記憶に残っている転機として真っ先に浮かぶのは、『空色の軌跡』第10話だ。前半の柔らかい語り口から一転して、感情の揺れが表情と行動に直結する瞬間が訪れる。そこまでは無難に流されることが多かった
水無瀬が、自分の価値観と周囲との摩擦を突き付けられて、初めて言葉で境界線を引く場面が強烈だった。
画面構成と台詞の間に隙間ができたことで、これまでの積み重ねが一気に意味を帯びる。以前は頼みごとを断れずに疲弊する描写が続いていたが、この回では決断の瞬間が遅すぎても早すぎてもない“ちょうどいい”タイミングで訪れた気がする。私はその瞬間、彼の中で何かが“変わった”というよりも“姿を現した”と感じた。
後味は決して爽快ではないけれど、成長の真実味があった。以降のエピソードで見られる微妙な自己主張や他者への配慮は、この第10話が核になっていると思う。観るたびに細部が響く、個人的に忘れがたい回だ。