私は宙に浮いたまま、辰哉を見下ろしている。尊大なまでに自信に満ちていた辰哉の顔が、見る間に青ざめ、次第に土気色へと変わっていく。やがて信じられないと言わんばかりに、その顔が引きつった。彼は大家をつかんでいた手を乱暴に離すと、よろめきながら後ずさり、階段の手すりに背中をぶつける。ドン、と鈍い音が響き渡る。「そんなはずない」歯を食いしばり、喉の奥から無理やり絞り出すように呟く。「美夕は、あの病弱な弟を何より大事にしてたんだ。あいつが、弟を死なせるわけがない。俺の気を引くために、こんな真似をしてるだけなんだろ?」大家は哀れむように辰哉を見つめ、首を横に振った。それ以上は何も言わず、震える足取りで自分の部屋へ戻っていく。そして、静かにドアを閉める。薄暗い廊下には、辰哉の荒い息遣いしか聞こえない。私は冷ややかな目で、その姿を見つめる。確かに、私は弟・杉本律希(すぎもと りつき)を何よりも大切にしていた。心臓移植の費用を工面するため、学業もプライドも捨てた。そして、人として生きることすら、諦めた。まるで忠実な飼い犬のように辰哉に付き従い、何を言われても、逆らわなかった。遥香が私を気に入らないと知れば、言われる前に自分から姿を消した。辰哉が不機嫌なときは、八つ当たりされながらも、必死に笑顔を作って耐えた。すべては、律希を救ってやると辰哉が約束してくれたから。しかし今、私も律希も、もうこの世にはいない。それなのに辰哉は、私が死んで3年が経った今も、放火をした遥香の罪を私に被せようとしている。これほど滑稽な話があるだろうか。辰哉はその場に長く立ち尽くしていた。あまりにも長くて、廊下の人感センサーライトまで消えてしまう。暗闇の中、スマホを取り出す。画面の冷たい光がその歪んだ顔を青白く照らし出した。そして、どこかへ電話をかける。「……俺だ。美夕と、その弟の律希が今どこにいるか調べろ。そうだ。国内の病院を全部調べろ。出入国の記録もだ。どんな手を使っても、夜が明けるまでに、あいつらの居場所を突き止めろ!」電話を切ると、辰哉は拳を壁に叩きつけた。「美夕、絶対に見つけてやる。死んだら、すべてが終わったと思うなよ」階段を下りていくその背中を見つめながら、私の心は完全に冷え切っていた。辰哉
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