崩れゆく七年間の夢半年前、夫・椎名尚季(しいな なおき)が見知らぬ女を組み敷いている現場を目撃して以来、星野しずく(ほしの しずく)は重度の潔癖症を患っていた――彼に少しでも触れられると、吐き気を催すほど気持ちが悪くなるのだ。
広々とした新居は、それ以来、冷たい牢獄へと変わった。
この半年、尚季は彼女に合わせるため、何をするにも何度も消毒を繰り返さねばならなかった。
夜の営みでさえ、幾重にも予防の措置を施し、決められた時間を一秒たりとも超えてはならない。
少しでも時間を過ぎれば、しずくは吐き気に全身を震わせ、なりふり構わず彼を部屋から追い出した。
それでも尚季は、文句ひとつ口にしなかった。
「俺が悪かった。少しずつ、埋め合わせをしていくから……」
何事もないように半年が過ぎ、潔癖症の症状も和らいできたのではないかと感じ始めた頃、しずくは尚季と和解しようと考え始めていた。
だがその矢先、書斎の外から、声を潜めて愚痴をこぼす尚季の声が聞こえてきた。
「お前は経験してないから分からないんだ。果物を渡すのに手袋をつけさせられて、ソファに触れば消毒液で三度も拭かされる。もううんざりだ!」