FAZER LOGIN「…………」
「…………」 「…………」 「…………」「あ、あーっ、お料理、美味しいっ! ね!」
「ええ、とても。こういった香草を使用しない肉料理は、アリアメル方面では珍しいのですが――食べてみるものですね。美味しいです」
「ウィザ連合の料理にも興味湧いてきた! 要所要所が独特でオモシロイな! ビビちゃんはどの料理が印象に残った?」
「私はこの香草のスープがどうにも舌に合わなかった」
「でゅぇ!? ――そ、そっか……」
「確かにこの香草のスープは、舌触りからして独特ですね。あくまで習慣的な好みの問題で、合わない場合もあるかもしれません」
「そ、そぅだねぇ……。……ク、クインちゃんはー……」
「………………………………」
「ぁう……うぅ、と……」
「…………」
「…………」「お、お料理、美味し……」
「ええ、とても……」
「…………」
「…………」カチャリ、カチャリ……。
食器が立てる音が虚しく響く。会話を主導して盛り上げようと頑張っていたアズも、今やガックシと俯き、ただ食事を口に運んでいた。
大勢で食卓を囲むと楽しいし、食事も美味しく頂ける。
そんな話を噂じみた席にはフランシス、ミスティアを含めて、七人が食卓を囲んでいる。
始まる前は、所用があっての離席でクララが参加しないことを残念に思っていたリプカだったが、この沈黙に満ちた恐怖の食卓、その
とてもじゃないが晩餐会とは呼べない凍りついた食卓には、必死で場を明るくしようとするアズの喋りと、あくまで冷静を失わないセラの、的確な受け答えだけがあった。
他の面々は、基本、無言。
ビビはこんな場でも我関せずと、マイペースに食事を進めている。
ティアドラは興味深げに、食卓の面々を観察していた。 ミスティアは、場の空気にすっかり恐怖し、セラの隣で縮こまっている。そして、この地獄のような、重い沈黙の元凶――。
「……………………」
――クインは、死んだように光彩の失せた瞳で空虚を見つめながら、葬儀でも浮かべぬであろう闇を纏って、静かに、機械的に、食事を進めていた。
周りの全方位に、オマエラシネ、という念が内包された負を発散している。それは敵意ですらない、ただ世を憎む、純粋な怨念。諦観と憎悪――最後の晩餐を迎えるかのような表情で、席に付いていた。
そんなクインを。
身も凍るような微笑を浮かべて観察するフランシス。どうして、底知れぬ者が浮かべる微笑には、神を目前にしたが如きの、耐え難い恐怖が宿るのか――ミスティアが怯えている理由の大半が、【鬼女】と呼ばれた女が浮かべるその、人を圧殺する冷笑にあった。
ギブ。
隣でアズが小さくそう呟くのを、リプカは聞いた。 この子がこの表情をする以上、
早々にこの食事会を諦めていたリプカは、地獄の空気感が張り詰める場へ皆を招待してしまったことに、申し訳ない気持ちを抱いていたが……。
ただ、今後に意味を「――さて」
――ついに、その閻魔女帝が声を上げた。
クインの身が小さくビクリと跳ねたのをリプカは見た。
「クイン。クイン・オルエヴィア・ディストウォール」
フランシスは、話に
その問い掛けの意味を測りかね、他の六名は内心で首を傾げたが――。
クインだけは、手にぎゅっと力を込め、腹立たしさの感情も混じる、苦渋に満ちた表情を浮かべた。(………? なぜ私の前に現れなかったのか……?)
考えてみたが、やはりリプカにも、その意味は分からない。
なんの話だろうか?フランシスは拳を握り締めるクインへ「はっ」と蔑むような笑みを向け、続きを語った。
「もはや
ひゅっと、クインの口から息が漏れた。同時に、白みを帯び血管が浮くほど、拳に更なる力が加わる。
リプカはハッとした。フランシスの言っていた、あのときは意味の解せなかったこと――。
『まあ、オルエヴィア連合が国の人質として、勝手に寄こしてきただけだけれど』 (そういう……意味だったのね)あんまりだと思ったのか、それとも他に思惑があったのか――おそらく、いや間違いなく後者だろう――フランシス自身が、それをどうにかするため、オルエヴィア連合に渡って、話をつけに行っていたということのようだ。
(それはクイン様にとっても、悔しさはあろうが、利になる話であったはず……)
彼女はなぜ、フランシスの指示に従わなかったのか……? 悔しさが勝った?
…………いや、待って――。 リプカの頭に、「ふざけるな……」
その低い声に、フランシスは恐ろしく冷徹な表情そのままに、首を傾げた。
「ふざけるな? やはり、くだらぬ悔しさが勝ったということか?」
その罵りを聞いて、クインは堪え切れぬ怒りに震えたが――やがて、握り締めた拳をも脱力して、俯いた。
「どうした?」
フランシスが問うても、答えは返ってこない。
食卓に、再び沈黙が広まった。そして――フランシスがため息をついた、そのときである。
小さな連続した息遣いが、無言の間に響き出した。
よく聞けばそれは――
「あ?」
フランシスが顔を
「もうやめてくれ……」
「は?」
「お前ら、お前ら……もうどうあっても、私を許すつもりなんて、ないんだろう……?」
ぐきゅ、ふぎゅっ……。
まるで小さな子供が泣くような嗚咽をあげながら、クインはぽたぽたと床に、瞳から溢れた滴を落とした。 フランシスは本気で分からぬという表情で、ぽかんと、そんなクインを見やっていた。 止まらぬ嗚咽で途切れがちになった声で、クインは一生懸命に言葉を
「私だっ……私だっ、て、それにっ、従おうと、したさ……。身を焼かれるような、腹が煮えくりかえる悔しさを、かみゅ、噛み殺して……ま、待った。けど――そしたら――」
「そしたら、お前の姉が――」 フランシスを含める他の六名は、なんのことだか分からず、内心で首を傾げた。が――。
ただ一人、当事者であるところの、件の姉は――。(あ――)
『そこでなにをしているのですか? ……クイン様』
木立の隙間に挟まるようにして、彼女は身を隠していた。
隠す気もなく近付く足音に振り向いた彼女は、足音の主の姿を認めると、牙をむくように表情を険しくした。そんな彼女に、リプカは――。
『クイン様。確認致しますが、貴方様がここにいたのは、あともう僅かでここを訪れるであろうフランシスを待ち伏せし、
『――――ち、違う! 違う……!』
『ならよかったです。私の勘違いでした、ごめんなさい。――そう、しかし、今は国政的な理由の心配は、どうか捨ててください。私が貴方を許さないという、そのたった一つの事実にどうか注視してください。――失礼致しました。また来ます』
――人知を超えた暴力の圧によって彼女を恫喝し……
(――――ああああああああアアアアア!!)
内心で絶叫を上げるリプカ。
(あのときの……あのときの、あれは――――ッ!)
「もうやめてくれ……。なんで、なんでこんな酷い目に合わなくちゃいけないんだ……。レヴァロドルマ領域がオルエヴィアの中枢であったはずなのに……どうして、私たちディストウォール領域の者が……全てを……。お前たちにも、いたぶるように虐められて……なんだよぅ、これぇ……。なんで、なんでぇ……」
(うわああああああああああ!! アアアアアアアアアアアア!)
ぼろぼろと涙を流すクインを目の前に。
リプカは髪をみょんみょん散らせて、呆けた表情をして宙を見つめながら、内心では頭を掴み激しくヘッドバンキングしていた。やらかし。
自己評価の好感度すら急落する、最低のやらかし。 フランシスの本気の圧に晒されることを
まるで喜劇。頭の中では大地を賛美する歌のように美しい旋律の、自身の愚かを称える罵りの歌唱が響き始めていた。
〽まず見よ、己のその懐を。 そこに道化の意味はある。 愚かな者よ、省みよ、過去を。阿呆よ。 嗚呼リプカ、道化よ、愚かの化身よ。 「お前ら……子子孫孫まで呪われろ……。レヴァロドルマ領域の恥知らず共も残らず……うっく……呪われてしまえ……。ふっ、ぎッ、んく……。許さない……」(をおオオオオオオオオオオオ)
まあ、あとから振り返れば、これは
真っ青な顔でガタリと椅子を鳴らし立ち上がり、驚く他の者に気を回す余裕もなく、リプカは
「ク、クイン様。ど、どど……」
言葉が上手く出てこず、自然と震える手で取ったハンカチーフでクインの涙を拭ったりなどしながら、リプカは過呼吸を繰り返した。
クインは濁った瞳でそんなリプカを見つめて、口端だけで、死人のような笑みの形を作った。
「……なんだ? 優しいな、姉君。そうやって
「ちが、チガっ……」
心内で絶叫し続けながら、リプカも目の端に涙を浮かべて、ふるふると首を振った。
「どしたの? お姉さま」
フランシスの場にそぐわない、軽い調子な問い掛けに、リプカはギギギと鈍く首をそちらに回した。
「あの、私、勘違いを……! フランシス、クイン様はあなたを待っていたの……。けれど、わ、私が、とんでもない勘違いで引き留めてしまって……ッ」
「あー」
それで全てを理解したのか、フランシスは納得顔で頷いた。
「か――勘違い?」
対してクインは、呆けた声で呟き、茫然の顔をリプカへ向けた。
「は……?」
「そ、その、その――本気で、フランシスに害意を向けようとしている可能性を
ガバチョ、と頭を下げるリプカを、クインは変わらぬ茫然の表情で見つめて。
ゆっくり、視線をフランシスのほうへ向けた。フランシスは、にっぱりとした笑顔を浮かべて。
明るい声色で、クインへ告げた。「だって。あー、そういうことだったかー。まーでも人質同然の軟禁状態にありながら、勘違いされる行動を取った貴方が悪いね。考えが足りなかったね。あ、貴方を国へ戻すための意向を書き記した書状は、否定の否で送っちゃったから。白紙の白紙。まー実は、最初から貴方の酌量余地は望めそうになかったから、変わんない変わんない。まあそういうことだから」
それを聞いたクインは。
一つ、瞬きをした後。
目を開いたままゆっくりと、硬直して後ろ向きに倒れた。
「…………」「…………」「…………」「…………」「あ、あーっ、お料理、美味しいっ! ね!」「ええ、とても。こういった香草を使用しない肉料理は、アリアメル方面では珍しいのですが――食べてみるものですね。美味しいです」「ウィザ連合の料理にも興味湧いてきた! 要所要所が独特でオモシロイな! ビビちゃんはどの料理が印象に残った?」「私はこの香草のスープがどうにも舌に合わなかった」「でゅぇ!? ――そ、そっか……」「確かにこの香草のスープは、舌触りからして独特ですね。あくまで習慣的な好みの問題で、合わない場合もあるかもしれません」「そ、そぅだねぇ……。……ク、クインちゃんはー……」「………………………………」「ぁう……うぅ、と……」「…………」「…………」「お、お料理、美味し……」「ええ、とても……」「…………」「…………」 カチャリ、カチャリ……。 食器が立てる音が虚しく響く。会話を主導して盛り上げようと頑張っていたアズも、今やガックシと俯き、ただ食事を口に運んでいた。 大勢で食卓を囲むと楽しいし、食事も美味しく頂ける。 そんな話を噂じみた伝聞として耳に挟んだことのあるリプカであったが――今日このとき、初めてその機会に恵まれて感じたことは、『地獄のよう』だった。 席にはフランシス、ミスティアを含めて、七人が食卓を囲んでいる。 始まる前は、所用があっての離席でクララが参加しないことを残念に思っていたリプカだったが、この沈黙に満ちた恐怖の食卓、その有り様を目にすると、むしろそれは、せめてもの幸いであるように思えた。 とてもじゃないが晩餐会とは呼べない凍りついた食卓には、必死で場を明るくしようとするアズの喋りと、あくまで冷静を失わないセラの、的確な受け答えだけがあった。 他の面々は、基本、無言。 ビビはこんな場でも我関せずと、マイペースに食事を進めている。 ティアドラは興味深げに、食卓の面々を観察していた。 ミスティアは、場の空気にすっかり恐怖し、セラの隣で縮こまっている。 そして、この地獄のような、重い沈黙の元凶――。「……………………」 ――クインは、死んだように光彩の失せた瞳で空虚を見つめながら、葬儀でも浮かべぬであろう闇を纏って、静かに、機械的に、食事を進めていた
話は、リプカの元へ集った六人の婚約者候補が各々抱える、それぞれの事情についての詳説へ移行した。 フランシス個人の知見、その内実。リプカにとってこれ以上なく信頼のおける――真実の内訳ともいうべき参考意見である。「まずねー、エレアニカ連合セラフィア領域の娘、クララ、だっけ? 彼女、ガチだから」 だらしない格好で紅茶を飲みながら、フランシスはのんべんだらりとした態度のままに、特に感情を強調するでもない、ただの世間話のような口調でそう切り出した。 リプカは目を見開き、どきまぎに押されて息を上気させながら、鼓動する胸をおさえた。「そ、そう……」 口にした声は震えている。 ――真実の内訳と表現してもいい、参考意見。 心の底から嬉しく思い、思わず未来を想像してしまったほど浮かれていたとはいえ――どこかでは、その唐突な奇跡に対する疑心もあったのだろう。 都合の良すぎる奇跡であると、心の片隅では。 私なんかに……。 その疑心が溶けたとき芽吹いたのは、雪解けを待ち、歓喜と共に背を伸ばす若草のような、力強く青々とした感情だった。「もうほんとしつこかったかんね。実はさあ、縁談禁止令を解いた理由の大半も、あの女にあるんだよね」「――え?」「ぜひ、リプカ様との縁談の許しを、つって、何度も頭下げてきてさあ。何回あったっけ、途中で私マジギレ一歩手前までいったかんね」 暴君じみた口調とは裏腹に、フランシスの表情は穏やかだった。「そしたら、どうしてお姉さまを好きになったか、とか、私は如何にリプカ様を愛するか、とか、滔々と膝を折りながら熱弁してきて。プチギレとうんざりを通り越して納得してきちゃって。目を見ても本気だったし……そのうち、さ。……まあ、そんな感じ」「……そう。そうだったの」 瞳に涙を浮かして――リプカは俯きながら、呟いた。(……。…………。……………………)(私を、好いてくれる人がいた) クララを想いながら、リプカは頬を伝いそうになった滴を拭った。 そんなリプカをちらと見て――フランシスは、一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべた。「まあ後は、はっきり言ってお国の事情ね」 瞬間で表情を戻して、フランシスは話を続けた。「アルファミーナ連合の目的は、婚約と
両親への挨拶もそこそこに、フランシスは自室へリプカを招き、二人きりで、テーブルを挟んで向かい合った。 綺麗に整頓の行き届いた部屋。しかし長い間留守にしていたためか、僅かながらに人間味に欠ける空気感……私室であるのに、倉庫に似た乾いた印象を受ける。「それで、フランシス」 その空気に僅かばかりの寂しさと心細さを覚えながら、温かい紅茶を一口頂くと、リプカは早速、話を向けた。「あなたの企みは関係しないということは分かったけれど――でも、今回の一連は、あまりにも急すぎる。いきなり、こんな示し合せたようにどっと押し寄せるなんて。なにか理由があるとしか考えられないのだけれど……」「あー、それね」 はしたなく円形のテーブルに頬をつき寝そべりながら、フランシスは呟くように漏らした。「まあ、それは私の判断が関係している」「判断?」「うん。実は、お姉さまへの婚約話はね、私のほうで全部塞き止めて、無いものにしてきたの」「そ、そうなの……?」「そー。お姉さまは婚約破棄を交わしたばかりで、自由になったばっかだから、まだそういうのは億劫かなーっていうのもあったし、お姉さまはできるだけ私の傍にいてほしいっていうのもあったしー」 おそらく後半の主張こそ主だなと感じながらも、リプカは驚いていた。 フランシスが、あのフランシスが、自身の意思――我儘を撤回するなんて。 お姉さまはできるだけ私の傍にいてほしい。 その言葉からリプカは、フランシスが最近、実家に寄り付く暇もなかったという事情を思った。傍にいれないから、いいかなと思った、ということだろうか……。胸の奥に痛みが走る寂しさを感じながら、リプカはそんな想像を巡らせたが――。 続いて口にされたフランシスの答えは、リプカにとって意想外の理由であった。「でもさー、お姉さまさー、…………私を助けてくれたじゃん? あのとき」 ――あのとき。 リプカはすぐに察した。 フランシスが自宅で刺客に狙われた、あのとき。 リプカが助けなければ歴史が終わっていた、あの場面――。 フランシスは、テーブルにべったり頬を付けながら、ここではないどこかを見つめるようにして、続きを語った。「あの時さー、お姉さまを私だけのものにするのは、
「ごきげんよう。お、お姉さま、お疲れーん。お久しぶりのハグ。――相変わらずちっちゃ!」「ほっときなさいな……」 街中でもよく見かける、いたって普通の外見を装った馬車に乗って、フランシスは現れた。 見る者を圧倒する佇まいで座についていたフランシスだったが、門の内で待っていたリプカの姿を認めると、微笑みと――僅かばかりの疲労の色を浮かべて、表情を和らげた。(やっぱり、相当な無理をしているのね……) いくらこの子といえど、無尽蔵ではない。 世間には意外に思われるかもしれないが――これまで幾度と見てきた、フランシス・エルゴールの、疲労の色。――しかしさすがに、今回ほど色濃い疲弊は始めて見る。 過労への心配、そこから見える世界情勢の不安、フランシスのこれから――。 そんな心配を胸の奥底に隠しながら、リプカはただフランシスにモフられ続けた。「ハス。ハスハス。――はー、お姉さま成分補充」「私から何らかの成分が漂ってるみたいな見出しはやめて……」 そう言いながらも、リプカは引っ付くフランシスの背に手を回し、軽く添えた手で優しく抱き留めていた。 ――ふと、フランシスの背後、馬車の中から、見知らぬ二人が姿を見せた。 一人は長身の男性。 一人は細身の女性。 二人は地に降りるとすぐさま、リプカに恭しく礼をした。――リプカもおずおずと、首だけの中途半端な礼を返した。(――護衛) 腰を折る二人をじっと見つめる。(男性はかなり腕が立つ。足周りの肉が特に、戦う形に発達している。女性は、緊急時の臨機応変に長けているタイプに見える。そして、暗器の扱いに長けた者の体つきをしている――)「スターップ、お姉さま」 自然と目の前に立つ者の分析に思考を割いたリプカへ、フランシスは不機嫌な声を投げかけた。「私が目の前にいるのに、他のことに思考を割かないで」「あ、ええ、ごめんなさ――いや乱暴者の考えじゃないの、それ」「なに? なーにー? ご不満がー?」「はいはい、今は目の前の貴方に集中するわね。――フランシス」「なに?」「何か、隠し事なんかしてない?」「――してないわ。何もないわよ」「そう」 リプカは笑顔になった。「なら、よかった」 その笑顔を見て、フランシスもまた、|屈託《
木立の隙間に挟まるようにして、彼女は身を隠していた。 隠す気もなく近付く足音に振り向いた彼女は、足音の主を認めると、牙を剥くように表情を険しくした。「そこでなにをしているのですか? ……クイン様」 敵対心を露わにするクインに物怖じすることなく、リプカは真っ直ぐな視線を彼女へ投げかけた。 蝋よりも青白い顔に煌々と灯る、燃ゆる瞳でリプカを睨むクインは、歯軋りの音を立てながら、腹の奥底からの声を漏らした。「どこにいようと私の勝手であろう。お前に指図を受ける謂れはない。この家の内ですら、まるで冷笑されるためだけに存在しているような、腫れモノ扱いを受けているお前には、特にな」 最後は蔑むように言いながら、クイン自身も冷笑を浮かべた。 そんなあからさまな見下しを受けても、リプカは表情を変えることなく鋭い視線を見つめ続けた。「他者がどれだけ私を蔑み見下そうと、私が貴方様にお伝えしなければならない忠告が無意味となる理由にはなりません。聞いて頂けますか?」「ほう? いったいなに――」 ――クインの言葉は萎むように消えた。 豹変したリプカの瞳を見つめてしまった瞬間、彼女から一切の余裕が剥奪されてしまったのだ――。「お伝えしたいことはたった一つ」 手の届く距離まで詰め、足腰の折れてしまったクインを見下ろしながら、リプカは平時と変わらぬ声色で先を続けた。「貴方様程度に遅れをとるあの子ではないでしょうが、ですがもし万が一、貴方様がフランシスに直接的な害意を向けた場合――私は貴方を決して許しません」 決して許しません。 リプカがそれを口にすると、クインの瞳が恐怖で揺れた。「クイン様。確認致しますが、貴方様がここにいたのは、あともう僅かでここを訪れるであろうフランシスを待ち伏せし、害意を及ぼすため――などではありませんよね?」「――――ち、違う! 違う……!」 必死に首を振るクインに、リプカはこくりと一つ頷いた。「ならよかったです。私の勘違いでした、ごめんなさい。――そう、しかし、今は国政的な理由の心配は、どうか捨ててください。私が貴方を許さないという、そのたった一つの事実にどうか注視してく
「あのさ、もしかして私どこかでミスティアちゃんと会ってたりする?」「ええ、私は貴方様のことを存じておりました、アズナメルトゥ様」「あーやっぱり? 最初から、私とどっちがリプカちゃんなのか見抜いてたもんね」「直接の挨拶はありませんでしたが、晩餐会でお見かけする機会がありましたね」「マジ!? ゴメン、覚えてないかも。どこのパーティー?」「アグアキャナルの立食会で。お兄様の代わりに顔を出しまして」「あー、あそこにいたんだぁ。ていうかアズナメルトゥ様じゃなくてアズでいいって! 畏まるような間柄じゃないっしょ? 言葉も固くしなくていいし」「ではアズ様で。これが私のデフォルトです。私のことはミスティとお呼びください」「んじゃ、ミスティ! ねね、今度ミスティゃんとも遊びに行きたいなっ。あっ、それとリプカちゃんとシィライトミア領域に遊びに行くとき、色々案内してほしい!」「いいですね。私もパレミアヴァルカ連合には足を運びたいと常々思っていたので、そのときは是非――」(この短い間で、とてつもなく仲良くなっている……!) セラとのファーストコンタクトを終え大広間から出ると、そこにはすっかり仲良しになったアズとミスティアの姿があった。「あ、リプカちゃん! ねっ、ねっ、どだった!?」「い、いえ、今回は顔合わせ程度のお話だったので、なんとも……。でも、楽しい一時でしたわ」 至極無難な返事を返しながら、リプカは周囲を窺った。(……見られている)「ん? どしたん?」「いえ、なんでも……。――ああ、あの、ミスティア様、セラ様は私のお母様の元へ、挨拶へ向かわれたようです。戻られるまで、しばし待ってほしいとのことで……」「分かりました、ありがとうございます」「んじゃ、もうしばらく三人で、リプカちゃんのお家探検する? リプカちゃんのお部屋とか見てみたい!」「ああいえ、ごめんなさい、私ちょっと向かうところがありまして――」「おっ、そかそか。どこ行くの?」「フランシスのところへ行ってまいります。まだ来てないようですが、まあ、出迎えなどでも」「そ、そか。それじゃ、わ、私たちもお出迎えに向かったほうがいいよね?」「――ああ、私一人で結構ですよ」 緊張が見て取れる、アズの若干焦った物言いに、リプカは珍しく、はっ







