父に選ばれなかった娘七歳の時、ピアニストだった母が癌で亡くなった。最期に彼女は私の手を握りしめて言った。
「美南、ママと同じようにピアノが大好き。大きくなったら、最高の舞台に立って、ママに演奏を聴かせてね」
それ以来、ウィーンの舞台に立ってピアノを弾くことが、私の人生そのものの夢になった。
だから七歳から、私は昼夜を問わず練習に打ち込み、毎日六時間以上ピアノを弾き、指も手首も傷だらけだった。
そしてついに二十一歳の時、私は頭角を現し、国内屈指のオーケストラのオーディションの機会を得た。
もし合格すれば、翌週にはウィーンでのニューイヤーコンサートに参加できるはずだった。
しかしその時、父が田舎から、私よりたった半年しか年下の妹を連れて帰ってきた。
父は彼女を実の娘のように可愛がり、私のピアノ室は彼女のダンススタジオに改装された。
兄たちは花のような彼女を気に入り、毎日自ら送り迎えまでしていた。
幼なじみの恋人でさえ、彼女の笑顔に心を奪われ、視線は無意識のうちに彼女に向かった。ついには私がオーケストラのオーディションに行く当日、彼は彼女のダンスレッスンに付き添うため、時間に追われる私を高架橋の上に降ろした。
「美南、君は夢を叶えるチャンスを一度失っただけだろ。知香は遅刻しちゃうんだから。
わがまま言わないで。彼女を送ったら、すぐに迎えに戻るから」
マイバッハが疾走して去る後ろ姿を見ながら、私は冷静にスマホを取り出し、タクシーを呼び、川口修平(かわぐち しゅうへい)に別れのメッセージを送った。
母の言う通りだった。男なんて、私が夢を叶える邪魔にしかならない。