ログイン「俺は人外じゃないし、女神の子供でもないし、救国の英雄でも、治癒を司る神でもないし、権力も信仰も興味無いから錬金術だけやらせてよ!!」 女神の事情でVRゲームの元になった世界に転移することになった男子高校生が何故かめちゃくちゃ勘違いされる話。 **** タグは丁度いいのがなくて誤解を選んでいますがどちらかというと勘違いの意味でつけています。非独占契約なので他サイトにも掲載しております。
もっと見る「さあナタ様!皆が待っております!」
「待ちなさい!ナタ様は目立つのがお嫌いなのですよ!」
「ナタ様ぁ、僕と一緒にお昼寝しよぉ~。」
「退け貴様らぁ!ナタ様!ここはぜひ私と!」
「ナタ様!」
「ナタ様ぁ!!」
(……なんでこんなことになってるんだ……?)
これは錬金術にしか興味のない主人公による、異世界勘違いストーリーである。
**** VRゲーム「冒険ファンタジー、ステラート」。4年前に発売され、一時期は数百万人というプレイヤーがクエストに勤しんだオープンワールドのゲームである。平凡な高校生、鈴木《すずき》 陽向《ひなた》もまた、4年前の初期からこのゲームにどハマりし、熱中しているプレイヤーの1人だった。
しかし、
「え、お前まだ錬金術師《アルケミスト》やってんの……?」
4年間一度も転職をした事の無いプレイヤーでもあった。
「うん、まだ集めきれてないレシピあるし。」
同じステラートプレイヤーのクラスメイトの言葉に、陽向はつまらなそうにスマートフォンを弄りながら答える。
最初は同じ熱量で語り合えたので楽しかったが、ここ最近の彼は「自分はレベル250を越えたのにお前は~」とか、「生産職なんて負け職いつまでしてんの?俺なんて剣士スキルをウンタラカンタラ~」とマウントじみた話が鼻について仕方なかった。ステラートで初期の職業《ジョブ》のままゲームを続ける者はほぼいない。
ジョブチェンジがし易いゲームということもあるが、特に錬金術師《アルケミスト》はレベル10以下のショップコインの手持ちが少ないプレイヤーが使う職業《ジョブ》だ。
理由としては錬金術師《アルケミスト》は自分で回復薬を作れるため、ショップで回復薬を購入できないプレイヤーが回復薬目当てに使うのだ。しかし、レベルが10を越えれば、クエストでたんまりショップコインを貰える。
ある程度になれば、わざわざ素材を集めてMP消費して~なんて面倒なことをするよりもショップでより良い回復薬を買ってしまう方が楽なのだ。他にも錬金術師《アルケミスト》は筋力、体力、速度、共にステータスが低く、さくさくクエストを進めたいプレイヤーからすれば、ショップコインがある程度溜まった所でさっさと剣士や武闘家などの戦闘職に転職してしまう。
生産職なのでどうしても攻撃力は戦闘職には及ばない。
それゆえ初心者用の職業とまで言われる錬金術師《アルケミスト》。そんな錬金術師《アルケミスト》を、陽向は4年間ずっと使い続けていた。
「いい加減転職しなって。全然クエスト進めてねーじゃん。」
「別にいいじゃん。俺クエストどーでもいーし。」そう、陽向はクエストやストーリーはどうでもよく、ただひたすらに錬金術師《アルケミスト》の特有スキル、錬金術にハマっているのだ。
回復薬などのポーション制作や、バフ付き装飾の錬成、オリジナル魔法陣の試行錯誤などが楽しいのに、何故わざわざそれが出来なくなる剣士や武闘家に転職しなければいけないのか。
(色んな素材掛け合わせてレシピ発見したり、魔法陣と装飾の錬成掛け合わせてみたり、そーゆーのが楽しいのに。)
未だにペラペラとステラートの攻略について口を動かし続けるクラスメイトに、陽向はそっと息を吐いた。
確かに錬金術師《アルケミスト》は最弱職だ。
それでも4年間コツコツ経験値を貯め、スキルを強化し、自ら作り上げたバフ付き装飾でステータスを底上げし、レベルを140まで上げたのだ。 そうなれば素材集めに必要な魔物討伐だって特に困らない。 そこら辺のひよっこ剣士よりも断然強いのに、何故こうも下に見られなければならないのか。(……はぁ、もう引きこもってずっと錬金術だけしていたい。)
なんて、勉学に忙しい学生の身としては到底無理な願いを思い浮かべながら、陽向はクラスメイトの話をただただ聞き流していた。
****
放課後、「よっしゃ帰りワックよろーぜ!」や「練習だるぅー!行きたくねー!」なんてワイワイガヤガヤと騒がしい教室をさっさと抜け出した陽向は、足早に帰路に着く。
汗水流す青春?
キラキラした放課後?しゃらくせぇ!!俺は錬金術(ゲーム)がやりてぇんだ!!!
帰宅部とは思えぬ俊敏さで帰宅した陽向は、その辺にリュックサックを投げ捨て、VRゴーグルを手に取った。
高校の近くで一人暮らしをしているため、それに文句を言う親もいない。
(ま、元々超放任主義のあの人たちなら文句も何も言わないだろーけど。)
なんて、顔も朧気な両親の事を思いながら、VRを起動する。
そしてゴーグル越しに見える画面から、ステラートを選択し、ゲームを開始しようとしたその時だった。「は……!?」
真っ白に光り輝く画面に目が眩む。
開けていられない程の眩《まばゆ》いそれに思わず目を閉じた次の瞬間、『初めまして。地球の子よ。』
目の前に顔の見えない、人のようで人ではない女が立っていた。
(……え、俺の錬金術ライフは……?)
学校を1日頑張ってやっと錬金術が出来ると思ったのに、目の前にはステラートの起動画面ではなく知らない女。
背に生えた三対の翼はゆらゆらと揺れ動き、その向こうには煌々と輝く光輪が在る。その輝きが逆光となり女の顔はよく見えないが、ふわりと揺れる金の髪がキラキラと光の粒子を纏っていた。
(…新しいクエストか何かが始まるのか?でもまだステラートを起動してないと思うんだけど……)
内心首を傾げていると女は『これはクエストでもゲームでもありませんよ。』とその翼を揺らしふわりと陽向に近づく。
それに反射的に仰け反った陽向は「……えーっと……?」と言葉をこぼした。『貴方は選ばれたのです。私の作り上げたステラートの世界に転移する権利を貴方に与えましょう。』
「あ、結構です。」
即答だった。
与えましょうの「う」を言い終わって0.1秒位の即答だった。『……こ、こほん、貴方は選ばれたので「あ、テイク2要らないんで。転移とか興味無いし俺は錬金術しか興味ないんで。」
慈悲はなかった。
最早最後まで言わせずのお断りだった。それには流石に女も予想外だったらしく、ウロウロと彷徨う指先に忙しなく動く翼たち。
上手い言葉も出ないらしく、『あの、』『えっと、』と言葉を詰まらせ、
『お願い助けてぇぇえええ!!!!』
ドパッと涙の滝を出して陽向に縋り付いた。
『もう貴方しかいないのよぉぉおお!!!』
(ええええぇ……)
顔は影になって見えないのにビッシャビシャに降り注ぐ涙に陽向は内心ドン引いた。
先程までの人外じみた威厳はどこへ行ったのか。あるのは人間(17)にしがみつくベソベソに泣きじゃくる人外(年齢不明)(装備:翼 光輪)とかいう訳の分からん状況である。
タランタシオが口を大きく開け、そして「キュ!キュピピ!キュピッキュキュピッキュウッ!《ほら!見て見て!まだ魔物の生き残りがいたよ!》」ナタの頬をてちてち叩いた。(な、何故だ!?何故俺のスキルが効かない……!?)これに男は焦る。だって自分は止めを刺すつもりで鳥型の魔物と突っ込もうとしているのに、使役獣は言う事を聞かないどころか少年に男の位置を教えるではないか!そもそもタランタシオは魔物ではあるがゲームで手に入れた卵がそのままステラート世界に反映された存在。つまり、ウェスタの持つウルカヌスの双剣と同じく、女神の生成物。その本質は魔物よりも聖獣に近いということだ。それ故に男の黒魔術スキルが効かなかった。そして、更に男の敗因を上げるとするならね、「わあ!メルラだぁ!!」その乗ってた鳥型の魔物《メルラ》の羽が『灰を纏う羽毛』っていう錬金術素材だったってことだ。「アレ俺の獲物ね!」とルンルンで魔法弓を構え、男は鳥の上で「ま、待て、いや待ってくれ!」と叫ぶも、素材にしか意識の行っていないナタは全く気が付くことなく「『神の裁き《ジュスティーツィア・ディアーナ》』」撃ち落しちゃった。ウェスタが手を眉あたりに当て、日よけの影を作りながら落ちていく鳥と人影に向かって「あーあ。」と声を投げる。ま、ナタ様に喧嘩売る方が悪い。ウェスタは落ちていく魔物を見ながらウンウン深く頷いた。(……にしても、今の魔物といいなんだか……)やったー俺の獲物~!キュピィ~!と魔物の方へと向かうナタとタランタシオを横目にウェスタはなんとも言えない違和感に眉を寄せる。「……あの男、魔物を操っていませんでしたか?」「……ソールもそう思うか?」ウェスタの言葉にソールも疑惑が確信に変わったのだろう。マールスに目配せをし、そのアイコンタクトを受け取ったマールス
そして、そんなナタたちを遠くから監視している人影が、一つあった。 鳥型の魔物の背に乗り、森の高い木の陰から、その姿をじっと見つめる。その男もまた、邪神として崇めるステュクスに心酔し、新たな黒魔術のスキルを得た信者の一人だ。 女神の祝福など捨て、自分はステュクス様に認められたのだと、それはもう歓喜した。しかし、男は初めての任務を失敗したのだ。それはスッド国の瘴気溜まりを暴走させ、国を壊滅させる事。 男は自らの黒魔術スキルを使い、大規模な魔物襲来を誘発させた。だが、流石は戦士の国、スッドの民。 九回も魔物を暴走させたのに、国を堕とすような被害は与えられなかった。だが、十回目。 瘴気溜まりから炎の巨人、カークスが生まれた時、男はようやく任務を達成できると喜んだ。それなのに!!あのナタという少年が全てをひっくり返してしまった!被害は最小限。少年が魔法スキルを発動させたのは二回だけ! それにも関わらず、魔物はカークス含め、一匹残らず殺された。男は絶望した。任務は失敗したし、男は組織に消されるかもしれない。それ以上にステュクス様に見捨てられるのが恐ろしかった。しかし男は任務に失敗したものの殺されなかった。 男の得た黒魔術スキルの一つ、『魔物の使役』。それが珍しい故に、一度だけ見逃されたのだ。そして次の任務が与えられた。 それは『オーヴェスト国の瘴気溜まりを暴走させること』だった。スッド国よりは規模が小さくとも、現代の魔法使いだけでは消し去れないほどの大きさを誇るオーヴェスト国の瘴気溜まり。 オーヴェスト国を大規模な魔物襲来が起きた所で、再び国王、シルウァ・フォレスタに呪いを仕込む。そうして多くのエルフの嘆き、哀しみ、恨み、憎しみを集める予定だったのに……(瘴気溜まりが消えちまったじゃねぇーか!!?)しかも何かサクッと斬って終わったし。 何あのあっけなさ。 スッド国の次に大きい瘴気溜まりだっ
「えーっと、つまりこちらの瘴気溜まりが膨張したタイミングはスッド国の瘴気溜まりが消滅したタイミングで……」ソールがこめかみを押さえる。「秘宝の共鳴は、女神の神器である双剣をナタ様が取り出しウェスタに授けたタイミングだと……」シルウァは眉間を揉んだ。ネプトとウェスタから先のスッド国で起きた詳細を教えてもらった二人と護衛一人はなんかもう頭がパンクしそうだった。規格外にもほどがある。「時系列的にそうかと……」と、三人のどことなくくたびれた姿に気まずそうに頬を掻いたネプトに「と言うか……」と、ソールがフッと遠くを見やった。「瘴気溜まりって消せるんですね……一撃で。」「まずい!あまりの衝撃にソールの目が死んだ!!」あんな表情みたことねぇ!と騒ぐウェスタと反対に、ネプトは「わかる、わかるよ……ナタ様やばすぎるよね……」と同情し共感している。「……そもそも、なんで秘密裏なんだ?」「なんで……とは?」ウェスタの問いにソールが小首を傾げる。それに「だってよ、」とウェスタは言葉を続けた。「管理者のソールが新しく就任した神官長を連れて公式訪問した方が牽制になるんじゃねぇーの?」あっさりと告げられたそれにソールだけではなく、後ろに控えていたマールスも目を見開いた。そんな二人の反応に「んん?この前の女神の選別で神官長も入れ替わってたよな?」「アタシの記憶違いかぁ?」と一人ウェスタが首を傾げる。それにソールは少し置いて「合っていますよ。」と肯定し、「私も名に『S』を持つ身です。シルウァ様と同時に狙われる可能性もなくはないので念のため極秘で訪問を。」と、ウェスタの疑問に答えた。そんなソールの回答に「S…&he
あまりの神聖すぎる気配に怯えるウェスタを置いてきぼりに……と言うよりも微塵も気にせずに、ナタは自分にしか見えないマップを開いて(次はオーヴェストのどの辺にしよっかなー。)と呑気に考えていた。おい元凶。ネプトだけは「わかる、わかるよ。急にそんなやべぇのポンって渡されるの心臓に悪いよね。」と声には出さないものの、後方理解者面で頷いている。ネプトもいきなり伝説の剣渡された被害者なので……しかし、ナタは何も気にしない。ナタにとっては伝説の剣じゃなくて、作ってみたかったレシピで、ゲームの古龍の大剣というアイテムに過ぎないし、大事なのは実験データなので。「じゃ、次行くよ~。」なんて軽い口調と共にポンと肩に手を置かれたネプトは「えっ。」とその口元を引きつらせる。ウェスタに至っては「は?」と一音だけなのに大変ガラの悪い音を零していた。そう、ナタは自分が錬金術で作った武器の能力を知りたいだけ。つまりウェスタにあげた双剣に関しては単にこの場を治めるためにあげとくか~くらいの物であり、性能自体は非常にどうでもよく、しれっとこのままこの砦の森に置いていくつもりでいた。ウェスタは大剣をもらえたネプトが羨ましいわけじゃなくて弟子として先を越されたのが気に入らないだけなのだが、人間心理初心者(笑)なナタは全く気付いていないのだ。なんてむごい。しかしスッド最強の王女、ウェスタの反射神経の方が早かった。置いて行かれて堪るものか、と咄嗟にナタの肩を掴み、「……ここは……オーヴェストのエルフの森か……?」ついてきちゃった。これはナタも想定外。ネプトも含め皆で目を丸くしてお互いの顔を見やる。(ま、いっか。データさえ取れればいいし。さすがに他国の森の中じゃ勝負挑まないでしょ。)しかしナタの切り替えは早かった。こいつの脳内は1に錬金術、2に錬金術。3、4続いて5に錬金術なので