彼の助けなど、私には必要ない谷口翔(たにぐち しょう)にプロポーズされた日、私たちは自分たちがとある運命に翻弄される物語の中にいると知った。
彼はこの物語の主人公。つまりは、ヒロインを救うために存在するのだ。
そして私はといえば、名前すら与えられていない、ただの脇役にすぎなかった。
だが、翔は目を真っ赤にしながら、私の手を引いて役所へと向かう。勢いのまま婚姻届を出すと、周りのことなど一切気にせず、私との盛大な結婚式まで挙げた。
彼は私を強く抱きしめてこう言った。
「日和(ひより)。運命なんてくそ食らえだ。俺が信じてるのは、お前を愛してるってことだけだから」
私たちは、誰もが羨む仲の良い夫婦だった。
こうして二人で幸せに暮らし、静かに老いていくものだと信じていた。
しかし、結婚して3年目のことだった。この物語のヒロインが酒に酔ったまま逆走し、狂ったようにバイクを飛ばして、まっすぐ私に突っ込んできたのだった。
反射的にハンドルを切った私は、ガードレールに激突した。
体は血だらけで、運の悪いことに、ガラスの破片が心臓に突き刺さっていた。鼓動のたびに命を削る激痛が走る。
助手席に座っていた翔は、呆然としていたものの無傷だった。
翔はなんとか車の中から這いずり出し、倒れ込んでいる相手を見た。その瞬間、彼の顔が真っ青になる。
「莉奈!」
その名前を聞いた瞬間、私は自分の体から血の気が引いていくのが分かった。
宮本莉奈(みやもと りな)。それがこの物語のヒロインの名前だったから。