Tous les chapitres de : Chapitre 11 - Chapitre 20

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第九話:第四の王子

 どこを目指すでもない、ふらふらと無意識に任せた足取りが向いた先は、自室へ向かう廊下であった。 一端腰を落ち着け休み、この短い時間で怒涛のように畳みかけた奇妙な難事を整理したい。リプカは無意識が選んだ逃走を幸いと判じて、息を落ちつけようと考えたのだが――しかし、そういうわけにもいかなかった。 自室には、見知らぬ先客がいた。 怒涛のように畳みかける難事は、どうやらまだ続くらしい。 この屋敷で唯一リプカの色が見て取れる自室に入ると、無遠慮に部屋中の物を物色する女性があった。 女性はリプカが硬直している間も手を止めず、今はリプカの下着を漁り、それを手に取りしげしげと観察していた。「なっ!?」 すわ、強盗であるか? リプカは一瞬そう考えたが、相手は耽美な薄黄色のドレスに身を包んだ、どこをどう見繕っても強盗を働く身分とは見受けられない、女性であった。「――い、いったい誰ですッ!?」 リプカの上げた声に顔を上げ、扉の前に立つ者の存在を認めると、女性は下着を元の場所に戻し、悪気の一つも感じぬ澄まし顔でリプカに近寄った。そして礼だかなんだか分からぬちょいと頭を下げる所作を挟むと、堂々と名乗りを上げた。「技巧の国アルファミーナ連合、ロライキス領域から遣わされた王子、ビビ・アルメアルゥだ。貴方の人となりを調べるため、部屋を見させてもらっていた。よろしく頼む」 言って、やはり無表情じみた澄まし顔で、リプカに手を差し出した。 再び硬直したリプカを見て、女性は小首を傾げた。情報過多で働きを止めたリプカの思考が解凍するまで、しばらくの時間を要した……。(――――なっ) 無言の時間が過ぎ、再び動き出した思考で真っ先に思ったのは。(ま、また――また女性!?) やはり、それであった。「――失礼。リプカ・エルゴール殿で間違いないか?」 ビビは濁りのない瞳で、リプカの目を真っ直ぐに見つめながらそう問うた。 どうしてそんな所作ができるのか。リプカは信じられない思いを抱いて、僅か身を引いた。「あ、あの、貴方、貴方は今、私の部屋を物色していましたよね……? 間違いでは、ないですよね……?」「ああ、間違いない。言った通り、貴方の人となりを調べるた
last updateDernière mise à jour : 2026-09-28
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第十話:第五の王子・1

 ――リプカ。 ビビと互いの国の常識について話し合っていると、扉をノックする音と共に、母の声が響いてきた。「なんでしょう、お母様」 母はビビに対し一礼すると、要件を口にした。 ――パレミアヴァルカ連合からおいで下さった王子がお待ちです。大広間へいらっしゃい。「わ、分かりました。すぐに用意致しますわ……」 その答えを聞くと、何が不満だったのか僅かに、しかし露骨に顔を顰めると、母はリプカを待たずその場を後にした。 その後ろ姿を見送ったのち、ビビが扉のほうに視線をやったまま話を向けてきた。「言った通り、私の国は様々な技術に秀でた国だ。当然、製薬技術にも長けている。望むなら、心理調教の薬であの母親をどうにかしてやってもいいぞ」「どうしようかな……」 クスリと微笑むと、ビビに断りを入れ、リプカは自室を後にした。◇  原油の国パレミアヴァルカ連合の王子も女性だった。 しかし今度は、様子が違った。 お互い顔を合わせた瞬間、王子である女性と、その父親である恰幅の良い男性共々、「えっ?」という表情を浮かべてリプカへ視線を注いだのだ。 主人の相席が叶わず、大変な失礼を、という母の挨拶の後、しばらく両者無言の時間が続いた。「…………パーパ。これ、どゅこと?」 遣わされた女性はきょとんとした表情で、父に意見を求めた。 彼女の父は懐から取り出したハンケチーフで汗を拭いながら、リプカと隣に座る母を順繰りに見やった。「――いや、おお、これは……失礼っ、リプカ・エルゴール様は…………女性であられる?」「は、はいっ。私が、リプカ・エルゴールですわ」「……おぉ、こ、これはぁ……」 滝のように流れる汗を拭いながら、あちら方の父はしどろもどろになった。 しばらくの静寂の末に。「……ま、間違いがあった、ようですな……」 そう口にした。 気まずい沈黙が、僅かの間流れた。 そして、母がその場を取り繕う言葉を発しようとした瞬間――。「――ちょ、やーだッ! パーパッ、チョー失礼じゃんッ!」 どこまでも底抜けに明るい、弾けるような声が広間に響いた。 大声を発した娘にバシリと叩かれた父親は、髪を掻きながら恐縮した。「いや、噂に聞くに、神気さえ感じる獣性を纏っ
last updateDernière mise à jour : 2026-09-28
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第五の王子・2

「もぉさ、リプカ様とかどんなイケメンかなぁとか、怖い人だったらドーシヨとか色々考えてたのに、これは予想外過ぎるでしょ。私笑っちゃったもん!」 リプカと並んで中庭を歩きながら、アズナメルトゥは眉をハに下げた明るい笑顔をリプカに注いだ。 リプカはその、己とは正反対の属性を宿した明るさに、未だ、たじろぐばかりでいる。「そ、その、すみません……」「いやいや、リプカちゃんが謝ることじゃないって! 私らのお国のほうこそ、ゴメンね……?」「い、いえ……そのことは気にしていませんわ。本当に……」 地上を色鮮やかに照らす太陽のような明るい笑顔が曇ったことに、なぜだかとてつもない罪悪感を覚え、リプカはもごもごと返事した。 僅かな間だけ、気落ちした表情で視線を下げていたアズナメルトゥだったが、すぐに、先程までと比べるとやや作ったような明るい顔をリプカへ向けた。「でも、そのおかげでリプカちゃんと友達になれる機会ができてよかった! ね、ねっ?」「と、友……っ!?」 この短時間で再び起きた、今までの人生において一度もなかったはずの未曾有に、リプカは飛び上がった。 途端に、アズナメルトゥの表情が再び曇る。「……あっ、ごめん……駄目だった?」「――ぜ、全然、全然っ!」 リプカが慌てて首をぶんぶん横に振ると、曇り空が晴れ、再び屈託のない明るい輝きがリプカを照らした。「やーった! もーよかったぁ、マジで仲良くなれないかと思ったもん……!」「よ、よろしくお願いしますわ……!」 リプカが頭を下げると、アズナメルトゥはニッと無垢な表情を見せた。「よろしくね。奇妙な縁だけど、リプカちゃんと友達になれる機会になったからよかった! ――ね、ね、今度一緒にどこかでお洋服買いに行こうよ! 私こっちの国の服とかもチョー興味あるから、案内してくれると嬉しいな!」 なぜ、太陽に照らされたような輝きを見たように思うのか、リプカはそのことを理解した。 その時々の思いを伝える営みに、恐れや躊躇などの一抹の曇りも抱かず、心を注いで一生懸命だからだ。 どうしたらこのようになれるのか――。 怒涛のような会話量に圧倒されながら、再びそんなことを思って―
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第十一話:ミスティア・シィライトミア

「エーッ! じゃ、じゃあ、本当にその暗殺者をみんな一人残らず、リプカちゃんが倒しちゃった、ってコト!?」「ま、まあ……。あの、べつに、噂に聞く『軍隊』とやらの一個軍が攻めてきたというわけではなかったので……」「いや謙遜になってないし!? こ、この細腕でどうやって!? 私より細いくらいなのに……!」「ちょっ、ちょ――あの、アズナメルトゥ様――!」「あ、ごめんごめん……! ていうかリプカちゃん、アズナメルトゥ様じゃなくて、私のことはアズって呼んでってば!」 覗き込むように微笑みかけてきたアズナメルトゥへ、リプカはもにょもにょと視線を俯けて表情を赤くした。「ア……アズ――様……」「ンフフっ、嬉しい! ねね、リプカちゃんいつ私と遊べる? この国も一緒に回りたいし、私たちの国にも招待したいし! あーっ、時間があったらアリアメル連合とかにも旅行しに行きたい! ね知ってる? アリアメル連合の幻想都市シィライトミア領域。私アグアキャナルのほうには行ったことあるけどシィライトミアのほうは行ったことないからリプカちゃんと一緒に行きたい!」「いいですねっ、是非……っ!」 気を使わせないよう、なけなしのテンションを総動員して普段の根暗より若干明るい声色で応えながら、リプカは目を回さぬよう必死で会話に喰らい付いていた。 といっても、行間も埋まったような会話の応答速度はリプカの体感的な話であって、実際は、会話に余裕を持たせることを忘れない、リプカの反応をしっかり窺ってくれる、アズの社交人らしい心配りがあった。 しかし……。 独り突っ走るのではなく、こちらを見ながらとても優しく話してくれるアズとの会話は嬉しかったが、同時に……会話量が膨大すぎて、精神力のゲージがガリガリと削られていくような感覚を、先程から無視できない度合いの強度で感じているリプカであった……。(こ、このままだと……本当に目を回して、倒れてしまう……!) 身内以外と会話することなどほぼ無であったリプカである、もう少しゆっくりと話してほしいと一言伝えれば解決する事だったが、話を挟む余裕も見つけられず、またそれを口にする度胸もないコミュニケーション下手を発揮していた。(でも、友達……友達なのですし……!) などと、決断を固めている
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第十二話:第六の王子・1

 男性に対し『美しい』という印象を抱いたのは初めてのことであったが、それよりも、まずなりより強く受けた第一印象は『真面目そうなお方』であった。 大広間前まで戻ると、凛とした佇まいで庭先を見つめる、見目麗しい男性がリプカたちを待っていた。 彼はリプカに気付くと儀礼的な微笑みを浮かべて、ゆったりとした歩調でこちらに歩み寄ってきた。「リプカ・エルゴール様ですね? お初にお目にかかります、私アリアメル連合、シィライトミア領域から参上致しました、セラフィ・シィライトミアと申します」 セラフィが折り目正しい礼と共に名乗りを上げて微笑むと、リプカはまるで、自分が物語の一節に迷い込んでしまったような、不思議な感慨に陥った。「リ、リプカ・エルゴールです。お見知りおきを……」 なんとか挨拶を返せたことに安堵を感じながら顔を上げたところで、アズが後ろから控えめにバシバシとリプカの背を叩いてきた。――言葉なくとも言いたいことは分かった、セラフィの容姿はさすがのアズも僅かな間だけ固まってしまったほどの美貌であったのだ。 ミスティアと同じ艶やかな青に、落ち着いたトーンの黒が入り混じった髪は、絵に描いたような“王子”に相応しい風貌であった。 整って小さなその尊顔には、気真面目と、そして決してわざとらしくない優しさが見て取れた。立ち姿は颯爽と美しく、どこまでも澄み切った清潔感を感じさせる美男子である。 思えば、たった三日で婚約破棄されたハーレヴァンも顔立ちだけは良かったが、目の前の彼はそんなありきたりとは次元が違った美貌である。それでいて……男性的なたくましさよりも『美しい』と印象を抱く繊細を纏っていながら、立ち姿実に凛々しく、静かながらに確かな覇気に満ちている。 セラフィがリプカの手を取り、礼をする形でその甲に口付けすると、リプカはなんだか分不相応な場に放り込まれてしまったような負い目を感じてしまった。(ちょーちょちょちょちょっ! チョーイケメン、チョーイケメンっ!)(そ、そうですね……そのようで……) アズの耳打ちに、リプカは曖昧に答えた。 正直、リプカにとって顔の良さはどうでもよかった。その人の顔立ちが良かろうが悪かろうが、万人から虐げられてきたリプカから
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第六の王子・2

 対面で席に着き、改めてセラフィの顔を正面から見ると、あまりの顔立ちの良さに、リプカはなんだか酔ったように少しくらくらしてしまった。「あらためまして自己紹介を。私はアリアメル連合を代表して、リプカ様と相席する機会を頂いた婚約者候補、セラフィ・シィライトミアです。どうぞセラとお呼びくださいませ」 若干砕けた口調になって改まったセラフィに、リプカはぺこりと頭を下げた。「リプカ・エルゴールでございます。本日はよろしくお願い致しますわ……セラ様」 その呼び名に、セラはにこりと微笑んで親愛を示した。「この度は相席の機会を頂き嬉しく思います。アリアメル連合故の特殊な事情をご容赦願いたい」 セラの口にした『アリアメル連合故の特殊な事情』という台詞も気になったが、リプカにはまず何より先に確認しておきたいことがあった。「あ、あの、セラ様」「なんでしょうか?」「あの……勘違いだったらごめんなさい」 勘違いかもと考えながらも、ほとんど確信を持って、リプカはそれを告げた。「貴方様は……ひょっとして、女性であられる……?」 美し過ぎる容姿。 手と手を触れ合わせたときの、柔らかさ。 そしてなにより――。 ――結果だけを言えば、リプカのその直感は間違いなどではなく、事実を射た実際であった。 だが、リプカからその問いを受けると――セラは、ぽかんとした表情を浮かべた。 それは女性だと言い当てられた戸惑いなどではなく、もっと別種の――。 ……リプカには、その表情に覚えがあった。(あ…………) セラの浮かべたその表情――それは過去幾度もあった、己の無知を晒したときの、周囲の反応と一緒だった。 問いの正否は間違っていなくとも、問い掛けること、それ自体に間違いがあったらしい。 それに気付き、赤面した。何がどうなっているのかは分からなが、きっとその事情は、了解していることが常識だったのだろう。「――失礼。我が国の常識に捕らわれるあまり、リプカ様への配慮を怠る大変な愚を犯していました。どうかお許し頂きたい」 居住まい改め、気を取り直して告げられたセラの謝意に、リプカはますます居た堪れない気持ちになった。「いえ、こちらこそ常識が無く……。あの、もしやそれは、アリアメル連合故の特殊
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第十三話:姉妹・1

「あのさ、もしかして私どこかでミスティアちゃんと会ってたりする?」「ええ、私は貴方様のことを存じておりました、アズナメルトゥ様」「あーやっぱり? 最初から、私とどっちがリプカちゃんなのか見抜いてたもんね」「直接の挨拶はありませんでしたが、晩餐会でお見かけする機会がありましたね」「マジ!? ゴメン、覚えてないかも。どこのパーティー?」「アグアキャナルの立食会で。お兄様の代わりに顔を出しまして」「あー、あそこにいたんだぁ。ていうかアズナメルトゥ様じゃなくてアズでいいって! 畏まるような間柄じゃないっしょ? 言葉も固くしなくていいし」「ではアズ様で。これが私のデフォルトです。私のことはミスティとお呼びください」「んじゃ、ミスティ! ねね、今度ミスティゃんとも遊びに行きたいなっ。あっ、それとリプカちゃんとシィライトミア領域に遊びに行くとき、色々案内してほしい!」「いいですね。私もパレミアヴァルカ連合には足を運びたいと常々思っていたので、そのときは是非――」(この短い間で、とてつもなく仲良くなっている……!) セラとのファーストコンタクトを終え大広間から出ると、そこにはすっかり仲良しになったアズとミスティアの姿があった。「あ、リプカちゃん! ねっ、ねっ、どだった!?」「い、いえ、今回は顔合わせ程度のお話だったので、なんとも……。でも、楽しい一時でしたわ」 至極無難な返事を返しながら、リプカは周囲を窺った。(……見られている)「ん? どしたん?」「いえ、なんでも……。――ああ、あの、ミスティア様、セラ様は私のお母様の元へ、挨拶へ向かわれたようです。戻られるまで、しばし待ってほしいとのことで……」「分かりました、ありがとうございます」「んじゃ、もうしばらく三人で、リプカちゃんのお家探検する? リプカちゃんのお部屋とか見てみたい!」「ああいえ、ごめんなさい、私ちょっと向かうところがありまして――」「おっ、そかそか。どこ行くの?」「フランシスのところへ行ってまいります。まだ来てないようですが、まあ、出迎えなどでも」「そ、そか。それじゃ、わ、私たちもお出迎えに向かったほうがいいよね?」「――ああ、私一人で結構ですよ」 緊張が見て取れる、アズの若干焦った物言いに、リプカは珍しく、はっ
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姉妹・2

 木立の隙間に挟まるようにして、彼女は身を隠していた。 隠す気もなく近付く足音に振り向いた彼女は、足音の主を認めると、牙を剥くように表情を険しくした。「そこでなにをしているのですか? ……クイン様」 敵対心を露わにするクインに物怖じすることなく、リプカは真っ直ぐな視線を彼女へ投げかけた。 蝋よりも青白い顔に煌々と灯る、燃ゆる瞳でリプカを睨むクインは、歯軋りの音を立てながら、腹の奥底からの声を漏らした。「どこにいようと私の勝手であろう。お前に指図を受ける謂れはない。この家の内ですら、まるで冷笑されるためだけに存在しているような、腫れモノ扱いを受けているお前には、特にな」 最後は蔑むように言いながら、クイン自身も冷笑を浮かべた。 そんなあからさまな見下しを受けても、リプカは表情を変えることなく鋭い視線を見つめ続けた。「他者がどれだけ私を蔑み見下そうと、私が貴方様にお伝えしなければならない忠告が無意味となる理由にはなりません。聞いて頂けますか?」「ほう? いったいなに――」 ――クインの言葉は萎むように消えた。 豹変したリプカの瞳を見つめてしまった瞬間、彼女から一切の余裕が剥奪されてしまったのだ――。「お伝えしたいことはたった一つ」 手の届く距離まで詰め、足腰の折れてしまったクインを見下ろしながら、リプカは平時と変わらぬ声色で先を続けた。「貴方様程度に遅れをとるあの子ではないでしょうが、ですがもし万が一、貴方様がフランシスに直接的な害意を向けた場合――私は貴方を決して許しません」 決して許しません。 リプカがそれを口にすると、クインの瞳が恐怖で揺れた。「クイン様。確認致しますが、貴方様がここにいたのは、あともう僅かでここを訪れるであろうフランシスを待ち伏せし、害意を及ぼすため――などではありませんよね?」「――――ち、違う! 違う……!」 必死に首を振るクインに、リプカはこくりと一つ頷いた。「ならよかったです。私の勘違いでした、ごめんなさい。――そう、しかし、今は国政的な理由の心配は、どうか捨ててください。私が貴方を許さないという、そのたった一つの事実にどうか注視してく
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姉妹・3

「ごきげんよう。お、お姉さま、お疲れーん。お久しぶりのハグ。――相変わらずちっちゃ!」「ほっときなさいな……」 街中でもよく見かける、いたって普通の外見を装った馬車に乗って、フランシスは現れた。 見る者を圧倒する佇まいで座についていたフランシスだったが、門の内で待っていたリプカの姿を認めると、微笑みと――僅かばかりの疲労の色を浮かべて、表情を和らげた。(やっぱり、相当な無理をしているのね……) いくらこの子といえど、無尽蔵ではない。 世間には意外に思われるかもしれないが――これまで幾度と見てきた、フランシス・エルゴールの、疲労の色。――しかしさすがに、今回ほど色濃い疲弊は始めて見る。 過労への心配、そこから見える世界情勢の不安、フランシスのこれから――。 そんな心配を胸の奥底に隠しながら、リプカはただフランシスにモフられ続けた。「ハス。ハスハス。――はー、お姉さま成分補充」「私から何らかの成分が漂ってるみたいな見出しはやめて……」 そう言いながらも、リプカは引っ付くフランシスの背に手を回し、軽く添えた手で優しく抱き留めていた。 ――ふと、フランシスの背後、馬車の中から、見知らぬ二人が姿を見せた。 一人は長身の男性。 一人は細身の女性。 二人は地に降りるとすぐさま、リプカに恭しく礼をした。――リプカもおずおずと、首だけの中途半端な礼を返した。(――護衛) 腰を折る二人をじっと見つめる。(男性はかなり腕が立つ。足周りの肉が特に、戦う形に発達している。女性は、緊急時の臨機応変に長けているタイプに見える。そして、暗器の扱いに長けた者の体つきをしている――)「スターップ、お姉さま」 自然と目の前に立つ者の分析に思考を割いたリプカへ、フランシスは不機嫌な声を投げかけた。「私が目の前にいるのに、他のことに思考を割かないで」「あ、ええ、ごめんなさ――いや乱暴者の考えじゃないの、それ」「なに? なーにー? ご不満がー?」「はいはい、今は目の前の貴方に集中するわね。――フランシス」「なに?」「何か、隠し事なんかしてない?」「――してないわ。何もないわよ」「そう」 リプカは笑顔になった。「なら、よかった」 その笑顔を見て、フランシスもまた、|屈託《
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姉妹・4

 両親への挨拶もそこそこに、フランシスは自室へリプカを招き、二人きりで、テーブルを挟んで向かい合った。 綺麗に整頓の行き届いた部屋。しかし長い間留守にしていたためか、僅かながらに人間味に欠ける空気感……私室であるのに、倉庫に似た乾いた印象を受ける。「それで、フランシス」 その空気に僅かばかりの寂しさと心細さを覚えながら、温かい紅茶を一口頂くと、リプカは早速、話を向けた。「あなたの企みは関係しないということは分かったけれど――でも、今回の一連は、あまりにも急すぎる。いきなり、こんな示し合せたようにどっと押し寄せるなんて。なにか理由があるとしか考えられないのだけれど……」「あー、それね」 はしたなく円形のテーブルに頬をつき寝そべりながら、フランシスは呟くように漏らした。「まあ、それは私の判断が関係している」「判断?」「うん。実は、お姉さまへの婚約話はね、私のほうで全部塞き止めて、無いものにしてきたの」「そ、そうなの……?」「そー。お姉さまは婚約破棄を交わしたばかりで、自由になったばっかだから、まだそういうのは億劫かなーっていうのもあったし、お姉さまはできるだけ私の傍にいてほしいっていうのもあったしー」 おそらく後半の主張こそ主だなと感じながらも、リプカは驚いていた。 フランシスが、あのフランシスが、自身の意思――我儘を撤回するなんて。 お姉さまはできるだけ私の傍にいてほしい。 その言葉からリプカは、フランシスが最近、実家に寄り付く暇もなかったという事情を思った。傍にいれないから、いいかなと思った、ということだろうか……。胸の奥に痛みが走る寂しさを感じながら、リプカはそんな想像を巡らせたが――。 続いて口にされたフランシスの答えは、リプカにとって意想外の理由であった。「でもさー、お姉さまさー、…………私を助けてくれたじゃん? あのとき」 ――あのとき。 リプカはすぐに察した。 フランシスが自宅で刺客に狙われた、あのとき。 リプカが助けなければ歴史が終わっていた、あの場面――。 フランシスは、テーブルにべったり頬を付けながら、ここではないどこかを見つめるようにして、続きを語った。「あの時さー、お姉さまを私だけのものにするのは、
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