愚かな裏切り者と冷徹当主の寵愛空港での迎え。そこで私は二年間も結婚から逃げ出し、義妹に付き添ってA国でサファリ旅行に興じていたはずの工藤健二(くどう けんじ)と鉢合わせした。
私はサングラスをかけていたが、彼の方は人混みの中で一瞬にして私に気づいた。
「梨花、君を娶りに戻ったよ」
私はレンズ越しに戸惑いの視線を送った。「どちら様でしょうか?」
健二は困ったように笑った。
「ほら、いい子だから機嫌を直せよ。わざと結婚から逃げ回っていたわけじゃないんだ。美月がどうしても写真に収めたいって聞かなくてね。俺にとってはたった一人の妹なんだ。甘やかしてやるのは仕方ないだろ?
ようやく二年にわたる撮影を終えて、婚約を果たすために急いで帰国したんだ!」
目の前に立つ、日焼けして痩せこけ、白い歯を覗かせるこの男がかつての婚約者であることにようやく気づいた。
けれど……
まさか誰も彼に教えていないのかしら。彼が結婚から逃げ出したまさにその日、私、浅井梨花(あさい りか)が彼の叔父に嫁いだっていうことを。