LOGIN6年前、私はニュー・エデンで最強と謳われるマフィアのドン、ダンテ・ロマーノを庇って凶弾に倒れた。その傷のせいで、私は二度と母親になれない体になるはずだった。 病室のベッドの傍らで、ダンテは私に誓ってくれた。 「君さえ生きていてくれれば、子供なんていらない」と。 だが、奇跡的に私は身籠った。 その喜びを彼に伝えようとした矢先、彼の携帯に残された音声メッセージから、幼女が彼を「パパ」と呼ぶ声を聞いてしまったのだ。 そこで初めて知った。彼がかつての秘書であるビアンカとの間に、双子の子供をもうけていたことを。 ロマーノ・ファミリーの人間は皆、その事実を知っていた。私一人を除いて。 彼は相変わらず私を「愛するただ一人の女」と呼びながら、裏ではビアンカに指輪を贈り、彼女の息子にファミリーの跡目を継がせる準備を進めていた。 私は彼を責め立てることも、彼の子を宿していると打ち明けることもしなかった。 そして結婚記念日。私はクルーザーの爆発事故を偽装し、「マダム・ロマーノ」であるエレナが、お腹の子供と共に海の藻屑と消えたと世界中に思い込ませた。
View More手術は2時間にも及んだ。生まれた娘の体重は、わずか1500グラムにも満たなかった。看護師たちはすぐに彼女をNICUへと運んでいった。麻酔から覚めた私が最初に口にしたのは、子供の安否だった。ベッドの傍らには、ガブリエルが座っていた。「とても小さな赤ん坊ですが、医師の判断では状態は安定しているとのことです」私は静かに目を閉じ、ようやく深く息を吐き出すことができた。初めて娘と対面したのは、NICUのガラス越しだった。彼女は保育器の中で、小さな管やセンサーに囲まれて眠っていた。だが、その小さな指はしっかりと拳を握りしめており、まるで「こんな世界には絶対に負けない」と生まれながらに宣言しているようだった。廊下の反対側には、ダンテが立っていた。彼は中へ入ろうとはせず、ただガラス越しに、長い間娘を見つめていた。「名前は……何て言うんだ?」彼がぽつりと尋ねる。「ソフィア・モレッティよ」「モレッティ」を聞いて、彼の瞳の奥で何かが消えかけた。「俺の娘でもある」「違うとは言っていないわ」「なら、せめてロマーノの名を継がせることは――」私は振り返り、彼を真っ直ぐに見た。「あなたのせいで、この子は生まれてくることすらできなかったかもしれないのよ」ダンテは重く口を閉ざした。「娘に会いに来て、父親としての責任を果たすことは許可するわ。でも、面会には必ず私の事前承認が必要よ。そして、私が信頼する人間を必ず同席させること」「俺が娘を奪い去るとでも思っているのか?」「あなたが、ロマーノの権力で何でも解決できると思い込んでいるのは事実でしょう」かつてのダンテであれば、こんな屈辱的な条件を飲むはずがなかった。病院ごと封鎖し、有無を言わさず私と娘をニュー・エデンに連れ帰り、「すべては君を愛しているからだ」と狂ったような執着を見せたはずだ。だが今回、彼はただ静かに頷いた。「……わかった」1ヶ月後。ダンテは双方の弁護士の立ち会いのもと、離婚届にサインした。彼はもう二度と「戻ってきてくれ」とは言わず、娘を盾にして私を脅すような真似もしなかった。結婚によってロマーノ・ファミリーに移譲されていたモレッティ側の資産は、すべて私の名義へと返還された。最後のページにサインを終え、彼は何もつけられていない私
展示会が終わり、私は一人でギャラリーを出た。通りの向かいに、見覚えのある黒いセダンが停まっていた。車のドアが開いた瞬間、私の足はピタリと止まった。降りてきたのは、ダンテだった。彼は武装したボディガードも連れず、たった一人で現れた。最後に会った数ヶ月前よりひどく痩せこけ、その目には何週間も眠っていないような深い疲労の色が沈殿していた。彼はそこに立ち尽くし、まるで近づくことすら恐れているかのように私を見つめている。「……エレナ」その声を聞いた瞬間、私は無意識にお腹を庇うように手を当てていた。ダンテの視線が、私の手に引き寄せられる。ゆったりとしたドレスを着ていても、すでに妊娠7ヶ月を超えた大きなお腹を隠し切ることはできなかった。彼は私の膨らんだ腹部を凝視したまま、言葉を失っていた。やがて、絞り出すような声が漏れる。「それは……俺たちの、子供か?」「あなたには関係ないわ」ダンテの体が僅かに揺れた。「病院の記録は、本当だったんだな」彼はようやく、あのクルーザーが沈む前、私が彼に何を伝えたかったのかを完全に理解したのだ。「君は生きていて……そして、俺たちの子を身籠ってくれている」「この子はモレッティ家の者よ」私は彼を避けるように歩き出したが、ダンテはすがるように後を追ってきた。「何ヶ月も君を探し続けていたんだ」「探すかどうかは、あなたの勝手でしょ」「エレナ、俺は君が死んだとばかり……!」彼の声が震え始めた。「爆発音を聞いて、俺には何もできなかった。あの日、もし俺が予定通りニュー・エデンに帰っていれば。もし、君に嘘をつかなければと……毎日、毎日考えない日はなかった!」「でも、あなたは嘘をついた」ダンテは言葉に詰まった。そして次の瞬間、彼は私の目の前で崩れ落ちるように膝をついたのだ。「すまなかった……!」ギャラリーから出てくる客たちが怪訝な目を向けていたが、彼はそんなことなど気にも留めていなかった。「俺はビアンカを愛していたわけじゃないんだ。5年前、母さんや古参の幹部たちから跡取りを作れと執拗に迫られ……俺は、ビアンカを妻にさえしなければ、君にさえバレなければ、君への裏切りにはならないと、そう自分に言い聞かせていた」私は膝をつく彼を、ただ冷ややかに見下ろし
夜明けと共に、貨物船はローランディア南部の港に到着した。税関の職員が私のパスポートを念入りに確認する。「エリス・ローランさんですね?」「ええ」入国スタンプが押され、パスポートが返却された。その瞬間、エレナ・ロマーノは海の底に死んだ。モレッティ・ファミリーの者たちが、私をフローリア地方にある屋敷へと案内してくれた。そこはダミー会社の名義で登録されており、ダンテでさえ母が所有しているとは知らない秘密の隠れ家だった。周囲には広大な葡萄畑が広がっている。母屋の地下にあるワインセラーには、モレッティ・ファミリーが数十年かけて収集してきた美術品の数々が眠っていた。母の死後、顧問弁護士がこの地と資産を極秘に管理し続けてくれていたのだ。そして今、それらは再び私の手に戻った。ローランディアにおけるモレッティ家の全事業を取り仕切っているのは、ガブリエル・ローランという男だった。彼はデスクの上に、財務記録や不動産の権利書を次々と広げた。「マダム、これらがモレッティ家がローランディアに保有している合法的な資産のすべてです」「マダムとは呼ばないで」私は最初のファイルを開きながら言った。「エレナと呼んでちょうだい」ガブリエルは、なぜ私がニュー・エデンから逃げてきたのかも、あのクルーザーの爆発事故についても、一切詮索しようとしなかった。ただ静かに頷き、私の署名が必要な書類を一枚ずつ差し出すだけだった。当初、私は子供が無事に生まれるまで、ここで息を潜めて暮らすつもりだった。しかし、帳簿に目を通すうちに考えが変わった。母が残した葡萄畑の経営は傾きかけており、膨大な美術品コレクションも何年もの間、日の目を見ることなく倉庫の埃を被っている。これらの遺産を食いつぶしながら隠れて生きるのではなく、再び価値あるものとして世に送り出したかった。私はコレクションの目録を作り直し、モレッティ・ファミリーの名を冠した美術財団を設立した。選りすぐりの作品を売却し、その資金を、虐待から逃れてきた女性たちや、生活の術を持たない未亡人たちの自立支援に充てるのだ。それはある意味、自分自身を救済するための事業でもあった。もう夫の威光の陰に隠れて生きるのは御免だ自分の人生を、自分の足で歩みたかった。妊娠初期は体調が優れない日
ダンテが絶望を抱えて屋敷へ戻ると、そこにはすでに双子を連れたビアンカが上がり込んでいた。広間には大量の荷物が置かれ、使用人たちが彼女の衣服を2階へ運び上げようとしているところだった。「やめろ」玄関に立ったダンテの、その凍りつくような声に、その場の全員が動きを止めた。「誰の許可を得てここに上がり込んだ?」ビアンカが彼の方へ歩み寄る。「ヴィットーリア様よ。レオとミアは正式に一族の系譜に名を連ねたの。私たちにいつまでも日陰の生活を強いるつもり?」彼女の視線が、2階の主寝室へと向けられた。「あの部屋なら、私たち全員が暮らすのに十分な広さだわ。内装を少し変えれば――」「あそこはエレナの部屋だ」ダンテが冷徹に言い放つ。「誰の立ち入りも許さん。中の物には指一本触れさせるな」ビアンカの笑みが消えた。「エレナはもう死んだのよ」ダンテは猛然と彼女を睨みつけた。血走った狂気のような瞳に、ビアンカは思わず後ずさりした。「あいつは死んでいない」「捜索隊はとっくに引き揚げたじゃない!」ビアンカは必死に声を和らげようとした。「ダンテ、現実を受け入れるのが辛いのはわかるわ。でも、あなたにはまだ2人の子供がいるの。レオはロマーノの跡取りで、私は彼の母親よ。私が次のマダム・ロマーノになるべきだわ」居間のソファに座っていたヴィットーリアが、1枚の書類を差し出した。「ファミリーの幹部たちが作成した宣言書よ。あなたがこれにサインすれば、ビアンカは跡取りの母親として、正式にこの屋敷で暮らすことができる」ダンテはその書類を受け取ると、中身に目を通すこともなくズタズタに引き裂いた。破かれた紙屑が、ビアンカの足元にパラパラと落ちる。「レオとミアは俺の子供だ。俺はあいつらの父親として、すべての責任を果たす」彼の視線が、氷のように冷たくビアンカを射抜く。「……だが、お前が俺の妻になることは絶対にない」「あなたはもうエレナを失ったのよ!」「だから、ようやく自分の番が回ってきたとでも思ったか?」ビアンカの顔から血の気が引いた。ダンテは屋敷の管理責任者を呼びつけた。「街の郊外に子供たちの住居を用意しろ。教育資金もボディガードの数も現状維持だ。だが、俺の許可なくビアンカがロマーノの敷地に立ち入ることは一切
reviews