第21話 一歳二か月 怜司は、その夜になっても質問を決められなかった。 美月には言った。 一番聞きたいことを一つだけ考えておく、と。 けれど、いざ一つに絞ろうとすると、どれも捨てられない。 初めて笑ったのはいつか。 最初に口にした言葉は何だったのか。 夜泣きはいつまで続いたのか。 初めて熱を出した日は。 初めて美月を「ママ」と呼んだのは。 好きだった絵本は。 苦手だった食べ物は。 保育園へ初めて行った朝は。 昨日までなら、全部まとめて聞いていたかもしれない。 質問を整理し、時系列で並べ、抜けているところを埋める。 仕事なら、それが正しい。 だが陽翔の六年間は、調査対象ではない。 美月がそう言ったわけではない。 むしろ、写真を見せると決めたのは美月だった。 それでも怜司は、数百枚の写真を見たあとで、ようやく少し分かった気がしていた。 知りたいからといって、何でも一度に手に入れていいわけではない。 怜司は自宅の書斎でノートを開いた。 以前なら、聞きたいことを箇条書きにしただろう。 今日は書かなかった。 ただ、頭の中で何度も浮かぶ一枚の写真があった。 アルバムの中にあった、まだ幼い陽翔が家具につかまりながら立っている写真。 少し危なっかしく、足を大きく開き、真剣な顔をしていた。 その次のページでは、もう普通に歩いている。 その間。 陽翔が初めて、自分の足だけで美月のところまで歩いた日。 そこが妙に気になった。「……これかな」 怜司は一人で呟いた。 ◇ 翌日の夕方、美月は陽翔とスーパーにいた。「今日は何食べたい?」「オムライス」「この前も食べたでしょう
آخر تحديث : 2026-10-20 اقرأ المزيد