情は深くとも、初恋には敵わない年明け、夫の賀川明輝(かがわ はるき)の教え子たちがわざわざ学校へ遊びに来て、彼が食事をご馳走することになった。
学生たちは口々に「先生」「奥さん」と親しげに呼んできた。
ただ、初めて私を見た時の視線にはどこか驚きの色が混じっていた。
個室で明輝が私の手を握ると、皆が一斉にひやかした。
「お二人、本当にラブラブですね。超羨ましいーー!」
私、桜庭柚月(さくらば ゆずき)は照れたようにうつむき、トイレに行くと言って席を立った。
すると、廊下で女子学生二人の話し声が聞こえてきた。
「さっきびっくりした!奥さんって水城澪(みずき みお)先輩かと思ったもん!」
「でも澪先輩にそっくりよね、入ってきた時、マジで見間違えるところだった」
私はその場に呆然と立ち尽くした。
澪が明輝の元カノだということは知っている。
けれど、実際に会ったことは一度もなかった。
冷たい水が手に当たるのを感じながら、鏡に映る念入りにメイクした自分を見つめていると、突然吐き気がこみ上げてきた。