裏切りの鯛の煮付け結婚記念日、私、星野美羽(ほしの みう)は桐谷光希(きりたに みつき)に鯛の煮付けを買ってきてほしいと頼んだ。
妊娠初期のひどいつわりで、目の前が暗くなるほど吐き続けていたけれど、どうしてもそれだけは口にしたかった。
しかし、深夜に帰宅した彼の手には何もなく、「忘れた」と言った。
私は何も言わなかった。ただ、彼の襟元に、私のものではない長い髪の毛が一本ついているのをじっと見つめていた。
後になって、彼の職場の後輩である白石望愛(しらいし のあ)のSNSで、私が食べ損ねたあの鯛の煮付けを見た。
投稿にはこう添えられていた。【先輩がご馳走してくれた。私がこのお店大好きなの知っててくれて、超感動】
写真の中では、すらりとした綺麗な手が、優しく彼女のために魚の骨を取り除いてあげている。