初秋のやわらかな陽射しが、東京家庭裁判所立川支部の窓を照らしていた。手元には、離婚の確定判決と、別々に進めてきた財産の整理に関する書類がある。【原告佐伯紗希と被告佐伯直人は離婚する】ファイルには、慰謝料1,000万円、会社へ戻る損害賠償金4,000万円、私名義のマンションの売却代金3,000万円、そしてサエキトレーディングの株式100%についての整理書類が、それぞれ収められていた。6年の交際と、2年の結婚生活。自分の名前の隣に印字された、佐伯直人という名前へ指を置き、離した。もう、夫婦ではない。姓も、旧姓の高瀬に戻した。これからは、高瀬紗希として生きていく。胸の真ん中で重く絡んでいた鎖がほどけ、肺の奥へ、澄んだ空気が入ってくる気がした。自宅の売却代金と慰謝料、会社が回収した資産まで含めると、整理した資産の総額は1億8,000万円になっていた。支払われなかった死亡保険金は、その中に含まれていない。会社名義の資産と、私個人の預金も分けてある。直人のように、その境目をなくすつもりはなかった。直人の両親の家と持ち山が、競売にかけられたという話も聞いた。一家はもう、以前の家には住んでいないらしい。それ以上のことは、尋ねなかった。莉央は別の民事訴訟で、広告主8社へ計5,400万円を賠償するよう命じられた。契約は切れ、使っていたSNSのアカウントも消えた。モデルの仕事へ戻るという話は、聞こえてこなかった。私は、消えたアカウントを探すのをやめた。あの人たちが崩れ落ちた場所に、いつまでも立ち続ける必要はない。そこを見張るために、私の1日まで使う理由なんてなかった。裁判所前の広場へ出ると、桐生がアイスアメリカーノを2杯持って待っていた。チャコールのスーツに、穏やかな笑顔。私を見る目は、初めて会ったあの夜と同じように、揺るがなかった。「高瀬さん……いえ、これからは高瀬社長ですね。今日はもう、追加で署名していただく書類はありません。お疲れさまでした」「最後まで、私の話を聞いてくださって、ありがとうございました。1人だったら、あの書類の山を前に、何度も逃げ出していたと思います」笑い合い、透明なカップを軽く合わせる。中の氷が鳴った。こんなに澄んだ音だったのかと思った。「これから、どうなさるおつもりですか」「まずは、整理できた資産
Last Updated : 2026-09-16 Read more