月の下で、すれ違うふたり「一回百万円。俺が飽きたら出ていけ」
神谷蓮(かみや れん)は厚い札束を神谷美咲(かみや みさき)(旧姓:藤谷)の顔に叩きつけた。
美咲は黙ってかがみ、床に散らばった札を一枚ずつ拾った。
蓮は突然、狼のような勢いで飛びかかり、彼女の喉をつかんだ。
「美咲、お前はどこまで堕ちれば気が済む。金のためなら何だってやるんだな。
そんな見栄と金に取りつかれた女は、十八の頃に消えてればよかった」
蓮にとって、美咲はこの世でいちばん卑しい女だった。
金のために彼を捨て、金のために戻ってきた女。
蓮は知らない。七年前、美咲が自分の命を代わりに差し出したことを。
そのとき負った傷は深く、ずっと死と隣り合わせだった。
蓮が冷酷に踏みにじる日々の中で、美咲は静かに、自分の残された日数を数えていた。