All Chapters of 令嬢リプカと六人の百合王子様。: Chapter 21 - Chapter 23

23 Chapters

第十四話:それぞれの事情

 話は、リプカの元へ集った六人の婚約者候補が各々抱える、それぞれの事情についての詳説へ移行した。 フランシス個人の知見、その内実。リプカにとってこれ以上なく信頼のおける――真実の内訳ともいうべき参考意見である。「まずねー、エレアニカ連合セラフィア領域の娘、クララ、だっけ? 彼女、ガチだから」 だらしない格好で紅茶を飲みながら、フランシスはのんべんだらりとした態度のままに、特に感情を強調するでもない、ただの世間話のような口調でそう切り出した。 リプカは目を見開き、どきまぎに押されて息を上気させながら、鼓動する胸をおさえた。「そ、そう……」 口にした声は震えている。 ――真実の内訳と表現してもいい、参考意見。 心の底から嬉しく思い、思わず未来を想像してしまったほど浮かれていたとはいえ――どこかでは、その唐突な奇跡に対する疑心もあったのだろう。 都合の良すぎる奇跡であると、心の片隅では。 私なんかに……。 その疑心が溶けたとき芽吹いたのは、雪解けを待ち、歓喜と共に背を伸ばす若草のような、力強く青々とした感情だった。「もうほんとしつこかったかんね。実はさあ、縁談禁止令を解いた理由の大半も、あの女にあるんだよね」「――え?」「ぜひ、リプカ様との縁談の許しを、つって、何度も頭下げてきてさあ。何回あったっけ、途中で私マジギレ一歩手前までいったかんね」 暴君じみた口調とは裏腹に、フランシスの表情は穏やかだった。「そしたら、どうしてお姉さまを好きになったか、とか、私は如何にリプカ様を愛するか、とか、滔々と膝を折りながら熱弁してきて。プチギレとうんざりを通り越して納得してきちゃって。目を見ても本気だったし……そのうち、さ。……まあ、そんな感じ」「……そう。そうだったの」 瞳に涙を浮かして――リプカは俯きながら、呟いた。(……。…………。……………………)(私を、好いてくれる人がいた) クララを想いながら、リプカは頬を伝いそうになった滴を拭った。 そんなリプカをちらと見て――フランシスは、一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべた。「まあ後は、はっきり言ってお国の事情ね」 瞬間で表情を戻して、フランシスは話を続けた。「アルファミーナ連合の目的は、婚約と
last updateLast Updated : 2026-09-28
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第十五話:地獄の晩餐会

「…………」「…………」「…………」「…………」「あ、あーっ、お料理、美味しいっ! ね!」「ええ、とても。こういった香草を使用しない肉料理は、アリアメル方面では珍しいのですが――食べてみるものですね。美味しいです」「ウィザ連合の料理にも興味湧いてきた! 要所要所が独特でオモシロイな! ビビちゃんはどの料理が印象に残った?」「私はこの香草のスープがどうにも舌に合わなかった」「でゅぇ!? ――そ、そっか……」「確かにこの香草のスープは、舌触りからして独特ですね。あくまで習慣的な好みの問題で、合わない場合もあるかもしれません」「そ、そぅだねぇ……。……ク、クインちゃんはー……」「………………………………」「ぁう……うぅ、と……」「…………」「…………」「お、お料理、美味し……」「ええ、とても……」「…………」「…………」 カチャリ、カチャリ……。 食器が立てる音が虚しく響く。会話を主導して盛り上げようと頑張っていたアズも、今やガックシと俯き、ただ食事を口に運んでいた。 大勢で食卓を囲むと楽しいし、食事も美味しく頂ける。 そんな話を噂じみた伝聞として耳に挟んだことのあるリプカであったが――今日このとき、初めてその機会に恵まれて感じたことは、『地獄のよう』だった。 席にはフランシス、ミスティアを含めて、七人が食卓を囲んでいる。 始まる前は、所用があっての離席でクララが参加しないことを残念に思っていたリプカだったが、この沈黙に満ちた恐怖の食卓、その有り様を目にすると、むしろそれは、せめてもの幸いであるように思えた。 とてもじゃないが晩餐会とは呼べない凍りついた食卓には、必死で場を明るくしようとするアズの喋りと、あくまで冷静を失わないセラの、的確な受け答えだけがあった。 他の面々は、基本、無言。 ビビはこんな場でも我関せずと、マイペースに食事を進めている。 ティアドラは興味深げに、食卓の面々を観察していた。 ミスティアは、場の空気にすっかり恐怖し、セラの隣で縮こまっている。 そして、この地獄のような、重い沈黙の元凶――。「……………………」 ――クインは、死んだように光彩の失せた瞳で空虚を見つめながら、葬儀でも浮かべぬであろう闇を纏って、静かに、機械的に、食事を進めていた
last updateLast Updated : 2026-09-29
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第十六話:退屈な議論会・1-1

 慌ててその身を支えたリプカの腕の中で、クインはものの見事に失神していた。 上目を剥いて気絶するクインが哀れで、撫でるようにすっと目を閉じさせたのち――リプカは再び内心で頭を振り乱し絶叫しながら、憐情からの謝罪を念じて繰り返していた。(あとでフランシスに頼み込んで、対価と引き換えにどうにかしてもらいましょう……)「しょーがないわねぇ、もー」 億劫そうな声を上げ、フランシスは腰を上げるとクインの元へ歩み寄り、腰辺りに手を回し、器用にその身を立ち上げた。「あ、わ、私が……」「私がいくわ」 慌ててクインを支えようとしたリプカへ、フランシスはきっぱりと断りを告げた。「お姉さまは晩餐会を楽しんでて」「え、えぇ……でも……」「主役が離れるとまずいわ。ね?」「――え、ええ。分かりました」 リプカの首肯を見て一つ頷き、フランシスは最後に客人へ顔を向けると、陽気に言ってみせた。「では皆様、不肖とする私どもの至らなさもあり、色々とお騒がせしましたが――どうぞお気になさらず、引き続き、お食事をお楽しみくださいませ」 それだけ言うと、真っ直ぐ出口の扉へ向かって、晩餐会の場から、クイン共々消えて行った。 ――音を立てて、扉が閉まる。 後に残されたのは、しんと静まり返った、耳に痛いほどの静寂。 滅茶苦茶になってしまった晩餐会。 折れた腰が上がらぬまま、ほとんど恐怖と同一である羞恥に顔面を蒼白にして、恐る恐る客人の方へ振り返ってみれば――。 ――てっきり、自身をぽかんと見つめ、人が通常形作ることのできない、心底の呆れを浮かべている顔が五つあるものとばかり思っていた。 せっかくの縁が、すべて滅茶苦茶になってしまったとすら。 しかし現実は、そうではなかった。 
last updateLast Updated : 2026-09-30
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