LOGIN過職場の中心にいつもいる彼女は、男性社員とも分け隔てなく会話をしている。 そんな彼女の事は、誰もが好意を抱いており、私もまた、好意を抱いてる1人だった。 仕事もプライベートも充実してそうな彼女だったが、偶然、話を聞いてしまう。 彼氏いない、いたことない。と その一言から、彼女を見る目が変わってしまった。 見る目が変わった私と、何も変わってない彼女の話
View More白石さんは、ゆっくりと唇を離した。名残惜しそうに、でも追いすぎない距離。その加減が、相変わらずずるい。「……息、できてます?」からかう声。でも、目は真剣だった。「……できてません」正直に答えると、白石さんは小さく笑う。「ですよね」そう言いながら、わたしの額に額を軽く当てる。触れているのに、もうキスはしない。「篠原さん」静かな呼び方。「今の、どういう意味か」少し間を置いて。「分かります?」胸が、また強く鳴る。「……」言葉にしようとして、喉が詰まる。分かっている。分かっているのに、口に出すのが怖い。白石さんは、急かさなかった。代わりに、わたしの手を取る。指を絡めるほど近くない、でも離れない。「答え、今すぐじゃなくていいです」その声は、驚くほど優しい。「でも」視線が、まっすぐ向けられる。「確かめに来たってことは」指先が、きゅっと握られる。「もう、戻れないところまで来てるのは、分かってますよね」否定できなかった。わたしは、ゆっくりと頷く。「……はい」その一言で、白石さんの表情が少しだけ緩んだ。「よかった」それだけ言って、手を離す。離れた瞬間、少しだけ寂しくなる自分に、驚いた。「今日は」白石さんは、一歩下がる。「ここまでにしましょう」「……え」「これ以上は」軽く肩をすくめる。「篠原さんが、考える余裕なくなりそうなので」また、からかい。でも、どこか本気だった。「……ずるいです」同じ言葉を、また口にしていた。白石さんは、はっきり笑った。「知ってます」玄関まで送られる。靴を履きながら、胸の奥が落ち着かない。「……白石さん」呼び止めると、すぐに振り返ってくれる。「はい」「……」言いたいことは、たくさんある。でも、今は、ひとつしか出てこなかった。「……また、会ってもいいですか」白石さんは、一瞬だけ目を見開いてから、すぐに微笑んだ。「もちろん」即答だった。「そのために、待ってたので」扉が閉まる。夜の空気に触れた瞬間、ようやく息ができるようになる。帰り道、唇に残った感覚を、何度も思い出す。——確かめたかったはずなのに。確かめ終わってしまった気がして、それが少し、怖くて、でも。胸の奥は、不思議と静かだった。答えは、まだ言葉にしていない。でも。白石
白石さんは、わたしが何も言えずに立っているのを見て、少しだけ目を細めた。「……緊張してます?」「……してます」正直に答えると、白石さんは小さく笑う。「ですよね」一歩、近づいてくる。それでも、まだ触れない。「確かめたいって言いましたよね」「……はい」「じゃあ」白石さんは、わたしの前で足を止める。「逃げないでくださいね」そう言ってから、ゆっくりと手を伸ばしてきた。触れたのは、肩。強くない、逃げられる程度の力。それなのに、体が動かなかった。「……」白石さんの視線が、わたしの目から唇へと落ちる。その動きだけで、胸が大きく鳴る。「嫌だったら、今でも止めます」囁くような声。「……嫌、じゃないです」そう答えた自分の声が、思っていたよりも震えていた。白石さんは、その返事を聞いてから、ほんの少しだけ距離を詰める。額が、触れそうなほど近い。「じゃあ」一瞬の間。「……いきますよ」返事をする暇はなかった。唇が、重なる。軽く触れるだけ、じゃなかった。白石さんの唇は、確かめるように、ゆっくりと押し当てられてくる。逃げ道を塞ぐみたいに、でも乱暴じゃない。「……っ」息が、うまくできない。唇が離れると思った次の瞬間、また重ねられる。今度は、さっきよりも深く。白石さんの手が、肩から背中へと回る。引き寄せられて、距離が完全になくなる。キスが、長い。触れて、離れて、また重なって。そのたびに、息を奪われる。頭が、ぼんやりする。——考えたかったはずなのに。唇が触れているだけなのに、思考が全部溶けていく。白石さんは、焦らなかった。でも、迷いもなかった。まるで、「ここまで来るのを待っていた」みたいに。ゆっくりと唇が離れたとき、白石さんは、わたしの額に額を寄せたまま、低く言う。「……どうですか」息が、近い。「……」言葉が、出ない。胸が苦しいほど鳴っている。体が、熱い。それだけで、答えになってしまっている気がした。白石さんは、わたしの表情を見て、少しだけ満足そうに笑う。「その顔」親指で、わたしの唇の端をなぞる。「確かめに来た意味、ありましたね」「……ずるいです」やっと、それだけ言えた。白石さんは、静かに笑った。「でしょうね」もう一度、距離が縮まる。今度は、さっきよりも、迷いのないキスだっ
その日は、白石さんから何も仕掛けてこなかった。それが、いちばん落ち着かなかった。仕事は普通に終わった。首元も、誰にも指摘されないまま一日が過ぎた。なのに、心だけがずっと騒がしい。帰りの電車の中で、何度もスマホを見てしまう。——今日は、何もしません。——続きは、また今度。その言葉が、頭から離れない。家に着いて、コートを脱ぎ、ソファに座る。静かすぎる部屋。白石さんの声。視線。からかうような笑い方。考えないようにしようとしても、無理だった。スマホが震える。【ちゃんと帰れました?】画面を見つめて、少しだけ息を整える。【はい】すぐに既読がついた。【今日は、触ってないので】【安心してください】その一文を読んだ瞬間、胸の奥が、きゅっと縮む。安心しているのか。それとも、がっかりしているのか。自分でも、分からない。しばらく迷ってから、指を動かす。【……行っても、いいんですか】送信した直後、心臓が強く鳴った。——何を言ってるんだろう。でも、もう取り消せなかった。少しの沈黙。その数秒が、やけに長い。そして。【どうぞ】たった二文字。それだけなのに、胸が大きく跳ねた。考えるより先に、文字を打っていた。【じゃあ、今から行きます】送ってから、スマホを握りしめる。——どうして、行こうとしてるんだろう。白石さんに会いたい理由を、はっきり言葉にできない。でも、この気持ちが何なのか、確かめたかった。からかわれているから?触れられたから?それとも。彼女のことを考えると、胸が落ち着かなくなる、この感じ。それが何なのかを、知りたかった。上着を羽織り、鍵を手に取る。外に出ると、夜の空気が少し冷たい。白石さんの家までの道を歩きながら、何度も足を止めそうになる。でも、止まらなかった。——行くって決めたのは、自分だ。インターホンの前に立つと、指先が少し震えた。呼び鈴を押す。すぐに、扉が開く。「……早いですね」白石さんが、そこにいた。部屋着に近い服装。仕事のときより、ずっと無防備な雰囲気。「……すみません、急に」「いいえ」白石さんは、軽く首を振る。「来ると思ってました」その一言で、胸がまた騒ぐ。「……どうして」「顔、浮かんでたので」冗談みたいな言い方。でも、目は真剣だった。部屋に
その日の帰り道、わたしはずっと、首元を気にしていた。隠している。ちゃんと、隠しているはずなのに。——見られてる気がする。白石さんの視線が、まだそこに残っているみたいで、落ち着かなかった。駅までの道を歩きながら、今日一日を思い返す。触れられてはいない。でも、距離はずっと近かった。からかわれて、揺さぶられて。それなのに、決定的な一線は越えられない。「……ずるい」小さく、独り言が漏れる。家に着いても、すぐには落ち着けなかった。シャワーを浴びて、首元を洗う。鏡に映る自分を見て、息を止める。——やっぱり、ある。昼間よりも、少しだけ色がはっきりしている気がした。白石さんの声が、頭の中で蘇る。やっと気づいたんですね我慢、限界だったんですよ胸の奥が、じわっと熱くなる。「……何考えてるんだろ」相手のことなのか。自分のことなのか。布団に入っても、眠れなかった。白石さんは、どういうつもりなのか。からかっているだけなのか。それとも——。考えすぎて、答えが出ない。翌日。出社すると、白石さんはもう席にいた。こちらに気づくと、軽く会釈をする。それだけ。昨日までのからかいが嘘みたいに、普通だった。——あれ?少し、拍子抜けする。午前中、特に何も起こらなかった。距離も、視線も、いつも通り。逆に、それが気になってしまう。昼休み前、資料を届けに行ったとき。「篠原さん」静かな声で、呼ばれる。「はい」白石さんは、周りを一度だけ確認してから、少し身を寄せてきた。でも、昨日ほど近くない。「今日は」声を落として。「大丈夫そうですね」何が、とは言わない。「……何がですか」とぼけると、白石さんは小さく笑った。「隠すの」一瞬で、顔が熱くなる。「……もう、からかわないって言いましたよね」「言ってません」即答。「でも」白石さんは、わたしの表情を見て、少しだけ真面目になる。「昨日より、落ち着いてます」それは、褒め言葉なのか、観察なのか。「……それ、嬉しいんですか」聞いてしまった。白石さんは、一拍置いてから答える。「嬉しいですよ」はっきり。「篠原さんが、ちゃんと考えてくれてるって分かるので」その言葉に、胸が詰まる。「……考えさせてるの、白石さんですよ」思わず、本音が出た。白石さんは、少しだけ