どうやら、私はよほど運がよかったらしい。奇跡的に一命を取り留めたのだ。「自己心拍が再開しました。ご家族に至急連絡を」目を開けたとき、看護師はちょうど私のスマホで2回目の電話をかけているところだった。スピーカーに切り替えると、父の声が流れ出した。「助かったんだろう?なら、パーティーが終わるまで待ってくれ。今日は絵凪の誕生日なんだ。一生に一度の大切な日なんだ。せっかくの誕生日パーティーなのに、家族全員で席を外すわけにはいかないだろう」「ですが、数分前に心停止を起こしています。至急、これまでの病歴について詳しく教えてください」看護師は苛立ちを抑えながら続けた。「血液凝固障害の種類は?長期的に服用している薬はありますか?」電話の向こうが、一瞬黙り込んだ。父は答えられなかった。代わって電話に出た母の声は、ひどく面倒そうだった。「あの子の病気、そこまで重くないのよ。小さい頃に一度検査しただけだから。恵利の言うことを真に受けないでね。昔から話を大げさにする癖があるのよ」医師はベッドの脇で検査結果に目を通していた。「ヘモグロビン値は5.8g/dL、腹腔内の出血も続いています。これでも重くないと言い張るんですか?」母は一瞬黙り、それから聞き返した。「じゃあ聞くけど、今はもう助かったんでしょう?」「一時的に、です」「じゃあ、そのまま様子を見ておいて。絵凪がもうすぐケーキをカットするところなの。お客様をお待たせしてるから、後で向かうわ」一方的に電話が切られた。看護師はスマホを握ったまま、しばらく下ろせずにいた。もう電話しないで、と私は伝えたかった。けれど気管内チューブがまだ抜けておらず、声にすらならない。左手を少し持ち上げるのが精一杯だった。手首には、ブレスレットがなかった。うっすらと白い圧迫痕が輪のように残っているだけだ。医師がそれに気づいた。「以前、医療情報を刻んだブレスレットをつけていましたか?」私は一度まばたきをした。それは細い金属製のブレスレットで、親指大のプレートには私の名前と病名、緊急時に必要な対応が刻まれていた。7歳で診断を受けたとき、母が用意してくれたものだ。「何かあったときにすぐ分かるように、外しちゃだめよ」そう言って、母は私の手首につけてくれた。今日の
Read more