結婚するだけで、何をそんなに慌てるの?婚約者が警察に連行され、私に身柄を引き取ってほしいと電話をかけてきた。
私が到着して初めて知った。彼が人と殴り合いをして捕まったのだと。
そして、その喧嘩の理由は、なんと彼自身が浮気相手として、現場を押さえられたからだった。
「俺はただ、幸与の身を案じて付き添っただけだ。幸与の彼氏は俺を信じてくれないが、お前は信じてくれるだろう?早く金を払ってくれ」
彼は薮井幸与(やぶい さちよ)を抱きながらそう言った。ベルトには引っかかったレースの下着が透けて見えていた。
かつての私なら、怒鳴り散らして詰問したに違いない。
だが今の私は、ただ平然と署名するだけ。
警官に彼との関係を尋ねられ、ペンを握る手が一瞬だけ止まった。
しばし考え込んだ末、ようやく口を開いた。
「私は彼の雇い主です」
署名を終えたあと、兄にメッセージを送った。
【例のお見合い、行くことにする……日取りは三日後にしましょう】