「一緒にご飯でも食べよう」私が診察室を出ると、高宮陸人(たかみやりくと)がドア枠に寄りかかっていた。どれくらい待っていたのだろうか。「レストランはもう予約してあるんだ、君の一番好きなあのお店だよ」私は半歩下がり、よそよそしく距離を置いた。「やめておくわ、今日は少し疲れているから、早く帰って休みたいの」彼はその場に立ち尽くし、少し呆然とした表情を浮かべた。まさか私に断られるとは思っていなかったのだろう。しかし、彼はすぐに気を取り直し、一歩近づいて少しトーンを落とした。「それなら、この近くで少し座って話さないか?久しぶりに会ったんだし」再び断ろうとしたら、陸人は私の顔色を窺いながらこう付け加えた。「ちょうどいい機会だし、少し話をしよう」私は少し考えてから、頷いた。「わかったわ」私がバッグを抱えて一歩先を歩き、陸人が斜め後ろからついてくる。私たちの間には、埋まらない半歩の距離があった。彼はなんとか話題を振ろうとしていた。「今日は忙しかった?」「まあまあね」「何度か電話したんだけど、出なかったね」「スマホ、マナーモードにしてたから」そんな素っ気ないやり取りが続いたあと、彼は口を閉ざした。私の冷たい反応に、少し戸惑っているのかもしれない。以前は、いつも私の方から話題を作っていたから。彼が一言喋れば、私は十の言葉を返していた。エレベーターが来て、私たちは前後に並んで乗り込んだ。陸人は私の隣に立ち、エレベーターの扉に映る二人の姿を数秒見つめてから、突然尋ねてきた。「いつ髪を切ったの?」「先月よ」「……気づかなかった」私は何も返さなかった。髪を切った日、私はインスタに自撮りを載せた。彼はいいねすら押していなかった。屋外の駐車場に着くと、陸人のグレーのSUVが見えた。助手席の窓が少しだけ開いていて、中に人の気配があった。見れば、シートに深く身を沈めた女が眠っている。彼女はクッションを抱きしめていた。私は足を止めた。陸人も当然それに気づいた。彼は明らかに動きを止め、こちらを振り向いて焦ったように弁解した。「誤解しないでくれ。予約したレストランが彼女の家の近くだったから、ついでに乗せてきただけなんだ。最初は彼女を送り届けてから君に会いに行こうと思
اقرأ المزيد