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彼のいない七日目

彼のいない七日目

By:  時の唄Completed
Language: Japanese
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白石家が破産の瀬戸際に立たされたあの年、父は取引として、私を白石恭介(しらいし きょうすけ)に嫁がせた。 あの時、彼には内村香苗(うちむら かなえ)という幼なじみの婚約者がいたなんて、私は知る由もなかった。 その後、父はスキャンダルに巻き込まれ、会社は破綻の危機に陥る。 なのに、恭介は香苗を家に迎え入れ、「彼女に盛大な結婚式を挙げてやる」と言い放った。 私は泣き喚きもせず、ただ黙々と荷造りを始めた。 すると恭介は冷ややかに笑って言う。 「そんな稚拙な駆け引き、もう通用しないぞ。まだ自分が向井家のお嬢様だと思っているのか?」 彼は知らない―― あの夜、酔っぱらった彼が書いた離婚届を、私がまだ持っていることを。 そして、あと七日もすれば、私は父と共にこの国を離れる。

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Chapter 1

第1話

父がグループ企業から海外支社へ飛ばされたその日、白石恭介(しらいし きょうすけ)は離婚したばかりの初恋の人を連れて帰ってきた。

彼は私の部屋に来ると、無表情で言い渡した。

「来週、香苗をここに住まわせる」

「これまで、俺は彼女にずいぶん迷惑をかけた。お前がどう思おうと、受け入れてもらう」

父は職場でのセクハラ疑惑に巻き込まれ、社長の座を降りたばかりだった。

なのに恭介は、一日たりとも待てないらしい。

私は顔を上げて彼を見た。

その目は真冬の氷のように冷たく、温もりの欠片すらなかった。

結婚して三年、私はとうとう彼の心の奥まで辿り着けなかったのだ。

慌てて顔を背け、胸の痛みを隠した。

「……うん、わかった」

どうせ、私はすぐにここを去る。

彼が誰を連れてこようと、もうどうでもいい。

恭介は少し意外そうだった。

唇を動かしたが、結局何も言わずに部屋を出て行った。

彼が私に多くを語ることなど、元々めったになかった。

彼が出て行くと、私は金庫を開け、宝石箱の奥から一束の書類を取り出した。

三年前、恭介が私に書いた離婚届だ。

そこには彼の署名と拇印がある。

役所で手続きするだけで、私と彼の縁は完全に切れる。

三年前のビジネスパーティーで、私は端正な顔立ちの恭介に一目惚れした。

それから三日も経たぬうちに、彼の家から政略結婚の話が舞い込んできた。

私はこれを運命の赤い糸だと思い込んだ。

――誰かが「内村香苗(うちむら かなえ)が嫁ぐらしい」と教えるまでは。

その日、恭介は泥酔して帰宅した。

私は酔い覚ましのスープを作り、書斎へ運んだ。

彼はデスクに突っ伏し、目を真っ赤にして、かすかに呟いた。

「絵里……」

胸がじんわり温かくなり、私は急いで近づいた。

すると彼は突然、机の上のグラスを掴み、床にたたきつけた。ガラス片が飛び散った。

私は全身が震え、二歩後ずさった。

普段は紳士的な恭介が、歯ぎしりしながら言う。

「向井絵里(むかい えり)……お前のせいだ」

「お前が俺を気に入らなきゃ、お前に社長の父親がいなきゃ……」

「俺は無理やりお前と結婚させられたりするか!香苗が他人のところへ嫁ぐのを、ただ見ているだけなんてありえるか!」

その口調には、憎しみしかなかった。

そうだったのか。

私が幸せだと思っていた結婚生活は、単なる私の独りよがりの幻想に過ぎなかったのだ。

その言葉が胸に刺さり、息が詰まった。吸うことも吐くこともできず、ただ涙が止まらなかった。

恭介はよろめきながら立ち上がると、ペンを取って離婚届に走り書きの署名をし、拇印を押した。

そしてその軽い紙を、私に投げつけるように渡した。

「お前とは離婚する。香苗を嫁に迎えるんだ」

彼は明らかに正気ではなかった。そんなことまで口にしたのだ。

私は感情を必死に押し殺し、声を震わせて言った。

「あなた、酔っている。そういう話はお酒が覚めてからにしてください」

私はかがんでその紙を拾い、振り返らずに部屋を出てドアを閉めた。

涙が糸を切った真珠のように、次から次へと零れ落ちた。

独り部屋に戻ると、夜風は冷たかったが、私の苦しみを吹き飛ばすどころか、より深く胸に刻まれた。

翌日、恭介が酔いから覚めると、彼はまた以前の礼儀正しい姿に戻っていた。

香苗のことは一言も触れず、私との離婚についても、二度と口にすることはなかった。

けれど私はあの離婚届を、化粧台の一番下にしまい込んだ。

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