風に散る霧、過ぎし日の痕病院でCRT、すなわち認知機能リハビリテーションを受けていた三浦夢乃(みうら ゆめの)は、警察から一本の電話を受けた。
「もしもし、三浦さん。ご主人の墜落事故による行方不明の件で、新しい情報が入りまして......」
その言葉を聞いた瞬間、夢乃は嬉しさと緊張で胸がいっぱいになり、点滴を乱暴に抜き取った。
目を赤くしながら、急いで警察署へ向かった。
しかし――
ずっと思い焦がれてきた、あの懐かしい横顔の傍らには、一人の女が立っていた。
「ねぇ、礼。私、まだお腹すいてるんだけど?いつまで仕事してるの?
早く帰って、私を満たしてよ?」
甘えるような声。
その奥には、明らかな挑発が滲んでいた。
一瞬で、夢乃の期待は奈落へ落ちていった。
彼は――
一年もの間、事故で失踪した夫の佐藤風雅(さとうふうが)ではなかった。
彼はその双子の弟、もうすぐ義妹の三浦茜(みうらあかね)と婚約するはずの男、佐藤礼(さとうれい)だった。
再び押し寄せる失望。
夢乃は、無理に引き抜いた点滴跡の、青紫に腫れた腕を押さえながら、ひとりで警察署を後にした。
視界が熱く滲むまま、暗い通路に歩みを進めたその時――
「風雅兄さん!」
茜の声が、静寂を裂いた。
夢乃は、その場に立ち尽くした。