娘より義妹を選んだ夫と離婚して、御曹司の愛人になります のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 3

3 チャプター

第1話 娘の命より義妹を選ぶ夫

「人を救いたい? 俺の膝に座って、キスしろ」 聞き間違いかと思った。 東條恭介は応接用のソファに深く腰掛けたまま、真帆を見上げている。冗談を言った顔ではなかった。「……本気で言ってるの?」「助けてほしいと頼みに来たのはお前だろ」 恭介が自分の膝を軽く叩く。「嫌なら帰ればいい」 帰れるなら、最初からここには来ていない。 三年前、真帆はこの男との婚約を一方的に破棄した。家族が決めた相手ではなく、自分が愛した拓海と一緒になるために。 あの時の恭介に何を言ったのかも覚えている。二度と関わることはないと思っていたから、言いたいことを言って背を向けた。 そしてその婚約がなくなったことで、高槻家と東條家の協力関係まで途切れている現状。 真帆はその恭介に、今さら娘を助けてほしいと頭を下げている。 恥ずかしいとか、惨めだとか、そんなことを考えていられるならまだ余裕があった。 真帆はバッグの持ち手を握り直すと、恭介の前まで歩いていき、その膝に腰を下ろした。「これでいい?」「まだだ」 何のことかは分かっている。 真帆は一度だけ目を閉じ、恭介の唇に自分の唇を重ねた。 触れて、すぐに離れる。「……これで」「それがキスか?」 恭介は笑いもしない。「やり直せとは言わない。嫌ならそれで帰れ」「本当に、嫌な男ね」「今さら気づいたのか?」 言い返したところで何も変わらない。 ここで意地を張って困るのは真帆ではなく、娘である小春だ。 もう一度顔を寄せ、今度はすぐには離れなかった。近すぎる距離に恭介の呼吸を感じる。それでも恭介は真帆の身体に手を回すこともなく、真帆が離れるまでそのままだった。 顔を上げると、恭介と目が合った。「これがお前の選んだ男のすることか」 低い声と同時に、恭介の手が真帆の服の裾にかかった。 身体が強張る。 けれど、真帆はその手を払わなかった。 恭介の手はそこで止まる。 その言葉で、朝の拓海との会話を思い出した。 病院から小春に適合するドナー心臓が見つかったと聞かされた時、ようやく娘が助かるかもしれないと思った。 小春の病気が分かってから、何度その知らせを待ったか分からない。 なのに、その直後だった。「今回見つかった心臓、花音に譲ってほしい」 隣にいた拓海からそう言われ、真帆はしばらく返事ができなかった。
last update最終更新日 : 2026-10-10
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第2話 母親の座まで奪うつもり?

「なあ、小春。今度、花音をママって呼んでみな」 真帆は玄関の扉を開けた。「何を言ってるの?」 リビングにいた拓海が振り返る。 その隣には花音が座っていた。小春は何も分かっていない顔で、二人を交互に見ている。「おかえり。遅かったな」「今の、どういう意味?」「何って?」「花音さんをママって呼ばせようとしてたでしょう」 拓海は少し黙ったあと、小春を見た。「別にいいだろ。呼んでみるくらい」「よくない。小春の母親は私よ」「そんなことは分かってる」「分かってるなら、どうしてそんなこと言うの?」 花音が困ったように眉を下げる。「真帆さん、私からお願いしたわけじゃないんです。お兄ちゃんが勝手に……」「花音さんを責めてるんじゃないの」 真帆は拓海を見る。「私はあなたに聞いてるの。どうして小春にそんなことを言ったの?」「花音はもう子どもを産めないんだ」「……それは知ってる」「だったら、母親になりたいって思う気持ちくらい分かるだろ。小春だって花音には懐いてるんだし、ママって呼ぶくらいで何が変わるんだよ」「花音さんがそう思うことまで悪いなんて言ってない。でも、それと小春は別でしょう。この子を使って叶えることじゃない」「使うって言い方するなよ」「じゃあ小春はどう思うの? この子にとって誰が母親かを、大人が勝手に決めていいの?」「まだ三歳だぞ。そんな難しいこと考えてないって」「だからって、何をしてもいいわけじゃないでしょう」 朝は心臓を譲れと言われた。今度は、母親と呼ぶ相手まで拓海が決めようとしている。「朝のことだってそう。花音さんにも助かってほしいって、私も思ってる」「だったら——」「でも、小春が譲ることをあなた一人で決めないでって言ってるの」「俺だって二人とも助かってほしいよ」「だったら、どうして小春にだけ我慢させるの?」「小春にはお前がいるだろ」「……何?」「お前が小春についてるだろ。二人とも同時には見られない。今は花音に俺が必要なんだよ」「あなた、小春の父親でしょう?」「分かってる。でも小春にはお前がいる」「私がいるなら、あなたは父親じゃなくてもいいの?」「そんなこと言ってないだろ」「ママ……」 振り返ると、小春が胸元を押さえていた。「小春?」 顔色が悪い。 真帆はすぐに駆け寄り、小春を抱き上げた
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第3話 誘拐された妻を信じない夫

 小春が眠っているのを確かめてから、真帆は病室を出た。 熱は下がっていた。今すぐ容体が急変する状態ではないと医師からも聞いている。それでも病室を離れるのは不安で、看護師に声をかけてから何度もベッドを振り返った。 雅子からは、これ以上小春の治療費を出す必要はないと言われた。 昨日、恭介から渡された封筒はバッグの中にある。けれど、これからどれだけ治療が続くのかも分からない。 拓海はどう考えているのか。 それだけは本人から聞きたかった。 病院を出る前にもう一度電話をかけたが、やはり出ない。 花音から送られてきた写真が頭に浮かんだ。 昨日からずっと付き添ってくれていて。 まだ花音のそばにいるなら、直接会って話すしかない。 真帆は病院を出た。 タクシー乗り場へ向かいながら、もう一度だけ拓海へ電話をかける。 呼び出し音が続く。 出ないまま切れた。「すみません」 後ろから声をかけられた。 振り返ると、知らない男が立っていた。「はい?」 道でも聞かれるのかと思った。 次の瞬間、腕を強く掴まれた。「え――ちょっと、何?」 振りほどこうとしたところで、後ろからもう一人に肩を押さえられる。「離して!」 手からスマートフォンが落ちた。 拾おうとするより先に男が持っていく。すぐ横に止まっていた車のドアが開いた。「やめて! 誰か――」 口を塞がれた。 足を踏ん張っても、身体ごと車へ押し込まれる。 ドアが閉まった途端、車が走り出した。「何するの! 降ろして!」「騒ぐな」「娘が病院にいるの。戻らないと――」「黙ってろ」 低い声で言われ
last update最終更新日 : 2026-10-11
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