บททั้งหมดของ 余命を偽った私と、愛を忘れられなかったあなた: บทที่ 11 - บทที่ 20

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第11話

厳粛な空気は、着信音によって打ち破られた。陽一は申し訳なさそうに加莉奈へ微笑みかける。スマホを取り出し電話を切ろうとしたとき、画面に浮かんだ【羽村優璃】の名前がまっすぐに目に飛び込んできた。なぜか、陽一は通話ボタンを押していた。電話の向こうから聞こえたのは優璃の弱々しい声ではなく、アシスタントの怯えきった声だった。「しゃ、社長……羽村さんが、亡くなりました!」その瞬間、陽一の頭は真っ白になった。ずいぶん経ってから、ようやく自分の声を取り戻す。「……何と言った?」「羽村さんが、先ほど息を引き取りました。もう病院にはいません。ご遺体は葬儀社の安置施設へ移されています」そのひと言は、陽一の頭を殴りつけるような衝撃を与えた。その時、陽一には何もかもがどうでもよくなった。まだ結婚式の最中であることも、背後で泣き崩れながら自分の名を呼ぶ花嫁も、壇の下でざわめく招待客も。狂ったように、彼はチャペルを飛び出した。違う、そんなはずはない。絶対にありえない!優璃が死ぬなんて!あれほど虚栄心が強く、何がなんでも這い上がろうとした女が死ぬはずがない!これはきっと、わざと仕組んだ芝居だ。俺の結婚式をぶち壊すための。俺が引っかかったら暗がりから飛び出してきて、愚かだと鼻で笑うに決まっている。陽一はそう考えていた。けれど体はもう言うことを聞かず、勝手に車に飛び乗っている。後ろから慌てて追いかけてくる運転手を待つ余裕もなく、負傷した左手の激痛をこらえながら、ハンドルを乱暴に切り車を走らせた。雨に煙る高架の上を、黒いマイバッハが矢のように駆け抜けていく。いくつも赤信号を突っ切って、ようやく街の北の郊外にある葬儀社の安置施設に着いた。冷え切った安置室の中、白い布をかけられた体がひとつ、冷たいステンレスの台の上に静かに横たわっている。傍らに立つアシスタントの悲痛な表情が、そこにいる人が誰なのかを告げていた。ほんの十数歩の距離なのに、永遠にも等しい時間に感じられた。震える手で白い布をめくると、青ざめた優璃の顔がそこに現れた。陽一はこれまで、さまざまな優璃の顔を見てきた。笑っていた顔、泣いていた顔、怯えていた顔、嘲っていた顔……ただ、こんなふうに生気を失い、冷たく静まり返った優璃だけは、一度も見たことがな
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第12話

翌日、予定どおり火葬の時間を迎えた。以前であれば、職員たちは陽一の権力を恐れ、その意向に従うしかなかっただろう。けれど優璃は緩和ケアを選ぶとき、死後は火葬し、骨壺を両親の墓のそばに納めてほしいと希望していた。故人の遺志に沿って予定どおり見送らなければならない。職員たちもこれ以上見過ごすわけにはいかなかった。数人がかりで駆け寄り、優璃の遺体を取り返そうとした。揉み合いのなか、誰かの手が陽一の負傷した左手を強く圧迫した。激痛に思わず腕の力が緩む。その一瞬の隙に、腕の中から優璃の遺体が奪い取られてしまった。「やめろ……やめてくれ!」陽一は胸が裂けるような声で叫び、取り返そうと飛びかかる。しかしあと一歩間に合わない。優璃の棺が火葬炉の奥へと運ばれていくのを、ただ見ていることしかできなかった。重々しい金属音とともに、火葬炉の扉が目の前で無情に閉ざされる。「ごほっ!」陽一はもう堪えきれず、勢いよく一口、血を吐き、そのまま暗闇に沈んだ。「社長!」一夜にして、陽一が発狂したという噂が街じゅうに広まった。結婚式から逃げ出したうえ、使用人の骨壺を抱いたまま自室に引きこもって出てこないというのだ。娘がそんな扱いを受けていると知った加莉奈の両親は激怒し、即座に婚約破棄を申し入れた。けれど加莉奈は当然のように承知しない。加莉奈にとって陽一は、10年ものあいだ追い続け、ようやく手に入れた相手なのだ。それをこんなにあっさり手放すことなどできるはずがない。だからこそ両親の反対を押し切り、単身で長谷部家の屋敷へと乗り込んだ。なんといっても、加莉奈は今も陽一の婚約者だ。式こそ挙げられなかったが、加莉奈自身は、まだ長谷部夫人になれると信じ切っていた。だから長谷部家の執事も止める勇気はなく、階段を上がっていく背中を見送るしかなかった。加莉奈はゆっくりと扉を押し開けた。分厚い遮光カーテンが日差しを完全に遮っており、部屋の中は暗くすぐには様子がうかがえなかった。両手をきつく握りしめて気を落ち着かせると、探るように呼びかけた。「陽一……?」けれど返事はない。少しためらい足を踏み入れようとしたとき、くぐもった声が響いた。「出ていけ」たったひと言で、加莉奈の顔色が変わった。幼い頃から甘やかされて育ち、追い払わ
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第13話

バリバリッ!どんよりとした空を稲光が切り裂き、怯えきった加莉奈の目を照らし出す。「い、いや、結婚式をなかったことになんて……!」加莉奈はなりふり構わず陽一の足元にすがりつき、泣きじゃくった。「陽一、お願い!私、ずっとあなたのことが好きだったの。だから今の言葉、取り消してよ」10年ものあいだ、陽一の背中を追いかけてきた。そして10年ものあいだ、陽一と優璃が睦まじくしている姿をただ見つめてきたのだ。やっとの思いで優璃を追い出し、陽一との結婚式を挙げるところまでこぎ着けた。それなのに陽一が本当に式をなかったことにしたら、きっと気が狂ってしまう!陽一は加莉奈が取り乱し、声を上げて泣きすがり、許しを乞う姿を静かに見つめていた。それでも、彼の心にはさざ波ひとつ立たなかった。その心は優璃の死と一緒にとっくに死んでしまっている。今の陽一は生ける屍のように、目的もなく生きているだけだった。死のうと思わなかったわけではない。けれど優璃の性格を誰よりも知っている。もし本当に死んで地獄まで追いかけていったとしても、優璃は決して会ってはくれないだろう。だから自分は、生きるしかなかった。加莉奈のことなど、最初から愛していない。そもそも、陽一にとって加莉奈は、優璃を苛立たせるための道具にすぎなかった。5年前、優璃に手酷く捨てられたとき、確かに憎んだ。けれど再会したその瞬間、必死に押し殺してきた愛がまた燃え上がってしまった。なのに優璃は、相変わらず虚栄心の強い女を装っていた。それが悔しくて、優璃を苛立たせるために別の女を探そうと考えたのだ。腎臓を提供したと主張する加莉奈は、そのための相手としてこれ以上ない存在だった。恩義があるから妻に迎える。一方の加莉奈は長年自分を慕い、夢にまで見るほど結婚を望んでいる。そんな大義名分があれば、優璃の嫉妬を煽れるはずだ。けれど最後まで、優璃は一度も嫉妬してくれなかった。優璃が死んだあと、陽一はもう加莉奈を利用するつもりはなくなり、関係を終わらせようと考えていた。そんな矢先、優璃の遺品整理のなかで、実際の腎臓提供者を示す記録を見つけてしまったのだ。そこで初めて、加莉奈が腎臓提供者を偽っていたことが明らかになった。あの女は思っていたような、善良で無邪気な人間ではなかった。嘘を重ね、何度
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第14話

優璃が納骨される日は、雲ひとつない快晴だった。陽一が初めて優璃に出会った、あの日のように。10年も前のことだ。16歳だった陽一は、初めて優璃と出会った。柔らかな日差しが少女の頬を照らし、その肌をいっそう白く見せていた。ぱっちりとした目で微笑みながら陽一を見つめ、甘い声で言った。「こんにちは、はじめまして。羽村優璃です」そして今、26歳の陽一は、優璃に最後の別れを告げようとしていた。かつてあれほど生き生きとしていた少女は、今では小さな骨壺の中に納まっている。両手で抱えた骨壺は、信じられないほど軽かった。やがて墓石の下にある納骨室が開かれ、職員の手で優璃の遺骨が静かに納められていく。その様子を見つめながら、陽一はようやく、優璃が本当にこの世からいなくなったのだという事実を受け入れ始めていた。心の底では、優璃に死んでほしいなどと一度も願ったことはなかった。再会した直後、彼は歓喜に打ち震えた。だが、すぐに底知れぬ恐怖が押し寄せてきた。優璃が前のようにまた自分のもとから去ってしまうのが怖かった。だから何もかも顧みず、無理やり傍に置いたのだ。けれど引き留めたとたん、優璃に侮辱され捨てられた惨めな過去が頭をもたげるようになる。愛と憎しみが心の中で激しく絡み合い、最終的に、復讐心という名の憎悪が勝ってしまったのだ。その結果、さまざまな女を連れて、優璃の目の前で身を重ねるようになった。優璃が悲しみに打ちひしがれる姿を見ながら、心の底では後悔していた。昔のように抱きしめ、慰めたいと思ったこともある。けれど結局その憐れみは、憎しみに呑み込まれてしまった。そうして陽一が愛と憎しみのあいだで揺れ続けるなか、やがて優璃は癌と診断された。優璃は陽一の性格を痛いほど理解していた。もし自分がこのまま癌で死ねば、陽一は間違いなく後を追うだろう。だから陽一にちゃんと生きてほしくて、優璃はまた虚栄心の強い女を演じ始めたのだ。陽一に残っていた自分への愛情を少しずつ削り取り、それから迷いなく死へ向かっていった。参列者は次々と帰っていき、最後には陽一ひとりだけが残された。真新しい墓石に刻まれた優璃の名前を、陽一はぼんやりと見つめていた。これまでずっと張り詰めていた糸がふっと切れたように、陽一は力なくその場に膝をついた。陽一は優璃の墓石を
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第15話

「優璃、優璃……」聞き覚えのある女性の声が遠くから少しずつ近づいてきて、深く沈み込んでいた優璃の意識を引き戻した。優璃ははっと目を開けてベッドから跳ね起き、肩で荒い息をした。しばらくして呼吸が落ち着くと、その場で固まった。ぼんやりと手を見つめ、無意識に握ってみる。爪が肉に食い込む鋭い痛みが走った。優璃は目を見開く。確かに死んだはずなのに、どうして痛みを感じるのだろう……わけが分からずにいると、部屋の外にいた人が、いつまでも返事がないのを心配したのか扉を開けて入ってきた。「優璃ったら……」反射的に声のほうを見る。ずっと会いたくてたまらなかった母の顔が、そこにあった。「お母さん……」言い終わる前に、こみ上げた切なさに声が詰まった。自分も死んだはずなのに、何年も前に亡くなった母にまた会えるなんて思ってもみなかった。優璃は母の胸に飛び込んだ。長い年月、恋しく思い続けた気持ちも、味わってきた理不尽な苦しみもすべて吐き出すように。母は優しく娘の額を撫でた。「はいはい、もう泣かないの。どうしても南雲学院高等学校に行きたくないなら、行かなくてもいいのよ。ね?」南雲学院高等学校?優璃は勢いよく顔を上げ母を見た。「南雲学院高等学校って、何のこと?」何かがおかしいと気づき、慌てて尋ねる。「お母さん、今って何年?」母はぷっと吹き出した。「この子、まだ寝ぼけてるの?ほら、カレンダー見なさいよ」カレンダーの日付を見た瞬間、優璃の頭の中が真っ白になった。思いきり腕をつねる。痛みが全身に広がってようやくひとつの事実を受け入れた。自分は過去に戻ったのだ!しかも10年前、高校1年生の頃に!この時点では、まだ陽一とは出会っていない!優璃は丸1日かけて混乱した頭を整理した。死んだあと、10年前に時間が巻き戻った。何年も前に亡くなった両親に会えた。陽一ともまだ出会っておらず、あの苦しい2年間にもまだ足を踏み入れていない。神様が人生をやり直す機会をくれたのなら、自分と、自分の愛するすべての人の運命を必ず変えてみせる。そう決意して深く息を吸い、彼女は紙とペンを取り出して、過去に戻ってからやるべきことを書き出していった。ひとつ目は、両親が事故死する運命を回避すること。前世で、両親は優
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第16話

入学の日は、あっという間にやってきた。両親からは何度も注意を受け、優璃のほうも、くれぐれも気をつけてと何度も両親に言い聞かせた。名残惜しそうに見送る両親に手を振り、優璃は電車に乗って南雲学院高等学校へ向かった。校門をくぐると、同じクラスになったばかりの生徒たちと挨拶を交わし、そのまま一緒に教室へ向かった。最初こそ少し緊張していたものの、話しているうちにすぐ打ち解け、新しい学校生活への不安も少しずつ薄れていった。1年1組の教室の前を通りかかったとき、思わず中をのぞいた。窓際の席で、真新しい制服姿の少年が頬杖をつき、配られたばかりの教科書をパラパラとめくっていた。ひと目見ただけで、優璃の視線はもうそこから動かせなくなった。前世でも、陽一はこうして教室に座っていた。だからこそ教室に入った瞬間に目を奪われて動けなくなったのだ。それで自分から声をかけ、陽一を高みから引きずり下ろし、最後には自分自身を果てしない深淵と苦しみに沈めてしまった。今世の優璃は、陽一をひと目見ただけで視線を戻し、廊下の奥にある3組へと歩いていく。南雲学院高等学校は、両親が丸1か月、必死に調べて選んでくれた、優璃にとって最適な学校なのだ。優璃もその好意を無駄にしたくなかった。1年生のクラスは、進学コースごとに分かれていた。1組、2組、5組、6組は難関大学を目指す特進クラスで、合同授業や補習も多く、生徒同士や担当教師との交流も自然と多かった。一方、3組、4組、7組、8組は総合進学クラスで、授業内容や時間割が異なるため、特進クラスの生徒と関わる機会はそれほど多くなかった。だから陽一を避けるため、そして自分の成績も考えて、優璃は迷わず3組を選んだ。それから1週間、陽一とは一度も顔を合わせなかった。入学前のオリエンテーションはすでに済んでおり、入学後の最初の1週間は、学力を確認するためのテストが立て続けに行われた。生徒一人ひとりの学力を把握し、各教科の教師が今後の指導方針を決めるためだった。この1週間、優璃は目が回るほど忙しかった。陽一に会うどころか、慣れない長時間の通学と授業に追われ、昼休みもゆっくり食事をする暇がないほどだった。毎日、家に着くころにはすっかり疲れ果て、着替えを済ませると、そのままベッドに倒れ込むように眠った。
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第17話

月曜日。優璃が階段を降りきったところで、前方の1年1組の教室の前に、人だかりができているのが見えた。みんな教室の中をのぞき込みながら口々にささやき合っている。「おい、長谷部陽一ってやっぱりすごいな。あんな大怪我をしたのに、もう学校に来るなんて」「さすが優等生。怪我をしても学校を休まないんだな。俺だったらとっくに家で寝込んでるよ」……その言葉に、踏み出しかけた優璃の足がぴたりと止まった。陽一が、学校に来ている?大怪我で病院に運ばれたんじゃなかったの?どうして……心配と戸惑いが彼女の胸の中で渦巻いた。頭では関わってはいけないと、何度も言い聞かせているのに、1組の教室の前を通りかかると、視線が思わず中へ向いてしまう。教室の隅に、頭に分厚い包帯を巻いた陽一がいた。痩せた顔には少しも血の気がない。優璃の視線に気づいたのか、わずかに顔を傾けた。ふたりの目が合った瞬間、彼の穏やかだった瞳にぱっと光が宿った。その眼差しに、優璃の心臓が大きく跳ねた。他のことは考えられず慌てて視線をそらすと、うつむいたまま自分の教室へ向かった。席に着いてからも心臓は早鐘のように打ち続け、手のひらにはじっとりと汗がにじんでいた。あの眼差しは優璃にとって、あまりにも見慣れたものだった。陽一がいちばん優璃を愛してくれていた頃、いつもこんなふうに愛情のあふれる眼差しで見つめてくれた。けれど今世では、まだ何の接点もないはずなのに。どうして……そのとき、穏やかで懐かしい声が、頭上から降ってきた。「優璃、よかった。生きてる……」優璃の心臓が一瞬止まったようになった。こわばった首をゆっくりと上げると、逆光の中に陽一が立っていた。あまりの衝撃に、言葉が出ない。けれど優璃には分かった。陽一も自分と同じように、過去に戻ってきているのだと!見慣れた顔を見つめて、陽一の目頭が熱くなった。前世で加莉奈の運転する車にはねられて死んだあと、当然、地獄へ堕ちるものだとばかり思っていた。あまりにも突然の死で、あまりにも凄惨な死に方だった。そんな姿で優璃に会えば、怖がらせてしまうかもしれないと、それさえ恐れていたのだ。それなのにまさか時間が巻き戻るなんて。しかも前世の悲劇がまだ何ひとつ始まっていない、高校1年の春に。嬉しさに涙があふ
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第18話

本当は、記憶を持った陽一が目の前に現れたあの瞬間に、もう降参してしまいたかった。そういえば、陽一は優璃の前で泣くことがほとんどなかった。前世で、事業を立ち上げようともがいていた、最も苦しかった数年間でさえ、いつも笑っていた。だから彼が涙をこぼすたびに、自分も胸が痛くなって抱きしめて一緒に泣いたものだった。けれど、それは昔のこと。今の自分にはそうすることは許されない。だから心を鬼にして、彼女は自分を抱きしめる陽一を力いっぱい突き放した。「ごめんなさい。私たち、知り合いでしたっけ?」彼女の顔に浮かんだよそよそしさは、演技には見えなかった。陽一はその場に凍りついた。時を遡って再会する場面なら、いくつも思い描いてきた。罵られても殴られても受け止める覚悟はできていた。ただ、知らないふりをされるなんて、それだけは一度も想像したことがなかった。突然、胸にこれまで感じたことのない鋭い痛みが走る。よそよそしい眼差しはあまりにも冷たく、心臓に突き立てられた刃のようだった。けれど優璃は気づかないふりをして、傍らにいた学級委員に陽一を示しながら言った。「委員長、他のクラスの人がうちの教室に入ってきてるみたい」陽一が委員長に促され、おとなしく教室を出ていったあと、ずっとこらえていた優璃の涙が頬を伝い落ちた。今でも愛している。本当は自分も前世の記憶があると明かして、抱き合って泣きたい。けれど陽一は、選ばれた人間なのだ。その立場にふさわしい環境や人脈に恵まれ、それを生かして生きるべき人なのだ。自分のために頭を下げ、他人に媚びるような真似をさせてはいけない。もう身勝手で、彼を傷つけるわけにはいかない……決して交わることのない2本の平行線でいるしかないのだ。それからの数日、3組の教室の前では、いつしか見慣れた光景がひとつ増えていた。休み時間のたびに陽一の姿が現れ、燃えるような視線で最前列の席にいる優璃を見つめ続けるのだ。優璃もきつい言葉を投げつけたことはある。けれど彼は少しも動じなかった。そのうちに学校じゅうが知るところとなった。1年1組の長谷部陽一が、3組の羽村優璃にアプローチしている、と。両親も娘のことを信頼していて、少し注意しただけで、それ以上深く干渉することはなかった。ところが、先に動いたのは長谷
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第19話

そう言い終えると、みんなの反応を見ることもなく傍らのカバンを掴んで出ていった。「優璃!」陽一はなりふりかまわず慌てて追いかけた。ずいぶん走って、やっと彼女の手をつかまえた。「放して」もう演技をすることもなく、優璃ははっきりと命じた。前世で陽一が家でくっつきすぎたとき、よくこんな口調で言ったものだった。すると彼は拗ねた大型犬のようにおとなしく手を放し、優璃がもう一度おいでと手招きするまで、部屋の隅で大人しく丸まっていたものだ。けれど今、目を伏せて見ると、大きな手が手首を強く握りしめている。力をこめすぎて痛み、赤くなっていた。それでも放さないどころか腰を抱き寄せ、優璃の全身を腕の中に閉じ込めた。陽一の目は真っ赤に血走り、声には悲痛な響きがにじんでいた。「優璃、いつまで身勝手でいるつもりだ!前世のお前はずっと俺を愛していたはずなのに、俺のためだと言って、去った本当の理由を最後まで隠し通した。お前は望みどおりになったのかもしれない。でも、俺がどれだけ苦しんだか考えたことがあるのか。全部話してくれれば俺も一緒に背負えたのに!今世だって同じだ。まだ俺を愛してるのに、どうして何度も何度も俺を突き放す!?俺が痛みで死ぬまで満足しないのか……!」最後のほうは声が嗚咽にまじり、震えて言葉もうまく続かなかった。優璃はたまらず目を閉じ、込み上げる涙声を必死に抑える。「陽一。私がどれだけあなたを好きでも、それだけじゃどうにもならないの。私の愛にできるのは、心を慰めて、疲れたあなたが一時でも寄りかかれる場所になることくらい。仕事で力になれるわけでもないし、結局あなたは自分の力で進んでいかなきゃいけない。それに、私だってそんな苦労をあなたにさせたくないし、あなたをここまで育ててきたご両親だって、きっと苦しいと思う。だから私は、勝手かもしれないけど、あなたを本来いるべき場所に戻したいの。陽一、もう現実を見よう。どれだけ好きでも、家のことや立場やお金まで全部乗り越えられるわけじゃない。私たち、最初から出会わないほうがよかったのかもしれない」彼女が言い終えると、もう見ようともせず、その手を引き剥がして黙って背を向けた。陽一は彫像のようにその場に立ち尽くし、最愛の人が遠くへ歩いていく後ろ姿を見つめていた。……その
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第20話

そのとき、控えめなノックの音とともに、母がそっと扉を押し開けた。「陽一」陽一は壁に手をつき、重い体を支えて床から立ち上がった。「母さん」息子のふらついている様子を見て、母は慌てて歩み寄って支えた。「陽一、あなたに話したいことがあるの」羽村家。机に向かって教科書を復習していた優璃は、ふいにノックの音を聞いた。両親は家にいなかったので、本を置いて玄関へ向かう。扉を開けた瞬間、陽一の姿が視界に飛び込んできた。彼女は反射的に扉を閉めようとしたが、陽一が強引にドアの隙間に手を差し込んだ。驚いて扉を開け直す。「何しに来たの」その口調は今でも冷たかったが、陽一は泣いたあとのかすれた声を聞き取った。陽一の胸が締めつけられ、思わず手を伸ばして頭を撫でようとした。けれどふたりの関係を忘れなかった。伸ばしかけた手をぐっと握りしめる。「優璃、ちゃんと話がしたいんだ」その日の午後、陽一はたくさんのことを話した。けれど優璃の頭は高熱のせいでぼんやりしていた。覚えているのは、最後に言ったことだけだった。「優璃。俺は、愛は何よりも大切なんだって伝えたい」あの日、母と話をしたあとでようやく、ふたりのあいだにある問題の本質を整理できた。優璃は確かに自分を愛している。けれど愛だけであらゆる障害を越えられるとは信じていない。それに、愛だけで成り立っているわけではないことも、忘れてしまっている。愛の中にはたくさんのものが含まれているのだ。そして今日、優璃と話をしに来たのは、優璃に愛とはどういうものなのかをもう一度分かってもらいたかったからだった。その前に、できるだけ早く成長しなければならない。この愛を守り抜く力をつけるために。だから、ひとつ約束をしたかった。この7年間、恋愛はしない。無理に互いを好きでいようとしなくてもいい。会うこともしない。ただ、互いに全力でそれぞれの道を切り開く。そして7年後、それぞれが頂点に立ったときに再会して、サプライズを贈る。優璃は目の前の人の揺るぎない決意に満ちた眼差しを見つめた。胸の内は複雑な思いでいっぱいだった。言いたいことはあまりにもたくさんあった。けれど最後には何も言わなかった。黙ったまま長いあいだ、ふたりは見つめ合う。やがて優璃はゆっくりと手を持ち上げ、指切りをし
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