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死後3年、婚約者は私に罪を着せる
死後3年、婚約者は私に罪を着せる
Author: 栗本こはる

第1話

Author: 栗本こはる
私は宙に浮いたまま、辰哉を見下ろしている。

尊大なまでに自信に満ちていた辰哉の顔が、見る間に青ざめ、次第に土気色へと変わっていく。やがて信じられないと言わんばかりに、その顔が引きつった。

彼は大家をつかんでいた手を乱暴に離すと、よろめきながら後ずさり、階段の手すりに背中をぶつける。ドン、と鈍い音が響き渡る。

「そんなはずない」

歯を食いしばり、喉の奥から無理やり絞り出すように呟く。

「美夕は、あの病弱な弟を何より大事にしてたんだ。あいつが、弟を死なせるわけがない。

俺の気を引くために、こんな真似をしてるだけなんだろ?」

大家は哀れむように辰哉を見つめ、首を横に振った。それ以上は何も言わず、震える足取りで自分の部屋へ戻っていく。そして、静かにドアを閉める。

薄暗い廊下には、辰哉の荒い息遣いしか聞こえない。

私は冷ややかな目で、その姿を見つめる。

確かに、私は弟・杉本律希(すぎもと りつき)を何よりも大切にしていた。

心臓移植の費用を工面するため、学業もプライドも捨てた。そして、人として生きることすら、諦めた。

まるで忠実な飼い犬のように辰哉に付き従い、何を言われても、逆らわなかった。

遥香が私を気に入らないと知れば、言われる前に自分から姿を消した。

辰哉が不機嫌なときは、八つ当たりされながらも、必死に笑顔を作って耐えた。

すべては、律希を救ってやると辰哉が約束してくれたから。

しかし今、私も律希も、もうこの世にはいない。

それなのに辰哉は、私が死んで3年が経った今も、放火をした遥香の罪を私に被せようとしている。

これほど滑稽な話があるだろうか。

辰哉はその場に長く立ち尽くしていた。あまりにも長くて、廊下の人感センサーライトまで消えてしまう。

暗闇の中、スマホを取り出す。画面の冷たい光がその歪んだ顔を青白く照らし出した。

そして、どこかへ電話をかける。

「……俺だ。美夕と、その弟の律希が今どこにいるか調べろ。

そうだ。国内の病院を全部調べろ。出入国の記録もだ。どんな手を使っても、夜が明けるまでに、あいつらの居場所を突き止めろ!」

電話を切ると、辰哉は拳を壁に叩きつけた。

「美夕、絶対に見つけてやる。

死んだら、すべてが終わったと思うなよ」

階段を下りていくその背中を見つめながら、私の心は完全に冷え切っていた。

辰哉、あんたは間違っている。

死こそが、本当の始まりなのだから。

……

辰哉の車は夜の街を猛スピードで駆け抜け、やがて高級住宅街にある1軒の豪邸の前で急停車した。

辰哉の妹、遥香が暮らす家だ。

私はそのまま辰哉の後を追って屋敷の中へ入る。

リビングでは、遥香が落ち着かない様子で歩き回っている。辰哉の姿を見るやいなや、命綱にすがりつくように駆け寄る。

「お兄ちゃん!やっと帰ってきた!警察からまた電話があったの。もう一度、事情を聞きたいって!」

辰哉はジャケットをソファに放り投げ、険しい顔で言う。

「慌てるな」

遥香の目がたちまち潤む。

「慌てるに決まってるじゃない!あの火事で人が死んだのよ!もし私がやったってバレたら……」

「黙れ!」

辰哉は苛立たしげな目を向け、鋭い声で遥香の言葉を遮った。

「ちゃんと始末したんじゃなかったのか?どうして警察に目をつけられている?」

遥香は唇を噛み、恨めしそうに答える。

「そんなの知らないわよ!私はただ、あの女が目障りで、あいつのしょぼいギャラリーを燃やしてやりたかっただけだもん!

まさか、あの馬鹿な女が、ガキを助けるために火の中へ飛び込むなんて思わなかったのよ!」

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