第11話 無能力者の審理官なんて認めない 月律審理官の設置が王城内へ正式に告示された翌朝、ミレイアの執務室の扉には、真新しい銀の札が掛けられていた。 ――王立法務院特別職・月律審理官。 黒い木板に銀文字で刻まれたそれを前に、ミレイアは朝から三度も足を止めてしまった。「四度目です」 後ろからニーナに指摘され、ミレイアは振り返った。「三度では?」「最初に廊下の角から眺めていらした分を含めて四度です」「見ていたのですか」「お仕えしておりますので」「そういうことまで見なくていいのよ」「では、次から見ていないふりをします」「それも少し嫌ですね」 ニーナは笑いながら、抱えていた書類箱を机の上へ置いた。 ミレイアも部屋へ入る。 昨日まで物置に近かった小部屋だったらしいが、急いで改装され、机と書棚、来客用の椅子まで揃えられていた。窓からは法務院の中庭が見え、暖炉には朝から火が入っている。 何より、自分の机がある。 その事実が、まだ落ち着かない。 セレス家にいた頃も帳簿整理や文書作成を任されることは多かったが、使っていたのは父の書斎の端に置かれた小机だった。 カイラスのために北境の資料を調べた時も、あくまで「未来の侯爵夫人として役に立つため」だった。 ここでは違う。 ミレイア・セレス自身の仕事として、この机が用意された。「変な気分です」「何がです?」「私の名前が書かれた仕事部屋があることが」 ニーナは不思議そうに首を傾げた。「お嫌ですか?」「まさか」 ミレイアは椅子の背にそっと手を置いた。
Last Updated : 2026-10-11 Read more