても忘れられない女性がずっと残っていたら、寧々は気にする?」

あの時の私は、笑い飛ばしながらこう答えたのだ。

「そうね、もし浮気なんかしたら、即座に婚約破棄して二度と振り返らないわ」

スマホが手のひらからすり抜け、ベッドの上に落ちた。

その言葉が、今となってはたまらなく滑稽で、残酷な皮肉に思えた。

振り返らない。

けれど今日、私はあろうことか振り返ってしまった。そして、関わっていた全員が私を騙していたという地獄のような真実にぶち当たったのだ。

そして、兄の豪。

この2年間、彼らは事あるごとに「男同士の飲み会」と称して連れ立っていた。

「寧々、今夜は研吾を借りるぞ。野郎同士の込み入った話だから、ついてくるなよ」

私は一度として彼の行動を詮索したことなどなく、むしろ颯爽と手を振って送り出していた。

「さっさと連れて行って!私は気ままな一人の夜を満喫するから!」

だが、あの二人の集まりに、一体どれほど茉白が当たり前のように同席していたというのだろう。

そこまで考えると、全身に鳥肌が立ち、恐ろしくて思考を止めざるを得なかった。

部屋の空気が息苦しくてたまらず、眠れそうにもない私は、薄手の上着を羽織って外に出た。

だが、後部甲板に足を踏み入れた瞬間、茉白の潜めた声が耳に飛び込んできた。

「正直に答えて。本当に吹っ切れたの?」

夜の潮風が冷たく吹き抜ける中、私は物陰に潜んだまま息を殺した。

「……吹っ切れてない」

研吾のその一言が、私の胸を鋭い刃のように抉った。

「私もよ」

二人は手すりに寄りかかり、夜の暗い海を見つめていた。長い沈黙の後、ようやく研吾が口を開いた。

「茉白、お前は絶対に幸せにならなきゃいけない。あいつと籍を入れる前に、お前の将来の足場は俺が責任を持って固めてやる。

身元の確かな資産家を紹介してやるから、その後は不自由なく暮らせばいい」

私は手すりを軋むほど強く握りしめた。

茉白の声がさらに湿り気を帯びて低くなった。

「本当は最初から、私を寧々に紹介するべきじゃなかったのよ。私たちが知り合わなければ、今夜みたいなことにはならなかった」

だが、研吾は諭すように言った。

「あいつと知り合わなきゃ、どうやってお前がこの世界に入り込めるんだ?

寧々はお前を親友だと思い込んで、喜んで自分の人脈に引き入れてくれた。ただ、今夜あいつが振り返るなんてのは完全な誤算だったがな

でも安心しろ。寧々がいなくなっても俺がいる。これからの晩餐会もパーティーも、すべて俺がお前をエスコートしてやる。

お前がこの社交界で確固たる地位を築くまで、俺は手を引かない」

私はその場に立ち尽くしたまま、もはや涙すら出ず、ただ乾いた苦笑いが込み上げるだけだった。

茉白が私の親友になったのは、運命の巡り合わせなどでは断じてなかったのだ。

私が彼女に人脈を広げてやり、華やかなパーティーへ連れ出し、私の友人たちに紹介してきた。

研吾は私の純粋な好意と影響力を踏み台にして、一歩ずつ彼女を私たちの世界へと引き上げていたのだ。

これ以上、一秒たりとも彼らの声を聞いていられなかった。

部屋へ引き返すと、私は迷わず親友の鳴海薫(なるみ かおる)に電話をかけた。

彼女は近くの離島のリゾートで休暇を過ごしており、昨日も「こっちの島に来ない?」と誘ってくれていたのだ。

あの時の私は、こう返信していた。

【行けないの、研吾たちとクルージングに出るから】

コール音が数回鳴り、電話が繋がった。

「ちょっとお嬢様、こんな夜更けに何事よ!まだ寝てないわけ!?」

「薫、迎えに来てくれない?」

受話器の向こうで、数秒の静寂が落ちた。

「……研吾と一緒にいるんじゃなかったの?」

「別れることにしたの。だからもう、あいつらと一緒にいたくない」

再び数秒の沈黙の後、薫のきっぱりとした声が返ってきた。

「位置情報を送りなさい。明日一番で迎えに行くから、待ってて」

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