雪がやっと止んだ五年前。久我言継(くが ことつぐ)は、泣きながら私に頭を下げた。
「幼馴染の子供を、産ませてやってほしい」
私は頷いた。条件は二つ。
彼女を海外へ送り、二度と帰国させないこと。そして、久我家の財産の半分を、私に譲ること。
世間は私を罵った。金目当ての女だと。久我家の財産だけが欲しいのだと。
言継は、その子を守るためなら、久我家全体を敵に回すことも厭わなかった。
――そして、五年後。
私は隣市への出張で、迷子の男の子を保護した。警察署で、家族に連絡を取らせる。
警官が男の子の言った番号にかけると、あの忘れられない声が聞こえてきた。
「大丈夫だよ。怖くないからね、すぐパパが迎えに行くから」
三十分後。遥か彼方で商談中のはずの言継が、警察署に駆け込んできた。
ロビーの長椅子に座っていた私と、視線が合う。言継の動きが、止まった。
私は微笑んで、立ち上がる。
「言継、まさか浮気相手との間に子供までいたなんて。久我家の残り半分の財産、遠慮なくいただくわ」