All Chapters of 錬金術にしか興味のないアルケミストの異世界勘違い道中: Chapter 1 - Chapter 10

50 Chapters

1

「さあナタ様!皆が待っております!」「待ちなさい!ナタ様は目立つのがお嫌いなのですよ!」「ナタ様ぁ、僕と一緒にお昼寝しよぉ~。」「退け貴様らぁ!ナタ様!ここはぜひ私と!」「ナタ様!」「ナタ様ぁ!!」(……なんでこんなことになってるんだ……?)これは錬金術にしか興味のない主人公による、異世界勘違いストーリーである。****VRゲーム「冒険ファンタジー、ステラート」。4年前に発売され、一時期は数百万人というプレイヤーがクエストに勤しんだオープンワールドのゲームである。平凡な高校生、鈴木《すずき》 陽向《ひなた》もまた、4年前の初期からこのゲームにどハマりし、熱中しているプレイヤーの1人だった。しかし、「え、お前まだ錬金術師《アルケミスト》やってんの……?」4年間一度も転職をした事の無いプレイヤーでもあった。「うん、まだ集めきれてないレシピあるし。」同じステラートプレイヤーのクラスメイトの言葉に、陽向はつまらなそうにスマートフォンを弄りながら答える。最初は同じ熱量で語り合えたので楽しかったが、ここ最近の彼は「自分はレベル250を越えたのにお前は~」とか、「生産職なんて負け職いつまでしてんの?俺なんて剣士スキルをウンタラカンタラ~」とマウントじみた話が鼻について仕方なかった。ステラートで初期の職業《ジョブ》のままゲームを続ける者はほぼいない。ジョブチェンジがし易いゲームということもあるが、特に錬金術師《アルケミスト》はレベル10以下のショップコインの手持ちが少ないプレイヤーが使う職業《ジョブ》だ。理由としては錬金術師《アルケミスト》は自分で回復薬を作れるため、ショップで回復薬を購入できないプレイヤーが回復薬目当てに使うのだ。しかし、レベルが10を越えれば、クエストでたんまりショップコインを貰える。ある程度になれば、わざわざ素材を集めてMP消費し
last updateLast Updated : 2026-09-21
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2

「えーっと、つまりステラートはただのゲームじゃなかった、と。」ベッソベソビッシャビシャに泣きまくる女から何とか聞き出した情報曰く、女は世界を創設した女神であり、その世界こそがステラートだというのだ。「でも、ステラートの世界を支える基盤がまだ未熟で、地球の人間の力を借りようとした、と……」 『そうなのよ~~!地球は数多の神が存在する強力な世界だから、そこで作り出された人間の思想エネルギーも強力なのよ。だから、ゲームという形で人間の思想エネルギーをステラートに送り込んでいたんだけれど……』「ユーザーが減ったことにより、それも難しくなったと。」厳密にいえばステラートの世界を元にして作ったゲームであって、実際のステラート世界を遊んでいるわけだはないらしい。つまり女神にとって重要だったのはステラートという世界の存在を認知してもらう事。確かに、日本には言霊や信仰による神の存続など、思想や思考がエネルギーになるという考え方は古くから存在する。特に日本人はエンタメが大好きな人種だし、好きなゲーム、と言う形で信仰に似た思想を集めるというのも理にかなっているだろう。しかし、「それなら俺一人が転移したところで意味は無いのでは?」そう、ステラートは最盛期には数百万人のプレイヤーがいたゲームだ。それだけの人数の思想エネルギーでゲームではないほうのステラート世界を維持していたとなれば人間が一人転移した程度でどうにかできる問題とは思えない。『いいえ、この世界の人間が一人転移するだけで、二つの世界に『縁』が結ばれるの。』そう答えた女神は丸めていた背をすっと伸ばした。『縁が繋がれば世界により効率よく思想エネルギーが流れ込むわ。そうすれば不安定さによって生み出される魔獣の数も減る。瘴気の発生も抑えられるの。』(そういえばクエストで魔獣討伐とかあったな……実際のステラートの世界にも魔獣がいるんだ……)それってつまり、魔獣の素材もステラートの世界ではリアルに手に入
last updateLast Updated : 2026-09-21
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3

最初に女神の領域に引きずり込まれた時と同じように眩いゆい光に思わず目を閉れば、次に開いた瞬間には全く知らない森の中に立っていた。陽向はまず自身の手のひらを見、そしてゆっくり握って開いて、と動作を繰り返す。(すごい……ちゃんと自分の体としての感覚がある。)見えるその手はゲームのアバターらしく白く滑らかだ。すらりと伸びる均整のとれた指が再び拳を作る。現実世界の自分も決して太くはなかったが、特段きれいでもない節の出ている手だった。(本当にゲームのままなのかな?)見える範囲では自分の使っていたアバターっぽいが、正直皮なんてどうでもいいのだ。大事なのはそう、錬金術ができるか否か!VRゲームと同じように視界の隅に浮かぶメニューボタンを押し、次に『錬金術』のボタンを押せば目の前に錬金釜とセットのレードルが現れる。今度はアイテムボックスと書かれたボタンを押し、空の錬金釜に薬草と精製水を入れれば、VRゲームと同じように魔法陣が浮かび上がった。それに陽向は右に三回、左に一回、その後右にもう一度かき混ぜる。正しい回数混ぜられた錬金釜の魔法陣は光り輝き、そしてポンッと音を立てて小ぶりな瓶に入った初級ポーションが出来上がった。そう、瓶に入った初級ポーション。瓶の素材はどこから来た。しかし陽向はそこにツッコむことなく、目を輝かせる。「おおぉ~!本当にゲーム通りだ!」と、初級ポーションを両手で抱え、木々の木漏れ日の光に透かして見せるその顔に女神と対峙した時の無表情さは見当たらない。天界で覗き見ていた女神はハンカチを噛んだ。私より錬金術だっていうの!?という女神の叫びはステラートの世界に立つ陽向には聞こえない。「よし、検証タイムだ!」どれだけゲーム性が反映されているのか。逆にリアルにするにあたってゲーム性が反映できなかった部分はどこなのか。自分は今どこにいてどれだけのことが1人で可能なのか。陽向があれもこれもと検証を始め、一通り本人が満足するころには森はすっかり深い夜の闇に覆われていた。
last updateLast Updated : 2026-09-22
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4

少年の髪と同じ、金の瞳が露わになり、彼は「あれ……私は……」と小さく言葉を零した。それに青年は「ああ、よかった!ソール様!お目覚めで何よりです!」と安堵の混ざった声をかけながら、その背に手を回し、上体を起こすのを手伝う。そして、きょろりとあたりを見渡しナタを視界にとらえ、彼はわずかに目を丸くした。「何故『女神の森』に人間が……」そうぼそりと零された言葉に、「ソール様。彼が上級ポーションを分けてくれたのです。」そう青年が説明すれば、ソールと呼ばれた少年は丸くしていた瞳にわずかに温かみを灯す。一方ナタはそんな少年を(ゲームも即効性だったけど、ここでも即効性なんだな。意識ははっきりしているし、これが通常の効能なんだろうか?それとも呪毒に侵された時間によって変化があるんだろうか?今回呪毒を受けてから割と早い段階でポーションを飲んだと思うから意識の回復の速さに関しては実験を重ねてデータを取った方がいいな。)と、がっつり観察していた。こいつには助かってよかったね、なんていう感性は無い。あるのは自分の錬金術でつくったポーションの効能だけである。しかしそんなナタの内心を知る由もない少年はふわりと笑って「そう……礼を言おう、名も知らぬ少年よ。君のおかげで私はまだこの国のために動ける。」そうナタへと言葉をかけた。(うわぁ、なんか国のためとか出てきた。ガチで面倒ごとなやつだこれ。)尊大な口調や、セリフから明らかに1貴族とかではなく王族に連なる人間だろう。ナタとしては面倒ごとに関わると錬金術の時間が減るのでこのまま森でお別れしたい。「申し遅れたね。私はソール・ソラーレ。君の名前は?」しかしそんなナタの気持ちとは裏腹に、そうソールが名乗れば、青年がすかさず「ソール様!」と声をあげる。切実にやめてほしい。ファミリーネーム言われたところで俺にはどこの国の要人かわからん、とナタは小さくため息をついた。そ
last updateLast Updated : 2026-09-23
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5

ナタの視線の先には、頭《こうべ》を垂れるれるイナホモドキ……じゃなかったソール・ソラーレ。少し下がった後ろでマールスもまた、片膝をつきその頭を垂れていた。先ほどとは打って変わった態度と口調にナタは半歩下がる。あと何、女神の御子《おこ》って。 しかもBGMは雷に撃ち抜かれた獣人たちのうめき声。嫌な状況だなここ。「……あの、そーゆーのやめて欲しいです……」と、顔を顰めたまま告げるナタに対し「ナタ様の仰る通りに。」と恭しいセリフと共にようやくソール達はその頭をあげた。恐らく、というか確実に面倒な勘違いをされている。ナタは面倒事の予感に頭が痛くなってきた。ナタの予感の通り、ソール達はナタの事を女神の子供と思い込んでいた。森を燃やされ怒ったこともナタは錬金術の素材が失われることに怒っていたのだが、ソール達は母の森を燃やされたことに怒ったと解釈したのだ。「ところで、ナタ様はこれからどうするご予定で?」ニッコリと音が付きそうな笑顔を見せて来るソールに、ナタの背にぞわりと嫌な物が走る。(……これは逃げた方がいいか……?)ナタの目的は錬金術を心ゆくまで楽しむこと。だがソールにこれ以上関わればお国の厄介ごとに巻き込まれる気がしてならない。(とはいえ、俺は生産職だから騎士のマールスに逃げ足で勝てる気がしないし……さて、どうしようか……)ゲーム機能で何か良いものがあっただろうか、と視界の四隅にあるゲーム画面に目を滑らせていると、(あ、これ良さそう。)アイテム、スキル設定、衣装箱と操作ボタンをスクロールしていった先、『マイルーム』と書かれたボタンが目に入った。 そう、実はゲームのステラートにはマイルームとして箱庭ゲーム機能も実装されていた。クエストやイベントで家具を手に入れたり、素材を集めれば自分で家具を作ったりと、かなり自由度高くカスタムできる。そのため中にはインテリアを集めるためにクエストに奔走するプレイヤーがいた位だ。ただナタは錬金術にしか興味なかったのでこの機能をすっかり忘れていた。別に錬金術はどこででもできるのでわざわざ
last updateLast Updated : 2026-09-24
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6

(……あののんびりした角生えてるやつが話しかけてきたのか……後ろに従者みたいなのぞろぞろ引き連れているし、絶対お偉いさんじゃん……関わりたくねー。)うげぇ、と思わず顔を顰めたナタに、角のある少年は同じ薄い水色を纏う髪をガシガシ掻きながら、「えぇこれ絶対嫌われてるよぉ……諦めて滅ぶしかなくない?うちの国。」と後ろのローブ集団を振り向く。「それを何とかするのが『フィウーメ』の姓を持つ貴方様のお役目でしょう!?」「どうか、御子のお怒りを沈めてくださいませ!!」「ただでさえやらかした奴らのせいでエスト国はあちこちから非難されているのです!我が国の貢物がお気に召したのならきっと希望が!」(……か、帰りてー!)わぁっと一斉に騒ぎ立てるローブ集団の言葉にナタは更に顔を歪めた。しかもこいつらエスト国のやつらかよ。別にお前らの国自体に興味は無いんだ。興味があるのは素材だけなんだよ、とナタは内心悪態をつく。(……ん?というか……)「……『ソラーレ』じゃないのか?」森の中に入れる人間は限られる、みたいなこと言っていたのに、こいつらも入れるのか?とナタは僅かに首を傾げた。「……あれぇ?チェントロ国のソラーレは御子が見限ったって話じゃなかったっけぇ?だから今は各国の王族が交代で祭壇に祈りを捧げに来てるんだけどぉ……」(いや、知らねー……)しかも王族とか聞こえたな。(ということはこいつはエスト国の王族ってことか。)めんどくせぇ、という顔を隠しもしないナタに、「うーん……」とエスト国の少年を悩むような仕草を見せる。しかし、直ぐにパッと顔を上げると、真っ直ぐこちらに目を向け、その場で片膝を着き、手を顔の前で組んだ。
last updateLast Updated : 2026-09-25
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7

「出血は派手ですが、傷自体は浅そうですね。そういえば額に近い部分って浅くとも出血しやすいんでしたっけ。そのあたりの人体構造は獣人でも変わらないんですねぇ。内臓に位置も種族差はないんでしょうか?それにしてもあんなに硬そうなもので殴られてこの程度の傷とは……やはり耐久値自体が高いんですねぇ。これなら低級ポーションでも治りますかね?でもなぁ、脳みその状態までは診断できないしなぁ……でも低級ポーションの効き方見てみたいし……」止まらない止まらない。言葉も好奇心も欲望も止まらない。早口フルスロットルに捲し立てられる言葉たちに頭を掴まれたまま大混乱真っただ中のネプト。しかも誰しもが必ず持つ体臭がナタから全くしないことで、ネプトは余計に困惑していた。まあ、こいつの体はアバターだから匂いなんてするわけがない。獣人で鼻がいい故の弊害。深まっちゃうね神疑惑。「あ、あの、御子様……?」「とりあえず低級ポーションあげますね。飲んでください。今すぐ。」犬耳ローブの男の言葉など耳に入らないナタは「ほら早く。」とアイテムボックスから取り出した低級ポーションをネプトの顔に押し付ける。それに犬耳ローブの男は息を飲んだ。そう、アイテムボックスから出した、と言う事はナタ以外の者たちからすれば突然手のひらに低級ポーションが現れたように見える。下手したらその手のひらでポーションを錬成したように見えるのだ。まさに神の御業。ゲームシステム故そういうものだ、と思い込んでいるナタは気づいていないが。「うぅん……この神、押しが物理的に強いぞぉ……」「神じゃないです。ほら早く。」頬にガラス瓶がめり込む勢いで押し付けられているネプトの言葉にナタがそう言ったところで誰も信じるわけがない。何ならナタは実際にポーションで傷が治る様を観察したくてたまらないだけなので、そんな周りの様子などちっとも気にとめていない。そういう所だぞ。「…&h
last updateLast Updated : 2026-09-26
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トロイヤ大陸の中心に位置する、チェントロ国。唯一女神の森を管理することを許されたソラーレの一族が治める国。そのチェントロ国に、この度、密《ひそ》かに各国の王族が集まっていた。議題は勿論、突如降り立った女神の御子、ナタ・ディアーナについてである。「おや?ソールは再び管理者になったのかい?」チェントロの席に座すソールの姿に、北のノルド国代表、レトゥム・テネーブル第一王子は王子は意外そうに、魔族の特徴であるその大きな黒目を丸くする。前回、御子の怒りを買ったとされた時にはソールの兄が急遽代理で管理者となり、祭壇の建設を進めた。真っ先に建設に賛同した獣人の国、エスト含め、現場にいたソールも御子の怒りを買った可能性があったからだ。「なんかねぇ、ナタ様全然怒ってなかったみたいだから、うちの方から再推薦したのぉ。まあ、戻るにしてももっと時間かかるかと思ったけどねぇ。」と、聞こえてきた間の抜けた話し方に、レトゥムが視線をずらせば、だらしなく頬杖をついた東のエスト国代表、ネプト・フィウーメの姿が目に入る。仮にも国を代表してきているのに……と、レトゥムは苦言を吐きたくなったが、それよりも気になった言葉に吐き出しかけた苦言を飲み込んだ。「ま、まさか、お会いしたのかい!?女神の御子に!?」レトゥムの言葉に「まぁ、それは意外ですわ。女神の森を燃やしたのは獣人であるはずなのに……」と、西のオーヴェスト国代表、ファウナ・フォレスタ王女がその小さな口に手を添えた。そんな二人の驚きようを横目に「へへへ~羨ましいでしょぉ?僕あの方の顔面全身で浴びたんだぁ~。」とにへにへ気持ち悪い笑みを浮かべるネプト。正直何を言っているのか分からない。とりあえずレトゥムは気持ち悪いな……、と自身の座る椅子をネプトから少し遠ざけた。そんなネプトをフォローするように、コホン、と一つ咳払いをし、「私のまだやり残したことがございましたからネプト様の口添えは大変ありがたく……未熟者ですが、再び管
last updateLast Updated : 2026-09-27
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9

考えたこともない話だった。生まれた時からルーナ・ディアーナを最高神に据えた女神教を信仰し、祈り、女神が誰もを見守っていると信じ続けていた。 しかし、言われれば各国の王族であるこの場にいる誰もが女神の姿どころか声を聴いたこともない。「……女神、ルーナ・ディアーナが降臨し、ソラーレに管理人として使命を与えたのも最早1000年も昔の話……たしかに神はいちいち下界の人間を気にすることはないのかもしれませんね。」そう、どこか寂しそうな声色をにじませたソールに「ソラーレがそれを言っちまったら神殿が黙ってねーんじゃねぇの?」と、ウェスタがため息をついた。「構いませんよ。神殿の内部は腐り始めている……いっそ、ナタ様の名でも使って一掃してみますか。」 「まぁナタ様なら名前勝手に使われても気にしなそぉー。」やっちゃえー、なんて無責任な野次を飛ばすネプトに、レトゥムは深々とため息をついた。「ならば逆に、それほどまでに人の営みに興味のない神が、なぜ今になって現れたのでしょうか?」ふと疑問を口にしたファウナ。それに「確かに、何か目的があって現れたのかどうなのか……」と、レトゥムも顎に指を添えて考えるそぶりを見せる。しかし、「……もしかしたら生まれたばかり、とは考えられないでしょうか?」と、ソールがその長いまつげを伏せ、少し視線を迷わせながらそんな言葉を落とした。「確証がある訳ではないのですが、その、神にこんなことを言うのは不謹慎かもしれませんが、少し子供っぽい言動があったのです。なので、わざわざ下界に来た、と言うよりもあくまで興味のある所に現れた所を我々が出会った、と言うのが正しい気がします。」ディアーナの姓について問われた時、彼はうんざりとした顔を隠すことなく、しかも「めんど。」とはっきり言っていた。ソールにはそれが見た目よりも幼い言動に思えたのだ。 そしてそんなソールの言葉に、「あ、言われてみればぁ。」と、ネプトがぽん、と己の手のひらに拳を置いた。「祭壇の供物も手をかざしたら消えたんだけど、あれどうも回収していたみたいでさぁ。従者が静止の声を
last updateLast Updated : 2026-09-28
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10

ナタは絡んできた酔っ払い、基《もとい》カルロの家をさっそく占領した。家と言っても今にも崩れそうな廃材のボロ屋だが。勝手に『診療所』と札を立て、勝手に家の中を改装し、勝手に物を断捨離した。カルロは泣いていい。カルロの家はスラム街でも端の方で、首都の人間に目を付けられたくないナタからすればなかなかいい条件だった。カルロは自分の家の中で好き勝手やるナタをただ呆然と見やる。何か言って下手に怒らせたら今度こそ魔法で殺されるかもしれない。スラムでは強い奴に逆らわないのが長生きのコツなのだ。ただなけなしの金で買った酒だけは捨てないでほしい。カルロは外に放り棄てられた酒瓶をいそいそと拾い上げた。魔法なんだろうか。いつの間にか置かれていたベッドやら椅子やらを見ながらカルロはぼうっと「なんでこんなすげぇ魔法使いがこんなスラムにいるんだろ」とアルコールの残る頭で考える。このスラムは特に冒険者崩れの多い、ノルド国随一の治安の悪いスラムなのだ。冒険者としてギルドに所属していたものの、魔物討伐で大けがをし引退を余儀なくされ、働き口もなく、貧困の末に流れ着く冒険者の墓場。魔物によって手足の欠損した者。内臓に後遺症が残った者。弱り病気になった者。そんな者たちが地面に転がるのがこのスラムなのだ。だが、目の前で好き勝手やる魔法使いにはそのどれも当てはまらない。カルロは何だか全てがどうでもよくなり、拾い上げた酒瓶を徐に煽った。「よし、とりあえずこれでいっか。」と、幾分かして納得したのか、ナタは手の埃をはたき落としながらボロ屋から出てきた。そして地面に座り込んで酒瓶を口につけているカルロに、ナタは一つの小瓶を差し出した。「あ?んだよこれ。」怪訝そうに眉を歪めたカルロに「君が記念すべき患者1人目だろ?その右足、麻痺が残っているじゃないか。」と、小首を傾げながらあっさりと言ったナタにカルロはその目を見開く。カルロもまた、かつてはギルドで活躍した素晴らしい冒険者だった。しかし、大型の魔物討伐の際、死ぬほどの大怪我を負った。すぐに神
last updateLast Updated : 2026-09-29
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