いつものように帽子を目深にかぶり、ビールを1ダース、テーブルに置いた。次の瞬間、冷たい手に手首をつかまれた。「千紗?」水を打ったように静まり返った個室で、全員の視線が私に集まった。反射的にさらに顔を伏せた、そのとき。帽子を乱暴に取り払われた。隠していた顔が、あらわになった。「本当に千紗なのか?なんでこんなところで働いてる?」直人の視線が痛いほど突き刺さった。直人の顔を最後に見たのは、3年前だった。川の中でもがき、必死に水面へ顔を出そうとしていた直人の姿がよみがえる。借金取りの手からようやく逃れ、私が川へ飛び込んだときには、直人はもう息をしていなかった。死んだのだと思っていた。だから毎月どうにか6000円を捻出しては、霊園へ墓参りに通っていた。それなのに今、直人は何事もなかったかのように目の前にいる。不思議なくらい、胸の内は静かだった。私は黙ったままビールを注いだ。すると母が、いきなり私の腕を引き寄せた。「何年も家に帰ってこないと思ったら、こんなところで働いてたの?電話の一本くらいできなかったの?」今でも覚えている。床に押さえつけられ、殴られていたあの日。真っ先に母へ電話をかけた。けれど、電話の向こうから聞こえてきたのは、楽しげなバースデーソングだった。「結衣、お誕生日おめでとう!」あの日は、私の誕生日でもあった。3年。誰一人、私を捜そうとはしなかった。私は何も答えず、丁寧に頭を下げてから手を差し出した。「お客様、ビール代は600円です。お支払いはどうなさいますか?」直人が固まった。まるで見知らぬ人を見るような目で、私を見つめている。無理もない。3年前までの私は結衣と同じように、高価な服を着て、金の心配など一度もしたことがなかった。直人が強く私の手首をつかんだ。眉間に深いしわが刻まれた。「千紗、この3年で何があった?なんでこんな生活してるんだよ」何をもって「こんな生活」と言うのか、私にはわからなかった。ただ、生きるには金が必要だった。治療費を稼ぎ、いつか帰るための旅費も貯める。それに毎月、直人の墓参りへ行く金も必要だった。でも、もうその分はいらない。これからは全部、自分の薬代に回せる。少しでもいい薬が買
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