明歩が壁に寄りかかりながら、足を引きずるようにして出てきた。彼女は明らかに中で外の騒ぎを聞いていたらしく、目元を赤く腫らし、今にも零れ落ちそうな涙を頬に浮かべていた。これは彼女の最大の武器だった。これまでなら、この表情を見せるだけで、浚介も春輝も即座に矛を収めていたのだ。「由紀子おばさま、浚介さん、春輝さん……」明歩は弱々しく口を開いた。声は涙にひどく湿っていた。「由紀子おばさまを責めないであげてください。全部、私のせいなんです。もし昨日、私が怖くて震えていなければ、春輝さんが浮き輪を私に渡すこともなかった。もし私がめまいを感じていなければ、由紀子おばさまが私の世話にかかりきりになって、瑠奈ちゃんを後回しにすることもなかった。何もかも、私のせいです。どうか警察を呼んで私を捕まえてください。私の命で紗凪と瑠奈ちゃんに償わせてください!」そう言いながら、彼女はわざとらしく膝から崩れ落ちるような素振りを見せた。私は、その陳腐な演技を冷ややかに見つめていた。いつもなら、ここで春輝が彼女を優しく抱き起こし、「お前のせいじゃない、紗凪の運が悪かっただけだ」と言うはずだった。浚介はいたわるように肩を叩き、「他人の責任まで背負い込むな」と言うはずだった。明歩は目を閉じ、いつものように誰かが手を差し伸べてくれるのを待った。けれど、1秒、2秒、3秒が過ぎても。誰も、彼女に手を伸ばさなかった。明歩は戸惑いながら目を開けた。その先にあったのは、冷たく、怒りに満ち、激しい憎悪すら滲ませた無数の視線だった。浚介が1歩前に出た。けれど彼女を抱き起こすのではなく、見下ろすようにその場に立ちはだかった。「あのとき、お前はひどく震えていたのか?」その声には、何の抑揚もなかった。明歩は反射的にうなずいた。「はい……水が冷たすぎて、低血糖もひどくて……」「だが救助艇が来る前、お前は2階のベランダにしっかりと立っていたよな」浚介は彼女を見据えたまま続けた。「指揮本部の人間から聞いた。お前が立っていた場所は、浸水の心配なんてない高さだったと。それなのに、なぜ俺に助けを求めて叫んだ?」明歩の顔からみるみる血の気が引き、狼狽して後ずさった。「私……水位がさらに上がってくるのが怖くて……」春輝が大股で歩み
Leer más