智哉の顔から、さっと血の気が引いた。けれど、彼が何か言うより先に、莉奈が声を張り上げた。「誰を脅してんの?『結婚はなし』なんでしょ?だったら勝手にすれば!この泥棒猫!智哉を横取りしたくせに、今さら被害者ぶらないでよ!」その一言で、周囲の視線が一斉に変わった。莉奈にこんなふうに濡れ衣を着せられるのは、これが初めてではない。智哉と付き合ったことなど一度もないくせに、莉奈はずっと私を浮気相手にしていた。私の家族に何度も連絡して嫌がらせをし、勤務先にまで押しかけてきては罵声を浴びせる。SNSでは、私が男遊びの激しい女だなんて、根も葉もない話まで広められた。そのせいで、知らない男から卑猥なメッセージがひっきりなしに届くようになった。この1年、私は何度も悪夢にうなされて飛び起き、髪もひどく抜け、心身ともに限界を迎えて重度のうつ病と診断された。けれど、智哉の言うことはいつも同じだった。「まあまあ、莉奈もまだ若いんだし、そのうち落ち着くって。望美もいちいち相手にしないで、少しくらい大目に見てやれよ」耐えて、耐えて、耐え抜いてきた。けれど、我慢すればするほど、莉奈の嫌がらせはエスカレートしていった。もう、うんざりだ。私は血まみれのベールを静かに外した。周囲から驚きの声が上がる中、そのまま振り返ることなくブライダルサロンを出た。背後から、慌ただしい足音が追ってくる。けれど、その手が私に届くより先に、莉奈が胸元を押さえ、甲高い悲鳴を上げた。「智哉!」その瞬間、智哉はぴたりと足を止めた。振り返ると、苦しそうにうずくまる莉奈を見るなり、すぐに抱き上げ、そのまま慌ただしく外へ向かった。私の横を通り過ぎるときでさえ、こちらを一度も見なかった。その腕の中で、莉奈がそっと目を開けた。そして私に、嘲るような笑みを向けた。私は冷めた目でそれを見ていた。あんな見え透いた仮病の芝居、もう数え切れないほど見せられてきた。それなのに、頭の切れる智哉は毎回きれいに騙される。一度だけ、どうしても納得がいかなくて、智哉を引き留めようと腕を掴んだことがあった。智哉は怒鳴りもしなかった。ただ、私をじっと見つめて言った。「うつ病って、心の優しい人ほどなりやすいって言うけど……あれ、嘘だったのかな」その瞬間、全身から血の気が引いた。死
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