愛は風と共に消え去った私が42度もの高熱を出しているのに、江口拓海(えぐち たくみ)は私を病院に連れて行く途中で急ブレーキを踏んだ。
ただ、彼の宿敵である木村寧花(きむら ねいか)が帰国したからだ。
彼は私のために仕返しをすると言い、私を道端に放り出した。そして赤信号をいくつも無視しながら、空港へ向かった。
拓海が私を深く愛しているのと同じだけ、寧花を激しく憎んでいると、誰もが口をそろえて言っていた。
何しろ、彼女のせいで私は子供を失い、もう絵を描くこともできなくなったのだ。
拓海は彼女のアトリエを壊し、寧花は彼のスポーツカーにペンキをかけ返した。
二人はやり返し合っていた。町中が騒動になり、3日間も大騒ぎが続いた。
私が目を覚ましたとき、二人が刃物を使ったと聞き、急いで駆けつけると拓海が目を赤くして低く唸っていた。
「寧花、逃げ出せると思うな!」
そうか。彼がここまで大騒ぎするのは、憎しみではなく、恐れからなのね。
彼が本当に手放せないのは、常に彼女だったのか。
そうであるなら、私は江口夫人の座など要らない。