苦海に浮かび沈みても、君は渡らず姉が亡くなったあと、私は彼女の身代わりとして義兄と「契約結婚」した。
五年間、私は彼女の遺児――水野琢也(みずの たくや)を育て、従順でおとなしい専業主婦をしてきた。
八歳になった琢也の授業参観に出席したその日、彼は私を階段の上から強く突き落とした。
そして怒鳴りつけた――
「この悪女!母さんがまだ生きてたときから、あんたは父さんを誘惑してたんだろ!今さら善人ぶっても無駄だ!
神崎恵里(かんざき えり)め、絶対に父さんと本物の結婚なんかさせない!さっさとこの家から出て行け!」
まわりの人々が指さしてひそひそと囁いた。
私は数えきれないほどの蔑みと嘲りの視線を越えて、琢也を見つめ返した。
彼は私が心を込めて選んであげた服を着て、まるで小さな王子のように高慢だ。
この五年間、私が手塩にかけて育てた子――
その瞳には、軽蔑と憎しみしか映っていなかった。
私は静かに彼を見つめ、穏やかに言った。「……あなたの望みどおりにするわ」