御堂社長、もう心は動かない再び小さな命を授かったと分かったその日。結城咲良(ゆうき さくら)は、愛する夫が別の女と「新しい家族」を築き上げている事実を知った。
相手はあろうことか、咲良自身が資金を援助してきた奨学生だった。
咲良が流産で我が子を失い、悲痛のあまり身を削るような思いで過ごしていたあの時期。
夫の御堂圭吾(みどう けいご)は、こともあろうに愛人との間にできた隠し子の誕生を盛大に祝っていたのだ。
咲良が心血を注いで築き上げた会社は、とうの昔にその愛人の手に落ちていた。
世界でたった一つだと信じて疑わなかった二人の愛の巣でさえ、圭吾はそっくり同じ家をあちらの家族のためにも建てていた。
それを知った瞬間、咲良の胸の内にあった愛はチリ一つ残らず消え失せ、胸いっぱいの憎悪だけが残った。
咲良は妊娠検査の結果を隠し、躊躇することなく離婚を突きつけた。
「咲良。今ここで泣いて謝るのなら、この離婚の話はなかったことにしてもいいんだぞ」
圭吾は傲慢な態度で言い放った。
咲良は振り返ることもなく、静かに背を向けた。「御堂さん。次は、役所で会おう」
それから、どれほどの時が流れただろうか。かつて妻を見下していた傲慢な男は、ついに屈服していた。
自立し、誰もが振り返るほど輝くばかりの美しさを手に入れた咲良を見上げ、圭吾は痛切な後悔とともに「どうかもう一度だけ俺を見てほしい」と哀願する。
だが、絵のように美しい咲良の顔には、ただ冷ややかな微笑みが浮かべるだけだった。「御堂さん。あなたのその言葉は、あまりにも遅すぎたわ。私の心が、もう二度とあなたではときめかない」