تسجيل الدخول最初に女神の領域に引きずり込まれた時と同じように眩いゆい光に思わず目を閉れば、次に開いた瞬間には全く知らない森の中に立っていた。
陽向はまず自身の手のひらを見、そしてゆっくり握って開いて、と動作を繰り返す。
(すごい……ちゃんと自分の体としての感覚がある。)
見えるその手はゲームのアバターらしく白く滑らかだ。すらりと伸びる均整のとれた指が再び拳を作る。
現実世界の自分も決して太くはなかったが、特段きれいでもない節の出ている手だった。(本当にゲームのままなのかな?)
見える範囲では自分の使っていたアバターっぽいが、正直皮なんてどうでもいいのだ。
大事なのはそう、錬金術ができるか否か!
VRゲームと同じように視界の隅に浮かぶメニューボタンを押し、次に『錬金術』のボタンを押せば目の前に錬金釜とセットのレードルが現れる。
今度はアイテムボックスと書かれたボタンを押し、空の錬金釜に薬草と精製水を入れれば、VRゲームと同じように魔法陣が浮かび上がった。それに陽向は右に三回、左に一回、その後右にもう一度かき混ぜる。正しい回数混ぜられた錬金釜の魔法陣は光り輝き、そしてポンッと音を立てて小ぶりな瓶に入った初級ポーションが出来上がった。
そう、瓶に入った初級ポーション。瓶の素材はどこから来た。
しかし陽向はそこにツッコむことなく、目を輝かせる。「おおぉ~!本当にゲーム通りだ!」
と、初級ポーションを両手で抱え、木々の木漏れ日の光に透かして見せるその顔に女神と対峙した時の無表情さは見当たらない。天界で覗き見ていた女神はハンカチを噛んだ。私より錬金術だっていうの!?という女神の叫びはステラートの世界に立つ陽向には聞こえない。
「よし、検証タイムだ!」
どれだけゲーム性が反映されているのか。
逆にリアルにするにあたってゲーム性が反映できなかった部分はどこなのか。自分は今どこにいてどれだけのことが1人で可能なのか。
陽向があれもこれもと検証を始め、一通り本人が満足するころには森はすっかり深い夜の闇に覆われていた。
(名前はナタ・ディアーナ。種族のところは人間のまま……だな。一応。)
ひとまず今日のところはここで野宿しようと火をおこし、焚火に当たりながら自身のステータス画面を見る。
恐らくゲームと一番違う点が多いのはこのステータスだ。
元々は陽向からヒを抜いただけのアバター名だったが、女神の名を分け与えられ一応異世界でも違和感のない名前になっていると思う。多分。
実際のステラートの世界でファミリーネームがどうなっているのかまだわからないので確信はないが。(ま、平民はファミリーネーム無いようならナタだけ名乗っとけばいーだろ。)
そして名前の横の年齢種族。年齢は17のままだが種族は『人間(仮)』と表記されている。ゲームで選んだ種族は普通に人間だったが、まあ異世界転移してきた人間だから(仮)なのかもしれない。
(正直他の職と違って錬金術師《アルケミスト》は種族バフとか無いし、なんだろーと別にいーや。)
と、陽向ことこの度ナタとなった少年はさらに下へと視線を滑らせる。
(あ、基本ステータスもゲームより上がってる。)
元々錬金術師《アルケミスト》はステータスが低く、それもあって不人気だった。
しかし女神の計らいにより少しステータスが底上げされていた。(ま、低いよりいっか。素材集めやすくなるし。)
そしてゲームではクエストやイベントクリアで得られる称号の一覧部分。そこは加護一覧と名称が変わり、今まで手に入れた称号以外に『女神に選ばれし者』『女神に名を分け与えられし者』の二つが追加されていた。
(これ……何か効果あったりするのかな?)
ゲームでは他のプレイヤーへ見せるプロフィールに掲示するくらいしか使い道がなかったが、称号ではなく加護になっているのなら何か意味があるのかもしれない。
「な、なぜここに人が……!?」 「え?」思考を耽っていたナタの意識が飛び込んできた声によって浮上する。
声の方へと顔を向ければ、そこには目を見開きこちらを凝視する青年と、怪我でもしているのか肩で支えられ、青い顔で目を閉じている少年が立っていた。支えられていると言っても、意識が朦朧としているのかはたまた気絶しているのか、脱力し、半ば引きずられるようにしてそこに居る。二人とも騎士のような鎧を着ており、青年は深い青の髪色、少年は焚火の光が反射し輝くほどの美しい金髪を持っていた。
しかしナタは
(さすが異世界。アイイイロ草とイナホモドキみたいな色合いだぁ。)
なんて口に出していたらシバかれていただろう事を思い浮かべていた。ちなみにどちらも錬金術の素材で滅茶苦茶苦い薬草である。
しかしそんなことを考えているとも知らない青年は何を思ったのか「ここがどこだかわかっているのか!?」と声を荒げた。しかしハッとしたように口に手をやり、周囲を確認するように視線を滑らせた。(……もしかして追われている?)
巻き込まれるのは面倒だなぁ、せめて素材になる魔物だったらいいなぁ、なんて思いながら
「……ケガしているんですか?」
と、青い顔でぐったりと脱力している少年へと目を向けた。
すると青年は何か思案を巡らせているのか目をウロウロ泳がせる。しかし、諦めたように「……火を消せ。襲われるぞ。」と息を吐いた。そこら辺の魔物なら襲われたところで返り討ちに出来るだけどな、と思いつつもナタは言われた通り焚き火に水を掛けた。
「で、その方大丈夫なんですか。傷薬でも煎じましょうか?」
何なら錬金術のスキル試せるし、是非作らせて欲しい。
しかし、ナタの言葉に青年は酷く顔を歪めて「……いや、これは呪毒《じゅどく》だ。高レベルの神官でなければ解呪できない故急いでいるんだ……!」
と吐くようにして言葉を続けた。
しかし、「え、治せますけどそれ。」
ナタは何を言ってんだこいつ、と言わんばかりの白けた目を青年に向けた。
「は……?」
「状態異常回復ポーションで治せますよそれ。」そう、呪毒はゲームでも登場したデバフのひとつだ。主に闇属性の神官や魔物とも戦闘で付けられ、HPが少しづつ減っていく厄介なデバフ。
しかしナタの言う通り、呪毒は状態異常に含まれるので状態異常回復ポーションで解呪可能なデバフでもある。ただし上級ポーションでなければ完全な解呪にはならないが。「い、いやいや、呪毒を治すほどの上級ポーションなんてそう簡単に手に入るものじゃ……!素材だって入手困難な物ばかりなんだぞ!」
「上級の状態異常回復ポーションならブルードラゴンモドキの鱗とマンドラゴラの粉末とエンジェルリーフの新芽でしたよね。手持ちにありますよ。」
ナタが何でもないように言うので青年は「はぁ!?」とその声を荒げ、再びハッとしたように口を噤み、「なんで入手困難な素材こんなガキが持ってんだ……」とひそめた声で呟く。
ナタとしてはここで恩を売って近くの町まで案内してもらおうかな、という魂胆だったが「そ、そもそも素材が手に入っても調合できる奴なんて……俺は剣士だし……」と青年が再び苦々しく言葉を零すので、1つ息を吐いてバックからある物を取り出した。
「こちらが完成品です。」
「あるのかよ!!」
三分クッキングよりも早い完成品の登場だった。
火がないのであまりしっかり見えてはいないだろうが、どうやら青年には縋りたい藁だったようで少年を地面に寝かせると、その場で勢いよく頭を下げた。「頼む……!その上級ポーションを買わせてくれ!金は後で必ず払う!この方を今ここで失うわけにはいかないんだ……!」
と、地面に額をこすりつけるほどの懇願に、あー、この少年もしかしなくとも高貴な方ってやつ?とナタは気づいてしまった事実に露骨にめんどくさそうな顔をする。
ここがどこの国かは知らないがゲームのステラートでもいくつかの国は王族と貴族による統治が行われていた。追われているかもしれないその素振りからしても巻き込まれれば碌な事にならないだろう。
ナタははあー、と1つ息を吐き、「金なんて要りませんよ。差し上げますから早く飲ませたてあげてください。」
実際の呪毒に対してどういう風に効いていくのか興味あるし、とナタは内心で言葉を足しながら、その小瓶を青年に差し出した。
すると、パッと頭を上げた青年は「恩に着る……!」ともう一度頭を下げた後、急いでその瓶を受け取ると少年の頭を軽く持ち上げその口にポーションを流し込んだ。
月明かりに、空になった硝子瓶がキラリと反射する。
そして、イナホモドキとナタに称された髪を持つ少年の瞼が、僅かに震え、ゆっくりと持ち上げた。最初に女神の領域に引きずり込まれた時と同じように眩いゆい光に思わず目を閉れば、次に開いた瞬間には全く知らない森の中に立っていた。陽向はまず自身の手のひらを見、そしてゆっくり握って開いて、と動作を繰り返す。(すごい……ちゃんと自分の体としての感覚がある。)見えるその手はゲームのアバターらしく白く滑らかだ。すらりと伸びる均整のとれた指が再び拳を作る。現実世界の自分も決して太くはなかったが、特段きれいでもない節の出ている手だった。(本当にゲームのままなのかな?)見える範囲では自分の使っていたアバターっぽいが、正直皮なんてどうでもいいのだ。大事なのはそう、錬金術ができるか否か!VRゲームと同じように視界の隅に浮かぶメニューボタンを押し、次に『錬金術』のボタンを押せば目の前に錬金釜とセットのレードルが現れる。今度はアイテムボックスと書かれたボタンを押し、空の錬金釜に薬草と精製水を入れれば、VRゲームと同じように魔法陣が浮かび上がった。それに陽向は右に三回、左に一回、その後右にもう一度かき混ぜる。正しい回数混ぜられた錬金釜の魔法陣は光り輝き、そしてポンッと音を立てて小ぶりな瓶に入った初級ポーションが出来上がった。そう、瓶に入った初級ポーション。瓶の素材はどこから来た。しかし陽向はそこにツッコむことなく、目を輝かせる。「おおぉ~!本当にゲーム通りだ!」と、初級ポーションを両手で抱え、木々の木漏れ日の光に透かして見せるその顔に女神と対峙した時の無表情さは見当たらない。天界で覗き見ていた女神はハンカチを噛んだ。私より錬金術だっていうの!?という女神の叫びはステラートの世界に立つ陽向には聞こえない。「よし、検証タイムだ!」どれだけゲーム性が反映されているのか。逆にリアルにするにあたってゲーム性が反映できなかった部分はどこなのか。自分は今どこにいてどれだけのことが1人で可能なのか。陽向があれもこれもと検証を始め、一通り本人が満足するころには森はすっかり深い夜の闇に覆われていた。
「えーっと、つまりステラートはただのゲームじゃなかった、と。」ベッソベソビッシャビシャに泣きまくる女から何とか聞き出した情報曰く、女は世界を創設した女神であり、その世界こそがステラートだというのだ。「でも、ステラートの世界を支える基盤がまだ未熟で、地球の人間の力を借りようとした、と……」『そうなのよ~~!地球は数多の神が存在する強力な世界だから、そこで作り出された人間の思想エネルギーも強力なのよ。だから、ゲームという形で人間の思想エネルギーをステラートに送り込んでいたんだけれど……』「ユーザーが減ったことにより、それも難しくなったと。」厳密にいえばステラートの世界を元にして作ったゲームであって、実際のステラート世界を遊んでいるわけだはないらしい。つまり女神にとって重要だったのはステラートという世界の存在を認知してもらう事。確かに、日本には言霊や信仰による神の存続など、思想や思考がエネルギーになるという考え方は古くから存在する。特に日本人はエンタメが大好きな人種だし、好きなゲーム、と言う形で信仰に似た思想を集めるというのも理にかなっているだろう。しかし、「それなら俺一人が転移したところで意味は無いのでは?」そう、ステラートは最盛期には数百万人のプレイヤーがいたゲームだ。それだけの人数の思想エネルギーでゲームではないほうのステラート世界を維持していたとなれば人間が一人転移した程度でどうにかできる問題とは思えない。『いいえ、この世界の人間が一人転移するだけで、二つの世界に『縁』が結ばれるの。』そう答えた女神は丸めていた背をすっと伸ばした。『縁が繋がれば世界により効率よく思想エネルギーが流れ込むわ。そうすれば不安定さによって生み出される魔獣の数も減る。瘴気の発生も抑えられるの。』(そういえばクエストで魔獣討伐とかあったな……実際のステラートの世界にも魔獣がいるんだ……)それってつまり、魔獣の素材もステラートの世界ではリアルに手に入
「さあナタ様!皆が待っております!」「待ちなさい!ナタ様は目立つのがお嫌いなのですよ!」「ナタ様ぁ、僕と一緒にお昼寝しよぉ~。」「退け貴様らぁ!ナタ様!ここはぜひ私と!」「ナタ様!」「ナタ様ぁ!!」(……なんでこんなことになってるんだ……?)これは錬金術にしか興味のない主人公による、異世界勘違いストーリーである。****VRゲーム「冒険ファンタジー、ステラート」。4年前に発売され、一時期は数百万人というプレイヤーがクエストに勤しんだオープンワールドのゲームである。平凡な高校生、鈴木《すずき》 陽向《ひなた》もまた、4年前の初期からこのゲームにどハマりし、熱中しているプレイヤーの1人だった。しかし、「え、お前まだ錬金術師《アルケミスト》やってんの……?」4年間一度も転職をした事の無いプレイヤーでもあった。「うん、まだ集めきれてないレシピあるし。」同じステラートプレイヤーのクラスメイトの言葉に、陽向はつまらなそうにスマートフォンを弄りながら答える。最初は同じ熱量で語り合えたので楽しかったが、ここ最近の彼は「自分はレベル250を越えたのにお前は~」とか、「生産職なんて負け職いつまでしてんの?俺なんて剣士スキルをウンタラカンタラ~」とマウントじみた話が鼻について仕方なかった。ステラートで初期の職業《ジョブ》のままゲームを続ける者はほぼいない。ジョブチェンジがし易いゲームということもあるが、特に錬金術師《アルケミスト》はレベル10以下のショップコインの手持ちが少ないプレイヤーが使う職業《ジョブ》だ。理由としては錬金術師《アルケミスト》は自分で回復薬を作れるため、ショップで回復薬を購入できないプレイヤーが回復薬目当てに使うのだ。しかし、レベルが10を越えれば、クエストでたんまりショップコインを貰える。ある程度になれば、わざわざ素材を集めてMP消費し







