夜明けと共に、貨物船はローランディア南部の港に到着した。税関の職員が私のパスポートを念入りに確認する。「エリス・ローランさんですね?」「ええ」入国スタンプが押され、パスポートが返却された。その瞬間、エレナ・ロマーノは海の底に死んだ。モレッティ・ファミリーの者たちが、私をフローリア地方にある屋敷へと案内してくれた。そこはダミー会社の名義で登録されており、ダンテでさえ母が所有しているとは知らない秘密の隠れ家だった。周囲には広大な葡萄畑が広がっている。母屋の地下にあるワインセラーには、モレッティ・ファミリーが数十年かけて収集してきた美術品の数々が眠っていた。母の死後、顧問弁護士がこの地と資産を極秘に管理し続けてくれていたのだ。そして今、それらは再び私の手に戻った。ローランディアにおけるモレッティ家の全事業を取り仕切っているのは、ガブリエル・ローランという男だった。彼はデスクの上に、財務記録や不動産の権利書を次々と広げた。「マダム、これらがモレッティ家がローランディアに保有している合法的な資産のすべてです」「マダムとは呼ばないで」私は最初のファイルを開きながら言った。「エレナと呼んでちょうだい」ガブリエルは、なぜ私がニュー・エデンから逃げてきたのかも、あのクルーザーの爆発事故についても、一切詮索しようとしなかった。ただ静かに頷き、私の署名が必要な書類を一枚ずつ差し出すだけだった。当初、私は子供が無事に生まれるまで、ここで息を潜めて暮らすつもりだった。しかし、帳簿に目を通すうちに考えが変わった。母が残した葡萄畑の経営は傾きかけており、膨大な美術品コレクションも何年もの間、日の目を見ることなく倉庫の埃を被っている。これらの遺産を食いつぶしながら隠れて生きるのではなく、再び価値あるものとして世に送り出したかった。私はコレクションの目録を作り直し、モレッティ・ファミリーの名を冠した美術財団を設立した。選りすぐりの作品を売却し、その資金を、虐待から逃れてきた女性たちや、生活の術を持たない未亡人たちの自立支援に充てるのだ。それはある意味、自分自身を救済するための事業でもあった。もう夫の威光の陰に隠れて生きるのは御免だ自分の人生を、自分の足で歩みたかった。妊娠初期は体調が優れない日
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