春に届かない夜の風瀬戸恭平(せと きょうへい)の愛人が、私の前で我が物顔に振る舞うのはこれで九度目だ。私の心には、もはやさざ波ひとつ立たなかった。
私は視線を上げ、静かに恭平を見つめた。
「愛人を私の前に出さないと、何度も約束したはずだけれど」
恭平は鼻で笑い、さも当然だと言わんばかりの口調で言った。
「夢美はまだ若いから、少しばかり元気が有り余っているだけだ。
君は年上という立場なんだから、少しは包容力を持って理解してやったらどうだ」
彼は腕組みをして私を見下ろしており、その瞳には明らかな軽蔑の色が浮かんでいた。
彼が何を期待しているのかは分かっていた。私が涙を流し、ヒステリックに泣き叫び、二度とこんなことしないでって彼に懇願するのを待っているのだ。
だが、彼は誤算をしている。私はもうすぐ実家に帰るのだから。
彼のために自分を殺し、涙を流すことなど、もう二度とない。