動物好きの大学生・楓(かえで)は、ある日突風に巻き込まれて異世界に召喚され、そこで神子として半獣と交わって禍の病を癒す力を得て治癒しろと言われる。性体験のない楓の相手に、松葉(まつば)・常盤(ときわ)という男が宛がわれ、三人での行為により治癒力を得てそれぞれに惹かれていく。しかし、新たな病が発生し―――― 古の日本風の世界で獣人と繰り広げる三角関係BL!
View More――僕はただ、役に立てると思ったから、引き受けただけなのに……どうして、こんな事に……
首筋を這う舌先のぬるりとした感触に、|楓《かえで》は唇を噛んで絶えながら胸の中で呟く。望んでもいない事態のはずなのに、体は呼吸を乱して反応してしまうことにも戸惑いを覚え、唇を噛む。
「っふ……ん、ンぅ……」
「そう身を硬くするなよ、
「
松葉、と呼ばれた、楓に覆い被さるように重なっている、大柄で丸い耳を生やした男に、銀髪の三角の犬のような耳を生やした男が呆れたように言う。
すると松葉は、鼻白むような顔をして銀髪の男を睨み付ける。
「うるせぇな、
「神事とわかっているのならなおのこと、神子様を丁重に扱ったらどうです。神子様は花街の女たちとは違うんですから」
「丁寧にやってたら萎えちまう。こういうのは気持ちのままにするのが一番だ。こうやって……な」
常盤の言葉を受け流し、松葉が楓の首筋を甘噛みする。同時に、はだけた胸元を小さな飾りをつねり上げ、ピリリとした刺激を与えてくる。その様子を、松葉が嬉しそうに、欲情に染まった目で見つめている。
「ッあ、ンぅ! ッや、ああッ!」
「いい声だぜ、神子様。もっと聞かせてくれよ」
いままで感じたことがない刺激が、楓の体を絆す。頭ではそんなつもりはないと思っているのに、施されるそれらに抗う気力が削がれていく。イヤだ、と言いたいのに、口がつむぐのは喘ぐ言葉にならない声ばかり。
楓の頭を、膝上で抱えるように撫でている常盤の顔を見上げ、助けを求めてみても、彼もまた、松葉とは違った欲情に染まった目を向けてくる。
「……そんな目を、私に向けないでください……
呟かれる言葉の熱さは、楓を愛撫する松葉の吐息よりも高く、より一層楓を絶望的な恐怖に陥れていく。なんで、どうして、こんな事に――そう、幾度となく、誰にというわけでもなく問うても、答えはない。
(誰か……助けて……ッ!)
言葉にならない喘ぎ声をこぼす楓の口を塞いだのは、松葉か、常盤か。それさえも判別がつかなくなるほどに、楓は押し寄せてくる快楽の波に溺れていくのだった――――
神事ではないと意識するだけで、触れられるすべてが熱くなっていくのが不思議でならない。しかもそれはただ熱を持つだけでなく、そこからじんわりと甘く痺れていくのだ。「っは、あ、ン……ああッ、ンぅ、ッんん」「随分と艶っぽい声が出るようになったなぁ、楓さま……聞いてるだけで疼いてくるぜ」「ッは、ンぅ!」「ここをこうすりゃ……もっと啼いてくれるか?」 なぶられ赤く染まる胸元に、松葉が軽く歯を立てられ、楓は悲鳴を上げる。鋭くも甘味がある痛みが、じんと腰に響き、疼く。疼きはやがて腰の奥で熱を待ち受ける秘所を刺激し、楓を甘く啼かせた。 松葉の激しい愛撫に啼いていると、その口に常盤の唇が重なり塞がれる。幾度となく交わしてきた口付けの中でも、今宵の物は飛びぬけて濃密に感じられる。 長く絡み合う口付けのあと、そっと唇を離すと、交わる吐息までも互いに甘く熱い。向かい合う瞳がいつになくとろけて見えるのも、きっと互いの想いを知った上での交わりだからだろう。「愛らしい私の神子様……私にもその可愛らしい御声を聞かせて頂けませんか?」 艶めかしく囁く常盤の声にも、楓の肌は泡立ち震える。松葉が雄々しく猛る声色であるならば、常盤は身震いするほどの美声なのだ。 そんな声に捕らえられ、楓は一層四肢の力が抜けていく。身を預けるようにしなだれかかる楓を、ふたりはそっと布団に横たえた。 横たわる楓の口元から胸元にかけて常盤が捕らえ愛撫し、下肢を松葉が舌を這わせていく。胸元も後孔も、複数の箇所を同時に攻め立てられ与えられる快感が、これまでのどのセックスよりも激しい。「あ、ンぅ……ッく、あ、ンぅ、で、出う……出ちゃ……あ、ああッ」「ああ、遠慮なく気をやっちまいな、楓さま……もっともっと気持ち良くしてやるよ」「楓さまのお顔も、御声も、全て愛しいです……さあもっと啼いてくださいませ」「あ、ああッ! ッや、あ、ああ、ンぅ、ン、ンぅぅ……ッ!!」 松葉がきつく屹立の根元を握りしめていたせいで、射精することなく楓は極まってしまった。体を打ち上げられた魚のように
「何故……何故そのような悲しいことを仰るのですか……楓さまは、我々がお嫌いになられましたか?」「常盤……? 何言ってるの、そんなわけないじゃない!」 真実を確認するために述べたに過ぎないのに、まさか泣かれるだなんて思っていなかった楓は、慌てた様子で松葉に同意を求めようと振り返る。 しかし振り返った先の松葉の顔も同様に、ぐしゃぐしゃに涙にぬれて歪んでいた。それはまるで打ち捨てられた子どものように心許ない顔をしている。「……松葉? なん、で……」「なんでもなにもねえよ……楓さまが俺らを嫌いでこの世界から出ていくってのが、悲しくねえわけねえだろ」「そんなことない! そんなことないよ、松葉、常盤!」「じゃあ何でそんなことを言うんだよ!」「共に過ごした日々は無になると言うのですか?!」 腕に抱かれ、泣き叫ばれて、自分は何か思い違いをしているのではないかと楓は気付き始める。しかしそれをそうではないかと確信してしまうには、まだ言葉が足りない。いま食い違う解釈をしている事柄を、落ち着いて、涙を拭いて照らし合わせなければならないのだから。 楓はそれをゆっくりと紡ぎ出し、言葉にして問う。「じゃあ、僕は……神子様の御役目が終わっても、この世界にいて、二人と一緒にいてもいいの?」 一番といたかったことを言葉にし、差し出すと、二人は泣き笑いをしてうなずき、それぞれに答える。しかし言葉より先に、背後で尻尾が大きく揺れていることが、何よりも雄弁にその答えを表していた。「当たり前だろ、楓さま。俺が心からまぐわいてぇ、愛しい相手はあんただけだ」「当然です、楓さま。私が心よりお慕いするのは、あなた様だけです」 自分はどうなのだ、と言葉と視線を差し向けられ、楓はじっと二人の目を見つめる。色気のある垂れた金色の瞳と、涼しげで美しい青い瞳。どちら共にそれぞれの魅力と愛情を感じるからこそ、楓は二人と共にありたいと思う。この先も、ずっと。 だからその想いを、そのまま言葉にして返した。「僕は、この先もずっと、松葉と常盤と一緒にいたい。この世
「……楓さま? どうした? どっか痛ぇのか?」「楓さま? どこか具合が悪いのですか?」 二人の腕に抱かれながら、楓はいつの間にかはらはらと涙をあふれさせていた。胸が苦しくて痛くて仕方ない、しかしそれが、病気やケガでないことぐらいわかっている。どんな意味の痛みを孕んでいるのかもわかっているからこそ、楓は口にするのをためらう。「どうした、どうした。この腹黒狐にイヤらしい触られ方でもしたか?」「それはあなたでしょう、松葉。下衆な勘繰りをする狸にどうこう言われたくありません」ここにきていがみ合う二人の様子に、楓は、「違う、ちがうの……」と、涙交じりに答え首を振る。松葉が楓の目元を指先でやさしく拭い、常盤がそっと背をさすってくれても尚、胸の痛みも悲しみも癒える様子がない。 最初に枕を共にして怯えた時にも泣いてしまっていたが、その時と様子が違うことに二人も気づいたのか、小競り合いをやめ、ただじっと、楓の気持ちが落ち着くまで寄り添っていてくれた。 触れて撫でてくれる手のひらも指先も、時折頬に触れる尻尾も、全てが楓に寄り添うためにここにあるのだと思うと、たまらなく愛しい気持ちが胸に溢れる。溢れ出て口からこぼれ落ちそうになる想いを、伝えてしまいたくなる。 でもそれはできない、してはいけない。何故なら、楓はもうこの世界にいるための役割を終えてしまい、元の世界へ帰らなければならないのだから。(二人を困らせるだけのことを、言っちゃダメだよね……でも、何も言えないのも苦しいよ……) 元々が住む世界が違う者同士なのだから、惹かれてはいけないものなのではないだろうか。半獣と人間、神事として結ばれることはあっても、そこに恋情を混ぜることを許されないのではないだろうか。 これが三人で過ごせる最後の夜になる。交じり合える最後のひと時になる――そう考えるだけで、楓は苦しく、涙が止まらない。 でもそれも、楓の我儘なのだと思えば、堪えてないものにするしかない。なにより、松葉も常盤も、楓と恋情を絡めて結ばれたいと思っているとは限らないのだから。(……そうだ、これは僕の独り善がりだ。二人の気持ちが同じ
ひんやりとした何かが頬を撫でて気持ちがいい……薄っすらとした意識の中で感じるものに、楓は無意識に自ら頬を寄せる。もっと、と、呟いてもいたのか、そちらからも近づいてこられ、密着していく。 冷たいものに頬を寄せている内に、自分の体が火照っていることに気付かされる。どうしてこんなに体が熱いのだろうか……ぼやけたままの意識と、段々と輪郭を明確にしてきた視界をみつめながら楓は考え、そこに映り込んだ人影の名を呼ぶ。「……まつ、ば? とき、わ……?」 名を呼んだそれらは、楓の言葉にホッとしたように息をつき、やがて頬や額に触れてきた。「よく眠ってたな、楓さま。気分はどうだい?」「何か飲み物をお持ちしましょうか?」「ありがとう……いまは、何もいらないよ……」 熱いと自分でもわかる吐息交じりに答える楓に、松葉と常盤が弱く微笑みうなずく。二人が安堵している様子に、楓もほっと息をつく。 どうやら宴会場でしたたかに酔ってしまい、別室に運ばれたようだ。遠く賑やかな宴会場の声が聞こえはするが、この部屋自体はとても静かで、うす暗い。「随分呑まされちまってたみてえだな……気付けなくて悪かったな、楓さま」「無礼講とは言え油断していましたね……すみません」「ううん、そんなにたくさんは呑まされてないから……ちょっと、場に慣れてなかったのもあるのかも」 そう言いながら楓が身を起こすと、二人は揃って支えようと手を差し出してくる。両脇から抱きかかえられるようにして身を起こし、常盤が差し出す水差しで水分を補給する。ほんのりと甘いそれが火照る喉と体に心地いい。「ごめんね、折角の宴会なのに、僕のせいで抜けることになって……。もう大丈夫だから、戻っていいよ」「いいんだよ、みんな俺らの帰還にかこつけて飲みたいだけなんだから」「それよりも私は楓さまが心配ですから……お傍に、いさせてください」 それぞれから苦笑気味にそう言われ、楓はお言葉に甘えて二人にそのままいてもらうことにした。二人のあたたかな腕に包まれていると、無意識のうちに体に力が入っていたことに気付かされる
その晩は、三人が住まう屋敷の広間で大宴会が開かれた。ご馳走や酒など宴会の用意はすべて爺様が手配してくれ、楓たちは上座で整えられた会場で皆が杯を交わし、笑い合う様子を見守っているばかりだ。 集落ごとの長などが、酌をしに次々と席に訪れて楓たちに酒を勧めていく。二十歳を迎えているので、一応飲酒できる年齢ではあるため、楓もすすめられるままに杯を受け、ひと口、ふたくちほど口をつけている。それでも、頬が火照るほどに酔いが回ってしまうくらいに、訪れる者が多いのもあるのだろう。「本当に、神子様には感謝してもし切れませぬ。禍の病で妖力を失う者が後を絶たず、村は消滅するかという瀬戸際でしたので」「我が町も、お陰様をもって安寧を取り戻しつつあります。ワシからも礼を言わせてください」 そう言いながら盃に酒を注がれれば、楓は弱く笑ってそれを口にする。感謝の想いの込められた酒は確かに格別に美味いと思うが、いささか飲みすぎている気もする。 ちらりと隣を窺うと、顔色一つ変えずに、勧められるままに杯を空けていく松葉と常盤がおり、どちらもにこやかに客と談笑している。二人とも、こういう場に慣れているのだろう。仕事の上でも、年齢の上でも、楓よりうんと馴染んで見えし、実際二人は楓より五つも上だ。 それならば当然だろうか――そう、ぼんやりと考えていると、思考のように視界も揺らいでくる。まるで、水の中にいるようで、なんだか座っている足元もおぼつかないし、体もふわふわする。 一体何が……と、思っていたその時、「楓さま!!」と、誰かが叫ぶように呼び、楓の体が抱き留められた。「大事ねえか、楓さま」「我々がわかりますか、楓さま」 心配そうな顔をした松葉と常盤に交互に尋ねられ、楓は弱くうなずく。その様子にふたりは安堵したように息を吐いたが、表情は硬いままだ。 何が起きたのだと尋ねるより早く、楓を抱えた松葉が立ち上がり、そのあとに常盤が続く。「楓さまがお疲れのようだから、俺らで運んでくる」「ですので、会はこのままで。皆さん御歓談していてください」 そう、二人が大きな声で述べると、騒めき
「あったりまえよ。楓さまは向こうでもこっちでも、あの頃と変わりなくお優しいんだからな」「本当に、楓さまはあの頃のお優しくきれいな心でいらっしゃいますから」「あの頃……?」 まるでずっと昔にも会ったことがある様な爺様と松葉たちの言い様に、楓は困惑して二人を見上げる。金色の色気のある垂れ眼と、涼やかで美しい青い瞳が、慈しむような、懐かしいものを愛でるような眼でこちらを見つめている。 何故そんな目をするのだろう……そう、楓が呆然としていると、ふと、記憶のかなたから懐かしい両親の声が聞こえてきた。 ――だいじょうぶだよ、楓。狸と狐は不思議な力を持っているから、ちゃんと元気になるよ。 ――楓が愛情込めて手当てしたから、きっとすぐに元気になってくれるわよ。 遠い昔に、山にピクニックに出かけた時に、罠にかかった狸と狐を見かけたことがあった。手負いの野生動物だから、と、幼かった楓がその時できることはほとんどなかったが、付きっきりで見守っていたのだ。早く良くなりますように……そう、眼差しで二頭の体を撫でているつもりで。「え……じゃあ、あの時の、狸と狐って……」「ガキの頃の俺と常盤だな」 けろりとそう松葉が言うものだから、楓が目を丸くして驚いていると、常盤が苦笑して言葉の後を継ぐ。「幼い時分に、松葉と人間の世界へこっそり遊びに行ったことがあるんです。妖力を総動員すれば、向こうの世界に行けることを聞きつけて来たもので」「そしたらまあ、そこで俺らは獣用の罠にはまっちまってな……」「楓さまの御父上たちに助けて頂いたんですよ」 そうして一晩だけの約束で家に保護した際に、楓が二人に興味を示し、出来る限りの世話を焼いてくれたと言うのだ。 そう言いながら、二人は着物を寛がせ、肩を抜いてそこにある傷痕を見せてくる。薄く赤いギザギザとした線があるのみだが、確かに罠にかかった時のものと言える。「その時、神子様が二人に向けて下さったお気持ちが忘れ難く……この度お招きするに至ったと言うわけです」「そんな……僕はあの時は特に大したことはし
Comments