鏡花水月に咲く愛橘夏織(たちばな かおり)は新堂拓海(しんどう たくみ)の臨床心理士として出会い、やがて恋人となった。
ふたりの熱くロマンチックな愛は、誰もが羨む理想のカップルだと称賛されていた。
だが、拓海が白石家の令嬢との婚約を発表したその瞬間、夏織はようやく悟る。
かつて自分のために肋骨を三本も折って守ってくれた、あの少年はもうどこにもいないのだと。
恋にすっかり絶望した夏織は、静かに彼の前から姿を消す。
――それから時が経ち、拓海はようやく気づく。
本当に自分が婚約しようとしていた白石家の令嬢は、最初から「他の誰か」ではなかったことに。
けれど、そのときの夏織の隣には、すでに別の男性がいた……