今後、想いを馳せぬ「賀茂さん、もし偽装死サービスの予約を確定されるなら、こちらにサインをお願いします」
賀茂歓奈(かも かんな)は無感覚にスタッフの指先に従い、自分の名前を署名した。
「わかりました、賀茂さん。念のためもう一度確認させてください。あなたの偽装死の日程は1月16日で、今から半月ほど先です。差し支えなければですが、その日はご予定がありますか?」
歓奈は微笑みながら顔を上げ、スタッフを見つめた。
「出産予定日です。私、その日に死にたいんです。お願いします」
そこを出てしばらくすると、歓奈のスマホが鳴った。
彼女は画面に表示された名前をじっと見つめ、何度も着信音が鳴り響くのを聞いた後、やっと通話ボタンを押した。
「歓奈、どこに行ったの?今どこにいる?どうして電話に出ないの?びっくりさせないでくれよ」
米村誉(よねむら ほまれ)の切迫した声が電話越しに響き、次々と質問が飛んできた。
歓奈は淡々と口を開いた。
「スマホをマナーモードにしていたので、聞こえなかったの」